愛二乗=ゼロ
「ほほほほ!やぁ中坊。おや中坊」
「何だよ姉さん。うるさいなぁ」
新しい制服に身を包む弟を見て、高笑いしている。
「いやー、見事なガクランっぷりについ笑いが。
それで女の子落としてくるのよ!
あと、『いい男は一日にしてならず』なんだから気をつけなさい」
「そんな言葉ないから」
「作ったのよ」
「さいですか」
大君 雪哉。今日から中学入学。
前途多難。
「ねぇちゃん、それアウトだよ」
「何が」
「今時そんな人いないって」
膝がきちんと隠れたスカート。
長い髪は三つ編みにされている。
「え、これが普通なんでしょ?」
「――ねぇちゃん、頼むから所構わずボケないでよ」
「やだなー。ボケは俊太でしょ」
「相方大変だね」
平田 果穂子。今日から中学入学。
こちらも前途多難。
入学して3日目。クラスにも慣れだしてくる。
「キャーーー!!雪哉く~ん!!」
昼飯も食えやしない。
流石俺。
いや、マジで飯食わせて!
裏庭に面した窓から身をのりだして越える。
人気なし。オアシス決定!
ほくほくと座る。
「あら、我がクラスのアイドル」
人いました。
それも隣に。どうして気が付かなかったんだよ、自分!
「人気者も大変ねー。追い掛け回されて」
しかも、あの平田さんじゃないかーーー!!
破るためにある校則をちゃっかり守ってる、あの。
「は、はあ」
一応返事はしておこう。
「ちょっと、大君くん」
突然顔をしかめる平田さん。
次は何ですかーー!?
「そのパン良くないわ。
私のと交換しましょ。幸いまだ食べてなかったし」
「え、いや、悪いよ」
「いいから。いいから」
強制的に交換されました。
はぁ、食べるしかないか。
口に運んでみる。
「うまっ!」
どんどん箸が進む。
「平田さんのお母さん料理上手いねー」
「はずれ。私が作ったの」
「えぇええーー!?」
平田さんの話によると両親が共働きだから、いろいろと家事手伝いをしているそうだ。
俺、家の手伝いしたことないぞ?
偉いよなー。
「弟も手伝ってくれるのよ。この弁当だって」
<回想>
「俊太、ウインナー焼くの手伝って」
「いやいや、俺は監督して手伝うよ」
「そう?ありがと」
<回想終了>
「あれ?あれれ?
これはもしかすると、手伝ってない?」
「もしかしなくてもそうだよ」
思わず突っ込む。
「ごめん、クセが。姉さんがよくボケるんだ」
「いいなぁ。私お姉ちゃんが欲しかった」
「おれは弟かなー。一緒に遊べるし」
顔を見合わせ、笑い出す。
「アハハハハ!お互いがお互いを羨ましいって変ね」
「あははは!そうだね」
笑い合った後、平田さんは立ち上がった。
「明日もここに来てね」
「どうして?」
「さぁ?お楽しみ!」
にやっと笑って去っていく。
揺れるお下げがとても愛らしく見えた。
言われた通り今日もここに来た。
うーん、早く平田さん来ないかなー。
「おまたせー」
今日も元気におさげが揺れる。
そこには女特有の媚なんてなくて、楽な気持ちになれた。
「今日もここに来てって言った理由はね、これなの!」
じゃーん、と取り出されるお弁当。
「えぇぇええ!?」
もしかすると俺の?え、マジで!?
「嫌いな物入ってたらごめんね」
「そんなことないって!ありがとう、すっごく嬉しい」
ぱかっと蓋を開けると色とりどりで非常に食欲をそそる。
手当たり次第に食べていくが、どれもおいしいなんてあり!?
「すっごく美味しかった!!」
「ありがとう」
いつも眉をつり上げがちの彼女は、ふっと眉を綻ばせて笑った。
妙にいいなって思ったんだ。
でもそれは始まりで、まだ恋じゃなかったんだ。
「今日調理実習だねー。平田さんが同じ班で良かったよ」
今日作るのはクレープ。
俺はまったく出来ないだろうけど、こんなに料理が上手い平田さんなら。
「あ、あの……」
平田さんが非常に言いにくそに切り出した。
「私がいたらゲテモノが出来ると思う」
「そんな馬鹿な。平田さん料理上手いじゃないか」
「これは料理、あれはデザート!別物なのよ!!」
彼女曰く、作ってるうちに紫色の煙が出てくるそうで。
あり得ないと否定するものの、彼女は頑固として認めなかった。
その危険物を食べた長男一瀬兄は真面目人間から転身。
歩くフェロモンになったそうだ。
プラス妹への溺愛が増加。日々続く次男との戦い。
彼女は困っているらしい。
へぇ~、平田さんよりも家の面々の方が濃いな。
ああ、その後のことだけどやっぱり紫色の煙が出てきました。
味?はははは。




