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愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
11/37

愛二乗=ゼロ以上

 


 一年の2学期。くじ運の悪さで果穂子は学級委員に。

 同じく大君くんも。

 クラスの女子に羨ましがられたけどねっ、問題があるのよ!!





 大君くんと委員会の仕事でアンケートを集計していると遅くなった。

 秋から冬へと移り変わっているため、日の暮れるのが早い。

 その上今日は辞書を持ってきているため、鞄が重い!!

 恨むぞ、通学距離2Kmに満たなかった家!!

 隣の家は自転車通学なのに~。


「平田さん、暗いから一緒に帰ろう」

「そんな、いいわよ。私暗いのなんて全然平気だし」


 全然、と強調して断る。

 しかし、フェミニストの大君くんには通用しなかったみたいで。


「女の子なんだし、危ないよ。

 だから一緒に帰ろう。途中まで、だけどね」


 断る私に遠慮して途中までと言った。


「帰り道に本屋があるからそこに寄りたいんだ」


 本、本、本っていうと……。

 脳裏に浮かぶのは分厚い高尚そうな本。

 流石大君くんだなぁ。


「平田さん、平田さん、俺が買うの漫画だから」

「え?大君くんって漫画読むの?」

「普通にね」

「へぇー。大君くんって育ちがよさそうだから読まないかと思ってた」


 女の子の理想をゆく大君くんも人のようだ。

 なんだか親近感がわく。


「見事に誤解されてたね。っと、もうここまで来ちゃった」


 いつの間にか着いていた本屋の前でぴたりと止まる。


「じゃあ気を付けて」

「あははは、平田さんこそ気を付けて」


 笑って別れた。





 ああぁぁぁあああ、どうしよう。

 道が暗い。どうしようもなく暗い。

 先ほどまであった街灯は角を曲がると立っていないのだ。


 実は私、平田 果穂子は暗いの大っ嫌いです。

 でも意地っ張りな性格からつい嘘をついてしまうんです。

 本当は誰かと一緒じゃなきゃ、ろくに歩けないのにね!!

 でもそんなことを今更嘆いても変わらない。


 歩かなければ家に着かないのだ!

 歩け、自分!己の平和の為に!!


 いちにーさんしっ、いちにっさんし!

 てくてくてく。



 ……後ろから付いてくるように足音がする。

 はっ、まさか幽霊!?

 っ……。


「ねえ」

「ぎゃぁぁああああ!!臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!

 祟らないで下さい。呪わないで下さい!!」


 頭を抱えてしゃがみこむ。

 しかし、聞こえたのは聞き覚えのある声で。


「それって“九字切り”?」


 大君くんだった。


「なんだ大君くんか」

「クスッ、何だと思ってたの?

 でも平田さんって、さっき“暗いのなんて全然平気”って言ってたよね?」


 うう、何も言えません……。

 黙りきった私を見て、大君くんは提案した。


「じゃあさ、平田さんの家まで送らせてよ」

「え、え、え、遠慮します!」

「あんなに怖がってた人が?」


 うぐっ。


「でも大君くんが遠回りになっちゃうから悪いよ」

「俺、男だし大丈夫だって」

「じゃあ、有難く送ってもらおうかな」

「そうしなよ」


 暗い小道は明るさを取り戻す。

 楽しい話をしながら、家へと。

 先ほどまでの恐怖は消えてしまった。

 ありがとう、大君くん。





 ぷっ、くすくすくす。

 急に大君くんが笑い出す。

 弾んでいた会話も途切れた。


「何がおかしいの?」

「いや、さっきの平田さん、涙目だったなーって。

 よほど怖かったんだ?」


 そこまで見られてたんだ……。


「可愛げがないでしょ。

 “暗いのなんて全然平気”って嘘ついて」


 すると横を歩く大君くんは思案するように黙りきる。

 やがてぽつりと呟く。




「可愛かったと思うけど」

「え?」


 聞き間違いかと思った。


「そうやって嘘ついたりする所も可愛いかなーって、何言ってるんだろ。

 あははは、忘れて」


 背けられた顔。

 どんな表情をしているのかさっぱりだ。



 ちょうどその時、街灯の下を通った。

 顔はわからなかったが、耳がほんのりと色づいている。


 私の口はゆるりと弧を描いた。





 それから帰りが学級委員の用で遅くなった日は、一緒に帰ることとなった。

 数ヶ月のことだけどね。

 本人には内緒で、感謝!

 大君くんのことだから分かっていそうだけど。





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