落ち込むミオンとリーラの態度
その後、俺はみんなに支えられ、ふらつく足取りで湯を出ることになる。
「マスターにご迷惑をおかけしました。すいません……」
横になり少し休み、今ではだいぶ体調も良くなったが、代わりにミオンの元気がなくなってしまった。
俺が溺れかけたのは自分の責任だと感じているようだ。
「少しのぼせただけだから大丈夫だよ」
実際、誰が悪いかなんてあるはずもない。
もし責めるのなら、自身の体調管理すら出来ない俺自身を責めるべきだろう。
「ご主人さまのお顔凄かったねー」
「真っ赤であったの」
見てみろあの二人を。俺の様子を思い出して楽しそうに笑っている始末だぞ。
「マスターの体調不良を見落とすなんて……」
それでもミオンの気は済まないのか、顔色が晴れることはない。
「いや、体調不良っていうか頭に血が上りすぎただけだし」
「なぜそんなことになったのだ?我らは平気であったぞ」
ミオンを元気付けようとして言った言葉に、リーラが反応を示してしまった。
「それは……」
ミオンの事ばかりで言い訳を考えてなかったせいで、言葉に詰まる。
まさかみんなの水着姿や触れ合う肌に意識が向いて興奮しかかっていたなんて、口が裂けても言えない。
みんなの水着……。
「また顔が赤くなったぞ」
「変なのー」
網膜に焼き付いてしまった光景と、今でも残る肌の感触。それを再度思い返して、また頭に血が昇る。
……しばらくは忘れられそうにない。
「あらあらぁ」
ニアだけは、俺に起こっている現象を理解しているのか、ほんのりと頬を染め、訳知り顔で頷く様子が窺えた。
「……」
しかしそんな中、やっぱりミオンには元気がない。
「ミオン?」
声をかけるが、返事はない。余程落ち込んでいるのが分かるが、彼女に元気がないとこちらまで調子が崩れてしまいそうだ。
「最後はミオンの番だ。案内してくれるか?」
彼女の元へ寄り、そんな提案をする。
これで機嫌が治ってくれると良いのだが……。
「ですが……」
しかし、ミオンは口籠もり動き出そうとしない。
「ミオンのお勧め、教えてくれないのか?」
ミオンのこれは、恐らく一過性のもの。少し気分を変えてやれば、すぐに機嫌を直してくれると思うのだが……。
「私は、マスターに迷惑を……」
が、彼女はいつまでもこの調子。
「まったく。仕方がない奴だな」
俺はミオンへと近づき、その頭を軽く撫でやった。
「な、何を……」
風呂に入ったばかりだからか、撫でる髪からは爽やかな香りが漂い、やっぱりさっきの出来事がフラッシュバックしそうになる。
……これ、早く忘れないと思い出だけで鼻血を吹きかねないな。
だが、顔に集まりそうになる熱気はどうにか押さえつける。
今はミオンに機嫌を直してもらうのが優先だ。
「俺は、ミオンがお勧めしてくれる場所も知りたいよ」
頭を撫で続けながら、ミオンに語りかける。
「マスター……」
「俺のことをこんなに思ってくれるミオンがどこに連れて行ってくれるのか、今から楽しみだ」
明らかにキザなセリフで全身が痒くなりそうだが、言い切った。先程とは別の意味で顔が赤くなりそうだが。
「貴方と言う人は……」
ミオンは照れる俺を見つめ、ため息をつく。
「あまり、ハードルを上げないで下さい。案内し辛いじゃないですか」
そうして、軽く微笑んでみせる。
「そうか? でも、自身があるんだろ」
負けず嫌いなミオンのことだ。誰よりも一番を目指して吟味したに違いない。
「当然です。行きますよ」
そう言って、ミオンは風呂屋の暖簾をくぐり、足早に店を出ていった。
……良かった。少しだけだが、元のミオンらしくなってくれたみたいだ。
「主もミオンの扱い方が分かってきたようだのう」
そんな俺たちのやり取りを見ていたリーラが、話しかけてくる。
「いや、ミオンは俺が気を使ってるのを知ってて、あえて元気に見せてるだけだよ」
「ふむ、そうなのか」
一足先に店を出たのは、恐らく外で気合を張り直すためだろう。そんな姿をみんなに見られたくなかったから、一人で出て行ってしまったのだ。
「いつもはあれだけ押しが強いくせに、意外と繊細なんだよ。ミオンは」
もしかしたらあの積極性も、自分に自信がない故のものなのかも知れないな。
……あれだけ可愛いんだ。もしそうなら、そんなことしなくても十分魅力的だと、いつか伝えよう。
そうすれば夜の惨劇が少しは収まるかもしれないし……。
「なんじゃ、その相手をなんでも知り尽くしてる感は。妬けるのう」
リーラはそんな俺の様子を見て、少しだけ口を尖らせた。
妬けるのが俺になのかミオンになのかは、その会話からは読み取れない。
「それはミオンが一番付き合いが長いからだ。それに、みんなのことなら、俺はなんだって知りたいと思ってるからな」
ミオンだけじゃなく、リーラやロロ、ニアの事だって俺は全てを知りたい。
俺を慕ってくれるみんなに、嫌われるような事は何があっても避けたいから。
「……主はほんにたらしじゃな」
俺の発言に、リーラは呆れたようにため息をこぼす。
「なんだよそれ」
その発言は、照れているように聞こえたが棘も感じ、少し気になった。
「いつか誰かに刺されんといいのう」
リーラは苦笑を浮かべ、俺を見上げる。
「……みんなに刺されるのは嫌だなぁ」
「だったら、ミオンだけじゃなくて他の連中にも気を回す事じゃ」
そう言って、人差し指を俺に向けた。
「後ろを見てみい」
「え?」
俺ではなく、背後を指していたそこには……。
ミオンが機嫌を戻した代わりに、ふくれっ面をしているロロと微笑んではいるが目が笑っていないニアの姿があった。
♢
「何しているんですか! 早く行きますよ」
「あ、ああ! 今行く」
ロロとニアにも必死に言い訳を繰り返し、ようやく全員の機嫌が戻ったところで外からミオンの呼ぶ声がした。
全員で外へと出て、ミオンの先導の元歩き出す。
「……さっきの話さ」
そんな中、さっきの会話以降少しだけ口数が少ないリーラが気にかかる。
「うむ?」
「リーラも入っているのか?」
リーラの口数が減った、最後の会話の内容。これが原因だと思う。
「……どういう事じゃ」
「気を回さないと誰かに刺されるぞって忠告」
もしかしたら、リーラこそがそう思ったから出てしまった言葉なのかも知れない。
「……どうじゃろうな」
リーラは否定も肯定もしない。
「こ、怖いな……」
「ふふふ。そう思うなら我も大切に扱うんじゃな」
そう言って笑うリーラの頬は軽く色づいているように見える。
「リーラは俺に興味がないと思っていたんだが」
リーラの意味深な態度を見ていると、なんか変な勘違いをしてしまいそうだ。
彼女だけはどんな場面でも、楽しそうだからと言ったり仲間外れは嫌という体を取り続けていただけに、突然の態度の変化に焦る。
「……いくら我でも、気に入っている相手以外に閨を共にしたり肌を晒したりせんわ」
「……」
今の言葉は、聞こえていないフリをした方が良いんだろうか。
「わー。リーちゃんも顔あかーい」
そんなリーラをロロが横から覗き込んで笑っていた。
「後ろで聞いていたな?」
背後にはもう一人、ニアもいる。
「いやですわぁ。聞こえてしまっただけ、不可抗力と言うものです」
まあ、一緒に歩いていたのだから聞こえるのは仕方がないが……。
「……あまりリーラをからかうなよ」
これが原因で、四人の中で唯一大人しかったリーラまで暴走するようになったらと思うと……震える。
「はぁい」
楽しそうに笑うニアの顔には全く説得力がなく、隙あらば色々教えてやろうと言ってるように見えた。
しばらくは、ニアの監視が必須かも知れない。




