ロロの力
「ふう、ようやくまとまったのう」
「ええ、マスターは優柔不断ですから」
背後で冷やかしの声をあげる二人。
「……」
そんな二人を無言で睨みつけていると。
「……ロロ、おいで」
孤児院のシスターは、ロロを微笑みながら呼び寄せる。
「なに? しすたー」
「あなたに、渡すものがあります」
そう言って孤児院へと引き返し、手に封筒と、丸い首輪のようなアイテムを持ち戻ってきた。
「?」
「あなたが拾われた時、一緒に入っていたものよ」
それを、不思議そうに首を傾げるロロに手渡す。
「む」
そんな光景を見ていたリーラが、何かに反応を示した。
「どうした?」
「あれは、献上の首輪だのう」
あの首輪のようなアイテムの事だろうか。
「献上?」
「うむ。特定の個人に、自身の力を移譲する事が出来るアイテムだ」
「力を……移譲?」
何だろう。……とても、嫌な予感がする。
「どうやらロロは、ただ理由もなく捨てられた訳ではないようだぞ」
そう語り、アイテムを興味深そうに観察している。
「あれは、秘宝級のアイテムだからのう」
前回の世界で様々なダンジョンを巡ったが、秘宝級なんて片手で数えるほどしか見たことは無い。
それも殆ど勇者が独占していたものだ。
「……」
ロロは一体、何者なのだろうか。
♢
「これは手紙とアイテム。多分、あなたのご両親から宛てられたものよ」
二人がそんな会話を繰り広げている頃、シスターはロロに手紙とアイテムを渡していた。
「あとーさんと、おかーさん?」
その手紙は、ロロへと宛てられた両親からの手紙。
「ええ、あなたが自分の意思でここを去る時、渡して欲しいって添えられていたの」
つまり、ロロは誰かの養子などにせず、自身の判断で孤児院を出る日まで見守っていて欲しいと言う、願い。
「……」
そんな両親からの手紙を、ロロは無言で読んでいた。
「ロロ?」
シスターが心配になり声をかけるも、読むことに夢中になっている彼女には届いていないよう。
そして、手紙を読み終わったロロはもう一つの託されていたアイテム。首輪を見つめる。
「これを……」
ゆっくりと、首輪を付けていくロロ。
「……」
反応が……無い?
「な、なにこれ」
そう思った瞬間。首輪が発光を始めロロの体を包み込んでいく――。
♢
遠目から見ていた俺たちは、急に起きたロロの反応に動揺していた。
「ロロさん!?」
「ロロ!」
「ほう、これは……」
ただ一人、情報を有しているリーラだけが、冷静に感嘆の声を漏らしている。
「大丈夫。あれは、強さが移譲されている時に起こる現象だ」
ロロを興味深そうに観察をしながら、俺たちに説明をしてくれた。
「あれが……」
確かに、ロロを包む光は光量こそ強いものの暖かく、悪意などは感じない。
「それにしても、驚いた。ロロの両親……というか、あの首輪に力を込めた者は相当の実力者だぞ」
「そうなのか?」
「うむ」
見ただけで分かるものなのか。あの光の強さなどが、関係しているのかも知れない。
「あ……」
そして、長らく光続けていた灯りが小さくなっていき。
「首輪が……」
光が消えると共に、首輪が砕け散ってしまった。
「使い捨てだからのう。一回こっきりだ」
使い捨ての秘宝級とは、なんて贅沢なんだろう。
そんな中ロロは、見た目こそ変わってはいないが不思議と存在感などが増したように思う。
「私からはこれだけ。ロロ、元気でいてね」
シスターはロロの頭を慈愛深く撫でやり、別れの挨拶をする。
「……うん!」
そんなシスターに太陽のような笑顔で返答を返し。
「おにいちゃん!」
振り返って、一直線に全速力でこちらへと駆け寄ってくる。
「ほれ、受け止めてやらんか」
そんな俺を、リーラは押し出すような形で前へと押しやる。
「え? ま――」
あの首輪の効果は、強さの移譲。しかもリーラが関心を示すようなレベルの物。
今のロロは、簡単に抱きしめて良いような存在では無いのでは――?
「ぐっ!?」
大方の予想通り、凄まじい衝撃が腹部を襲う。
「ぎゅー♪」
そして、いつも通り俺を抱きしめて来た。
「イダだだだだだだだ!?」
いつも通りじゃ無いのは、この体を走る痛みっ!
これ、力だけなら下手したらミオンよりあるぞ!?
「ふむ、やはり相当強さが増しておるな」
絶叫をあげている俺を、リーラは観察するように見ている。
「なにを冷静に分析を!?」
助けてくれよ!? そう叫ぼうとしたが。
「力の制御も慣れておらぬようだし、しばらくは主で慣らしてもらうしかないな」
そんな願いは空を切る。
「いや、だから」
助け――。
「おにいちゃーん♪」
「痛い痛い痛い!?」
更に力いっぱい!? 待って! 出る! 内臓が出る!?
「これでは、ロロさんも守って貰う必要なさそうですね」
背後で黙って見ていたミオンも加わり、もはや俺に逃げ場はない。
この激痛を、ロロが満足する時まで甘んじて受け入れるしかないのか。
「うん! ロロがおにいちゃんを守るの!」
あの手紙に何が書かれていたのかは知らないが、ロロは随分張り切っているのが伝わる。
「ははは! 随分と頼りになる従者ができたな。主よ」
「ロロさんはまだ小さいのに、立派ですね」
張り切るのは結構だが。
「お、おい……」
今し方守ると言った相手は。
「た……たす、けて」
君の腕で絞め殺されかけて……いますよ。
そんな冗談を言っている余裕は、今の俺にはなかった。




