冒険者組合
「とりあえず、冒険者登録に行くぞ」
あの後、しばらく抱きしめられ続け、ようやくロロの呪縛から解放され大通りへと戻ってきた。
「冒険者ですか?」
「ああ。獣王国では人間の国と違い、国がダンジョンを管理している」
獣王国は広大な土地を持ち、日々多数のダンジョンが生まれては攻略されてを繰り返されている。
下位のダンジョンは生まれやすく、獣人ほどの身体能力なら攻略が難しくないものも多い。
「冒険者組合に登録をして、ダンジョン探索の申請を通さないと入ることが出来ないんだ」
だからこそ、組合がダンジョンを管理して攻略されたものや生まれたものを把握しなければならない。
「そんな決まりがあるんですね」
「むしろ、殆どの国がそうだぞ」
別に獣王国だけが特別と言うわけでは無い。
他の国も、獣王国ほどではないがある程度が国や組合が管理下に置いている。
「危険なダンジョンを管理もせずに放っておいてるのは、あの国ぐらいなもんだ」
俺が呼び出された、あの忌々しい国。
「なるほど」
「まあおかげでミオンを見つける事が出来たんだ。あの愚王にも、少しは感謝しないとな」
ミオンの頭を撫でる。
それだけが、唯一あの王に感謝できることかもしれない。
「……そう、ですね」
ミオンは照れたように俯き、頬を染める。
いつもこうであれば、素直に可愛いと思えるのだが。
「主ー!」
「ご主人さまー!」
そんな中、ロロとリーラは仲良く街を探索中。
「……あれ、どうにか止めさせられないか」
そして何故か、ロロは俺の呼び方が変ってしまっていた。
恐らく、リーラの影響だとは思うが……。
「ロロさんは、気に入ってしまったようですね」
「余計目立つようになってしまった……」
あんな小さい子からご主人様、なんて呼ばれていると、変な視線を向けられているのをひしひしと感じる。
「これから組合に行きますか?」
もはや癖となった、こめかみを抑える作業をしているとミオンが気を使って話を進めてくれる。
「そうだな。いや、組合には俺一人で行こう」
あの二人を連れて行くと、無駄に時間がかかってしまいそうだ。
それに、リーラには街を観光させると約束している。今のうち存分に楽しませてやろう。
「大丈夫ですか?」
私も一緒に行きましょうか? そんな意思を瞳から感じ取れるが。
「心配するな。それより……あいつらを二人でこの街に放り出す方がよっぽど不安だ」
今でも既に、あっちにフラフラこっちにフラフラと、油断していると見失ってしまいそう。
「……ですね」
それを確認して、ミオンも同意する。
自分が目を光らせていないと、何をしでかすか分からないと思ったのだろう。
「では、あの中央にある噴水で待ち合わせにしましょうか」
ミオンが指を指したのは、大通りの遥か先。そこには、街の名物にだって出来るような、巨大な噴水があった。
「そうだな。あれなら分かりやすい」
あの噴水は、前回でもよく勇者達が待ち合わせに使っていたものだ。
「時間はどうしましょうか」
「確か、この街は日が落ちる少し前に鐘が鳴るはず。それを合図にしよう」
「分かりました。マスターは相変わらず物知りですね」
物知り、と言うか最初から知っていたと言う方が正しいか。
「……ま、まあな」
少しだけバツが悪くなり、濁すような反応になってしまった。
「それじゃあ、また後で。あの二人のこと、頼んだ」
ミオンであれば、うまく手綱を握ってくれるはずだ。
何ならあの二人も、俺よりミオンの言うことを聞くんじゃないか?
「はい」
俺はミオンに手を振り、街の中単独行動を開始した。
♢
「ここだな」
今俺の前には、巨大な建築物。
「随分と、久しぶりだ」
その建物の看板には、デカデカと『冒険者組合』の名前。
「……」
ゆっくりと扉を開き、中へと足を踏み入れる。
中にいるのは殆どが獣人。中には別の種族も見かけるが、肩身が狭そうに隅の方で座っている。
「どうしましたか?」
受付へと足を進めると、獣人の受付嬢がにこやかに応対をしてくれる。
「冒険者登録をしたいんだが」
「初めてですか?」
「ああ」
「分かりました」
そう言って、用紙を一枚取り出す。
「では、こちらに必要事項を記入してください」
「分かった」
氏名や年齢・種族など、簡単な項目を記入するだけで終わってしまう。
「……はい。では手続きを行いますので、少々お待ちください」
それを確認して、受付嬢は奥へと引っ込んでいった。
そこで一人待っていると――。
「へへ……貧弱な人間が、またやってきたぜ」
背後から、大声でわざと聞こえるように喋る奴がいた。
「……」
チラリと横目で確認すると、それは獣人の三人組。
「どうせ、ダンジョンで一攫千金でも狙いに来たんだろ?」
「はん。俺たち獣人でも踏破出来ていないダンジョンがいくつもあるってのに、人間って奴は本当に自分の力を
自覚しない阿保ばかりだ」
ゲラゲラと下品な笑い声をあげる。
周囲の獣人達は、どちらかというと連中をこそ疎ましそうに見ている。
「……」
厄介者、か。どこの種族にも、変なやつは一定数いるものだ。
「ほらみろ、ビビって何も言い返してこねぇ」
「身の程知らずに冒険者なんかならないで、お家で畑でも耕してろよ」
そんな後ろの楽しそうな様子に耳をすませていると。
「……すいません。お待たせしました」
受付嬢が、申し訳なさそうな顔で戻ってきた。
その謝罪の真意は、時間を取らせたことなのか、後ろの様子にかは判別できない。
「いや、大丈夫だ」
そう言って首を振ると。
「あの……気にしないでくださいね」
上目遣いで、語りかける受付嬢に。
「何がだ?」
俺は気にしていないと、すっとぼけて見せる。
「いえ……獣人には血の気がある方が多いので、人間種の人が登録に来ると、ああやって喧嘩を売る人がたまに居るんです」
眉を歪め、後ろの連中に視線を向ける。
「言い返さなかったら罵倒して、言い返してきたら返り討ちにして自分の力を誇示したいようで……相手にしないようにお願いします」
「それは……あいつら次第かな」
ただ言葉で罵倒してくる分には、俺は気にしない。慣れているからな。
「え……?」
だが、相手が直接行動に移すようならその時は――。
っと、脱線してしまった。
「それより、登録は終わったのか?」
「あ、はい。こちらが登録証になります」
手渡してくる薄い銅のプレート。そこには俺の名前が彫られている。
「これがあれば、次回以降は受付でダンジョンの入場資格を取得出来ます。あまりに難易度や危険性が高い場所だと止められる事もありますが」
「だが強制力はない。そうだろう?」
「え、ええ。組合が行っているのはあくまでダンジョンの管理で、冒険者の行動自体を縛ることは出来ませんから」
俺の発言に軽く戸惑いながらも、彼女はそう同意した。
「なら、良い」
強行できるのなら問題ない。元々下級のダンジョンに興味はないからな。
「明日、また来る」
「分かりました。お待ちしてます」
受付嬢が頭を下げ、俺は組合を後に……しようとした。
「……」
目の前に、三人の獣人が立ちはだかる。
「何のつもりだ?」
道を阻む連中を、睨みつけながら疑問を投げかけるが。
「ガハハハ! 何のつもりだ?だってよ」
「威勢だけは良いじゃねえか」
連中は意にも介さない。
「人間よぉ? ここは獣人の国。俺たちの領土だ」
「……お前の領土ではないだろ。馬鹿じゃないのか」
ボソリと言ったつもりだったが。
「テメェ、馬鹿にしてんのか?」
聞こえてしまっていたようだ。
「だから馬鹿って言ってるじゃないか。言葉すら理解出来ないのか」
だったらもう遠慮する必要はない。
「テメェ!」
顔を赤く染めた獣人の一人が、拳を振りあげその指から鋭い爪を覗かせる。
「あの!」
そんな一触即発の雰囲気の中、鋭い声が響き渡った。
「組合内での争いはご法度です。これ以上騒ぐようなら、皆さん資格を剥奪されますよ」
声を発したのは、先程の受付嬢。
こちらを睨むように、鋭い視線を向けていた。
「ケッ!」
「……この街で安全に暮らせると思うなよ?」
連中はこちらを一瞥し、吐き捨てるように脅しをかけてくる。
「肝に銘じておくよ」
そんな連中に、嫌味たっぷりな表情でそう返す。
「はあ……だから相手にしないでと言ったのに……」
一人残った俺に、受付嬢はため息をこぼしそう呟く。
「だが、あんな露骨に進路を塞がれてはどうしようもないだろ」
「……それでも、大人しく頭を下げて素通りするべきです」
あんな連中にか?
「それは、流石に許容出来ないな」
そんな対応をするのは、前回の世界だけで十分だ……。
「人間種の方が冒険者で長生きしたいなら、利口になるべきですよ」
受付嬢は、おそらく親切心で言っているのだろう。だが。
「……俺はもう、自分の信念を曲げて卑屈になることは止めたんだ」
そう言って、俺は冒険者組合を後にした。




