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RE:三人目の恋




――――――――――



 僕には好きな人がいる。

 けれど、どうしても伝えられない理由がある。



――――――――――



 学年末テストの結果が出て高校一年の修了式が終わり、いつもの五人で集まろうと誘われたけれど、少し用事があるからと言われたので一度下校してから後で落ち合うことになった。


 筈だった。


(あれはミツル希望ノゾミ?)


 修了式は告白シーズンの真っ盛り。僕も例に漏れず同級生や先輩方から校舎裏に呼び出しを受けてそれを丁寧に断ってきた帰りなのだが。

 用事があると言っていた二人が僕のいる校舎裏に向かってくるということは……。


(緊急ミッションか、面白い。さてターゲットから気づかれずに監視できそうな場所は)


 幸いまだ二人には見つかっていない。

 僕は気配を殺しながら素早く移動して中庭の植え込みの中に忍び込み、二人をじっくりと観察。もとい、監視することにした。

 ステルスゲームで鍛えた腕前をご覧に入れようではないか。

 違うな、ご覧になられたら失敗だし。


(二人ともガチガチじゃないか、視野も狭くなっているようだ。おっとこれは楽勝かな?)


 僕は持ち前の柔軟性を活かして身体を折りたたみ、二人からは見えない位置取りを確保した。

 しかし少しばかり安全マージンを取りすぎた。ここからでは何を話しているかまでは聴き取れない。


希望ノゾミ、まさか告白? でも……)


 ふわふわの栗色の髪と朗らかな笑顔が印象的な希望ノゾミは、高校に入ってから気になっている女子だ。可愛い。

 ミツルは僕よりも高身長で体格も良く野球部の期待の星らしい。けれど僕達にとっては明るくて気さくでちょっと天然気味な友人である。


 ガサッ


 二人を観るのに夢中になって後ろに気を配っていなかった。

 そこに居たのは友人のアキラ。いけない、見つかってしまう!


アオイ……?」

「しーっ」


 咄嗟に手を伸ばして自分のいる植え込みに引きずり込んでしまった。

 自分より一回り小さくてまるで女の子みたいに線の細い少年、いや美少年が慌てている。

 僕は知っている。彼は恋する男子高校生、しかも自分と同じく高校からの友人の希望ノゾミが気になっているらしいのだ。


「僕としてもアキラの意思は尊重したいところだが、まだそうと決まったわけではない。はやる気持ちは分かるが時期尚早だよ」


 心臓バクバクである。半分は自分に言い聞かせるようにして小声で彼にも冷静になるように言った。

 アキラは緊張した表情でコクコクと頷く。


(まつ毛長っ、腰細っ! こうして見ると女子にしか見えない。頭バグりそう……!)


 落ち着け、落ち着くんだ僕。

 見た目は女の子だけどれっきとした男子。頭では分かっていても不意を突かれるとどうしても意識してしまう。


「えっ。あれってミツル希望ノゾミに告白」

「そんな馬鹿な話があるか。お父さんは認めないからな」


 僕はいつから希望ノゾミのお父さんになったのだろう。

 でも希望ノゾミを取られるのは嫌だし、きっと世のお父さん達は皆そうに違いない。


「そうですよ。それはいけません」


 いつの間にかアキラを挟んでもう一人の友人が植え込みの中に入ってきていた。

 声だけで美人を想像してしまう魅惑のボイスにドキッとしてしまう。


「うわ、ハルまで何でここに?」


 アキラにとっては背後から声を掛けられたのだ。慌てた様子で振り返る。

 かく言う僕はハルを至近距離で直視できない。烏の濡羽色の長髪が綺麗な和美人。

 僕とアキラハルは家族ぐるみで付き合いの長い幼馴染同士なのだ。


「理由は、お二人と同じですよ」

「え、え?」

「静かに、気づかれたらまずい」


 自分よりも混乱しているアキラを見ていたら少し落ち着いてきた。


「おのれミツル。抜け駆けとは許せん」


 僕達に黙って希望ノゾミへ告白をしている裏切り者のミツルに恨みがましい視線を送る。

 ただの覗きだけど。


アオイ希望ノゾミが好きなのよ」


 ハルに暴露された。何もアキラの前で言わなくてもいいじゃないか。

 赤くなった顔を見られたくないので必死に告白現場に集中しているフリをする。


「そしてミツルアキラが好きなのよ」


 え、ウソ、マジで? 全然気が付かなかった。

 いや今そこでミツル希望ノゾミに告白してるじゃん。

 ハルの妄想じゃん、それ!


「あの二人、ホッとした顔をして楽しそうにっ」

「駄目よ。アキラ、何ボサッとしてるの。愛しのミツルが取られてしまうわ」


 ミツル希望ノゾミは明らかにさっきまでの緊張した面持ちから解放されていた。後ろに意識を持っていかれてる間に何があった!

 よし、今すぐミツルを問い詰めよう。


「そうだアキラ。君がミツルを攫って、その間に僕が希望ノゾミを攫えば万事解決じゃないか。赤信号、二人で渡れば怖くない」

「いやいやいや」


 我ながらナイスアイデア。


アキラミツルが嫌いなの?」

「そんな事は無いよ」


 そうだぞハル

 アキラミツルは清い関係だ。そうだよね?


ミツルと一緒に居ると楽しいでしょう?」

「うん」


 え、アキラって僕と一緒に居るよりミツルと一緒の時の方が楽しいの?


「でも今のミツルを見てドキッとしたでしょう?」

「う、うん」


 ちょっと待って。否定しないの? 何で?


「ほらね」


 何が『ほらね』なのだろう。

 アキラってミツルに気があるの?


「て、手を繋いでるぞアキラ。けしからん!」


 ミツル希望ノゾミの手を取って笑い合いながら校門へと向かって行くのを観て、咄嗟にアキラの手を掴んでしまった。

 よく見ろアキラハルの言葉に惑わされてはいけない。ミツル希望ノゾミが好きなんだ。


「そんな……」「あらまあ」「何ということだ!」


 ミツルを見つめるアキラの表情が明らかに曇っていた。

 あの様子だと告白は成功したのだろう。

 本来ならば友人として祝福する場面なのだろうけど、今はこっちの方が大問題だ!


「緊急会議をするからアキラの部屋に集合しよう」

「ええ、こんな結末は誰も望んでいないわ」

「今から来るの?」

「どうした。エロ本でも出しっぱなしなのか?」

「そんなの無いから!」

「駄目よ不健全だわ。私が何冊か貸してあげる」

ハルのは腐教用ふきょうようだよね? むしろ不健全だよね?」


 アキラもだけど、ハルとはもう一度ちゃんと話し合わなければならない。




――――――――――




 僕には好きな人がいる。

 でも、どうしても気持ちを伝えられない理由がある。


 一人目は幼馴染の美少年。見た目は女の子だけど心は健全な男子。

 二人目は幼馴染のお嬢様。でも既に告白して断られている。


 もしアキラに告白しても、きっと断られるだろう。それで今までの関係性が壊れてしまうのはとても怖い。


 だから三人目を好きになるしか無かった。

 でも彼女は友人の恋人になった。


 五人の中で僕だけが異常だ。医者からも性同一性障害だと診断されている。

 ハルは告白しても関係性は壊れないような気がした。だから勇気を振り絞って告白したんだ。見事に玉砕したけど。


 けれどアキラはとても繊細だ。きっと断るだけでも心に大きなダメージが残るだろう。

 それなら言えない。僕は自分の失恋よりもそんなアキラを見るのことの方がきっと耐えられない。


 だから、僕はこれから四人目を好きになる努力をしないといけないんだ。


 僕にはもう、好きな人がいるのに……。








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