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RE:RE:三人目の恋



――――――――――



 私には好きな人がいる。

 でも、どうしても気持ちを伝えられない理由がある。



――――――――――



 高校一年生最後の日。幼馴染の彰《アキラ》が皆で集まって遊びに行こうと声をかけたのに他の三人は用事があると言うので、今日は二人きりで過ごせると喜んだのも束の間。

 用事はすぐ終わるらしく、一度下校してから再集合になった。


 生徒会室で暇をつぶした帰りに廊下の窓から校舎裏を見下ろすと見知った顔が目につく。


(あれは葵《アオイ》と、あの男子は確か二年生のサッカー部主将の……)


 もう一人の幼馴染の葵《アオイ》はとにかくモテる。

 日本人離れしたモデル体型と快活な印象のやや中性的な顔立ちの王子様然とした美少女で男女問わず人気がある。本人はいまいち自覚が足りないのか、人気者オーラを隠そうともしないからたちが悪い。

 先日も卒業生達から告白されていたのに全く懲りてないし。


『僕は春《ハル》が好きだから』


 あの日私に言った言葉を、今はそっくりそのまま断りの文句に使っている。

 許可をしたのは私だけどやっぱり少し腹立たしい。


「嘘つき……」


 端正な顔で笑って誤魔化して、好きでもない相手を気遣うフリをして。

 そんなことが遅れる用事だなんて、私には葵《アオイ》のしていることが全然理解できない。


(あら、光《ミツル》と希望《ノゾミ》じゃない)


 視界の端で用事を済ませた葵《アオイ》が二人に気がついて隠れるのが見える。

 貯まったフラストレーションを発散するために少しからかってやろうと思いつき、すまし顔の仮面を張り付けて階段を降りて行った。


(これは、気づいてるわね)


 校舎から出る時にチラッと希望《ノゾミ》と目が合う。そのままどうぞと目で促すと少し微笑んでから光《ミツル》との会話に戻る。

 男子から見ると庇護欲をかき立てるように見えるみたいだけど、実際は結構したたかだ。


「僕としても彰《アキラ》の意思は尊重したいところだが、まだそうと決まったわけではない。はやる気持ちは分かるが時期尚早だよ」


 植え込みを見ると葵《アオイ》は器用に身体を折り曲げた体勢で彰《アキラ》の腰に手を回していちゃいちゃしていた。

 希望《ノゾミ》に気づかれてるとも知らずに呑気なものである。


「えっ。あれって光《ミツル》が希望《ノゾミ》に告白」

「そんな馬鹿な話があるか。お父さんは認めないからな」


 葵《アオイ》はちょっとおバカな所が玉に瑕だけどね。今も丁度おバカなことを言っていた。

 葵《アオイ》は心が男のイケメン女子。彰《アキラ》は目も覚めるようなオトコの娘。

 こうして並んでいるととても絵になる。まるで美麗なスチル画みたい。

 尊い……。

 おっと今のは危なかった。尊死するにはまだ早い。


「そうですよ。それはいけません」


 後ろから忍び寄って彰《アキラ》の耳に息がかかるように優しく囁く。

 ブルっと震える姿に満足して、驚きの表情で振り返るのを澄ました笑顔で出迎えた。


「うわ、春《ハル》まで何でここに?」


 彰《アキラ》が耳を赤くしながら聞いてくる。ああ、その愛らしい仕草をじっと眺めていたい。

 けれどそれはまた後で。

 対して葵《アオイ》は目が泳いでいて視線を合わせようとしない。


「理由は、お二人と同じですよ」

「え、え?」

「静かに、気づかれたらまずい」


 本当はもうバレバレなんだけどね。しばらく二人の覗きごっこに付き合うことにした。

 気を抜くと口元がニマニマしそうになるのをぐっと堪える。


「おのれ光。抜け駆けとは許せん」


 あれは光《ミツル》が告白するように私と希望《ノゾミ》で誘導してきた結果だ。

 真剣な眼差しで見つめる彰《アキラ》の横顔から、希望《ノゾミ》を意識していたのが分かる。


「葵《アオイ》は希望《ノゾミ》が好きなのよ」


 やっぱりという顔で葵《アオイ》を見つめる彰《アキラ》。

 その視線から逃れようと食い入るように光《ミツル》達を見つめる葵《アオイ》。

 そんなに分かりやすい反応をされると、ついからかいたくなってしまう。


「そして光《ミツル》は彰《アキラ》が好きなのよ」


 真剣に考えるような表情の葵《アオイ》。

 首を傾げている彰《アキラ》。

 私の言葉の一つ一つに反応する様子はいつ観ても飽きない。


「あの二人、ホッとした顔をして楽しそうにっ」

「駄目よ。彰《アキラ》、何ボサッとしてるの。愛しの光《ミツル》が取られてしまうわ」


 私の言葉に困惑の表情を浮かべる彰《アキラ》。

 この反応、まだよく分かってない。

 光《ミツル》と希望《ノゾミ》の話はついたみたいでいつもの表情に戻っていた。あれだけお膳立てしたのだから成功して貰わないと困る。


「そうだ彰《アキラ》。君が光《ミツル》を攫って、その間に僕が希望《ノゾミ》を攫えば万事解決じゃないか。赤信号、二人で渡れば怖くない」

「いやいやいや」


 また葵《アオイ》がおバカなことを言っている。危ないから赤信号は一人で渡ってきなさい。


「彰《アキラ》は光《ミツル》が嫌いなの?」

「そんな事は無いよ」


 彰《アキラ》には同性の友人が少ない。半分は葵《アオイ》のせいだ。


「光《ミツル》と一緒に居ると楽しいでしょう?」

「うん」


 けれどもう半分は私のせい。光《ミツル》の存在はやや内向的な彰《アキラ》には救いだったと思う。

 ちゃんとした男友達を持つのは彰《アキラ》には必要だったんだ。


「でも今の光《ミツル》を見てドキッとしたでしょう?」

「う、うん」


 これからの光《ミツル》は希望《ノゾミ》との時間を一番大切にする。その意味が分かっているのかしら。


「ほらね」


 だから光《ミツル》をだしにしてでも自覚させないといけない。誰かを自分の一番にすることの意味を。

 決して希望《ノゾミ》では彰《アキラ》の一番にはなれなかったことを。

 それが分からない内は先へと進められない。


「て、手を繋いでるぞ彰。けしからん!」


 誰かさんは自覚があるのか無いのか、どさくさ紛れに彰《アキラ》の手を強引に握って騒ぐ。

 光《ミツル》と希望《ノゾミ》の二人は校舎裏から校門へと仲良く歩いて行った。


「そんな……」「あらまあ」「何ということだ!」


 彰《アキラ》の手が白くなるほど握る葵《アオイ》を見て頭が痛くなる。

 もうちょっと手加減してムードを大切にしなさい。

 仲良しメンバーにカップルが出来たら残りのメンバーでくっつくのが定番でしょう。


「緊急会議をするから彰《アキラ》の部屋に集合しよう」

「ええ、こんな結末は誰も望んでいないわ」


 もちろん、あれは計画通りである。会議《せっきょう》が必要なのは葵《アオイ》、お前だ。


「今から来るの?」

「どうした。エロ本でも出しっぱなしなのか?」


 何ですって、それは興味がある。


「そんなの無いから!」

「駄目よ不健全だわ。私が何冊か貸してあげる」

「春《ハル》のは腐教用《ふきょうよう》だよね? むしろ不健全だよね?」


 誤解ですね。これは恋愛の教科書です。




――――――――――




 私には好きな人がいる。

 でも、どうしても気持ちを伝えられない理由がある。


 一人目は幼馴染のオトコの娘。でもまだ恋愛感は未成熟。

 二人目は幼馴染のイケメン女子。こっちはほぼ本能だけで恋してる。ポンコツだけど。


 もし私から彰《アキラ》に告白しても、まだ受け入れ準備が整ってないから上手くいかないと思う。だから本人の口から言わせないと駄目。


 葵《アオイ》からはもう告白されている。でも本命に言えないから妥協で選ばれるなんて、受け入れたくても受け入れられない。

 悩んでいるのは知っている。同情もする。

 でもそれを言い訳にして甘えてくるなんて、本当に腹が立つ。


 私だって普通に恋愛したい。ずっと誰かの一番になりたいのに。

 その一歩目から妥協を許すなんて、そんなの出来るわけがない。

 好きな人の告白を断るのがどれだけ傷つくのかも知らないで。

 本当に本当に、腹立たしい。


 でも私は知っている。

 最初から彰《アキラ》と葵《アオイ》の二人だけの世界だった所に三人目の私が混じっただけ。

 余計な三人目の私がワガママを言ってるだけなんだって。

 そんな資格なんて無いのに。


 だけど今さら私も譲る気は無い。

 仕方ないじゃない、好きになっちゃったんだから。


 だから相思相愛の二人の間に割って入れるくらい私を意識させてみせる。

 私だけが二人を一番好きな今を変えてやるんだ。

 邪魔な常識なんてぶっ飛ばす。

 三人が三人とも自分の一番になるような、そんな円環の恋愛を成就させてみせる。必ず。


 光《ミツル》と希望《ノゾミ》の件はその手始めに過ぎない。

 希望《ノゾミ》は最初から光《ミツル》目当てで私達のグループに入ってきた。

 そのサポートをした見返りに、これからは彼女が私をサポートする約束になっている。



 私には好きな人がいる。

 これは私の、『三人目の恋』の物語だ。




――――――――――









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