みんなの観光案内『リーラの場合』
次は、リーラの紹介する場所へとやって来た、のだが。
「我のお勧めはーここじゃ!」
リーラの立ち止まった場所は、通りのど真ん中。そこには店など無く……。
いや、店と言うか……仮設の屋台が立ってはいた。
「屋台……?」
屋台からは、何かを焼いているのか良い匂いが立ち込めている。
あ、思い出した。
「この街に来た時リーラが最初に見ていた屋台じゃないか」
そう。大はしゃぎしていたリーラが、物欲しそうに見ていた串焼きの屋台。
あの時は、ロロの家を探す為に食べずに移動してしまったが、リーラは結局その後買ったようだ。
「そうだ。ここの串焼きが絶品だったのだぞ!」
そう言って、屋台の主人に串焼きを注文するリーラ。
「へえ……」
「ほれ、食べて見るのだ」
その手には、五本の串焼きが握られていた。
その内の一本を手に取り、口へと運ぶ。
「あ、本当だ。美味いなこれ」
その串焼きは、予想以上に美味しかった。
なんの肉が使われているのかは分からないが……感触的には豚肉に近いか?
「であろう? 我も食べた時にはほっぺたが落ちるかと思ったのだぞ」
リーラは、ミオンやロロ、ニアにも一本ずつ配りながらこちらの反応に嬉しそうに返事を返す。
「そう言う表現、ここでもあるんだな」
「これ以外ではないぞ。我のお勧めは、この通りにある店の食べ歩きだ!」
映画ならここでババーンと効果音でも入りそうな勢いで手を広げてリーラは言う。
「そりゃまた、随分と楽しそうだな」
考えてみれば、こんな街の通りにあるような屋台の味すら俺は知らなかった。
あの頃は余裕がなかったので食事を楽しむなんて出来なかったが……正直、美味しい物なら興味はある。
「リーラさんは、マスターと別行動の時は大体何かを食べていましたからね」
リーラから渡された串にかぶり付きながら、ミオンが俺に告げ口をしてくる。
まあ、この街に来て別行動をしたのは二回だけ。そうでないと食べ歩きの紹介なんて出来ないだろう。
「ひ、人を食いしん坊みたいに言うでないわ」
「実際そうじゃないですか」
ミオンの視線は、リーラの両手へと注がれている。
「まあ、両手に串焼きを握ったままで言ってても説得力はないな」
いつの間に追加で買ったのか、リーラの両手には更に二本ずつ串焼きが握られていた。
「ぐぬぬ……」
リーラは悔しそうな顔をして、そっぽを向いてしまった。
少し、不機嫌にさせてしまっただろうか?
「ごめん。謝るからさ、リーラのお勧めの店もっと紹介してくれないか?」
「……本当に、そう思っておるのか?」
チラリと、横目でこちらを伺うように見る。
「思ってるよ」
リーラは怒っている訳ではない。軽く拗ねてるだけだ。そう思って、優しい手つきで頭を撫でる。
「くう……上手いことあしらわれている気がするのう……」
顔を赤くしながら、俯くリーラ。しばらくそうしていると、深呼吸を繰り返し、赤みが引いていく。
「よい、行くぞ。次じゃ次!」
気を取り直したのか、いつも通りの表情で歩みを再開する。
「ああ楽しみだ」
そこから、リーラの先導でお勧め屋台の食べ歩きが始まった。
驚いたのは、獣王国の食文化は俺がいた世界のものに相当近いと言うこと。
並ぶ屋台には串焼き以外にも、水で溶いた小麦粉に野菜や肉を入れ薄く焼いた物、細い麺を香り高い液体で絡め焼いた物など様々。
しばらくの間そうやって食べながら歩き、通りの端から端まで来てしまった。
「どうだった!?」
俺へと振り返るリーラの顔は、自信満々と言ったところか。
「びっくりしたよ。この街って、こんなに食べ物が美味しかったんだな」
むしろ、今までこれに気づいていなかった自分に驚く。
こうやって少し意識を広げてみると、あちこちで呼び込みの声もするし屋台からは魅力的な香りが漂っているのに。
色々な事を知る度に、自分の余裕のなさが浮き彫りになっていくな。
「であろう? しかも、我がいくつも巡った中でも選りすぐりの屋台ばかりなのだ。満足しない訳があるまい」
鼻高々と胸を張るリーラに、ミオンが口を挟んだ。
「流石、食いしん坊ですね」
「だからその言い方はやめいと言うておろうが!」
ミオンに悪気はないのだろうが、どうにもリーラは嫌らしい。
まあ、女の子に言うような言葉ではないからな。
「まあまあ、喧嘩はダメですよぉ」
このままでは収まりそうにないと悟ったのか、ニアが二人の間に入り取りなしている。
「ぐぬぬ……」
……仲が良いのか悪いのか、分からない二人だ。
「と言うか、ミオンも食事していたな」
ふと昨日の事を思い出して、俺はミオンに問う。
食事が必要ないと言っていたが、ミオンもみんなと一緒に食べていたんだ。
「はい。別に必要はないと言うだけで味は分かるので、美味しく頂くことはできますよ」
「そうだったのか」
てっきり、食事ができない物だと思っていたんだ。
「良かった」
「え……?」
ミオンが不思議そうに俺を見る。
「いや、みんなで食事している中でさ、ミオンだけついて行けなかったら寂しいじゃないか……だから、ミオンも食べることが出来るなら良かったってさ」
たかが食事、されど食事。自分だけが話題についていけないのが辛いことは、知っている。
「そう、ですね」
俺の気遣いに、ミオンは素直に嬉しそうに笑う。
「何じゃ。我の番であるはずなのに、なぜ二人がいい雰囲気になっておる」
背後では、そんな俺たちにリーラが不満そうな声をあげている。
「嫉妬ですか?」
「そ、そんな訳あるまい!我は誇り高き竜族が一柱。人間なぞに惹かれる訳がない!」
ニアにからかわれ、リーラの慌てる声が聞こえる。今頃、顔を赤くしているのが目に浮かぶようだ。
「強情ですねぇ」
「顔赤いのにねー」
たはり、リーラの顔は赤く染まっているようで。
「ロロまでからかうでないわ」
そんな三人の騒ぎを背中で受けながら、では最後にミオンの紹介を……と思っていたのだが、ニアが突如手を挙げる。
「では、次は私の番で良いですかぁ?」
「あれ、ニアは紹介しないんじゃなかったのか」
俺と同じように街には詳しくないから、今回は見送ると言っていたはずだが。
「リーラさんの食べ歩きを見ながらお店を探していましたので、大丈夫ですよぉ」
まじか。ニアも俺達と同じように歩いていたはずだが……いつの間に?
「そんな急ごしらえで、マスターを満足させるお店を紹介出来るんですか?姉さんは」
「勿論よぉ」
随分と、自信満々だ。
「なら、案内してもらおうかな」
ニアがこの短い時間の中で見つけた店、多少興味がある。
「はぁい。お任せください」
そう言って、ニアは歩き出していった。
「どんなお店に行くつもり何でしょうね」
「分からん」
もしピンクの色が目立つ場所にでも行こうものなら、止めなくてはならないが。
流石にそこはニアも空気を読んでくれるはずだ。
「とにかく、着いていくしかないだろ」
俺達は一抹の不安を感じながらも、ニアの後について行く。




