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朝には皆、驚きがいっぱい


 まだ、朝霧の立ち込める時間帯。俺はゆっくりと宿から顔を出す。


「……前回よりは、楽だったな」


 通りに誰も居ない事を確認し、今度は宿から出て周囲を念入りに確認。人通りは、ない。

 まだ日が登りきるような時間ではないとはいえ、静かすぎると言ってもいい。昨日の騒ぎの影響で町の住人達は完全に寝静まっているようだ。


「レベルが上がってるんだし当然か」


 昨日のミオンの締め上げは、彼女が手加減したのか、俺の防御が上がったのか分からないが随分と楽だったように思う。

 そのおかげで、少女と幼女に挟まれると言う多少の緊張はあったものの、十分に熟睡出来た。睡眠とはかくも素晴らしい。


 そんな、昨夜俺を恐怖させていた二人は未だ宿の中。

 着替えなどがあるため準備中だ。二人は別に構わないと言っていたが、俺が構うので外で待っていることにした。

 ついでに町の様子も確認出来るしな……。

 何て思っていると。


「遅い!」


 誰も居なかったはずの真横から、突如声が響く。


「ん?」


 慌てて声のした方へ振り向くが。


「誰だお前」


 そこには、紫色の瞳と同色の長髪、そして黒装束に身を包む一人の少女の姿。身長は……ミオンと同じぐらいだろうか。


「なっ!? 貴様、まさか昨日の契約をもう忘れたのか!?」


 誰だ。と言う俺の発言に、驚愕の表情で驚く少女。


「契約って……」


 その言葉の心当たりは、現状だと一つしかない。


「まさか……紫龍か?」


 想像していた姿と全然……というか種族からして違う。


「なんだ、覚えているではないか。驚かせるんじゃない」


「いや、だって……」


 そして最も驚いたのがこれ。


「お前、女……の子だったのか?」


 昨日の会話の様子では、完全に雄だと思っていた。と言うかドラゴンに性別とかあるのか?


「し、失礼な奴だな……。どこからどう見ても雌龍ではないか!」


 紫龍は顔を真っ赤にして胸を張る。恥ずかしがっているのではなく怒っているのだろうが、女だとアピールしているその胸は……正直ミオンよりマシ程度でしかない。


「いや、そもそも昨日はお前の姿なんか見てないし……」


 しかしそんなことを言ったら地雷を踏んでしまいそうだったので、当たり障りのない事を言っておく。


「む、言われてみればそうであったな」


 確かにそうだ。と納得はしてくれたらしい。

 そんなことより、こんな所で何をしているのか。と紫龍には聞かねばならない――が。


「……マスター、その方は?」


 タイミング悪く、ミオンが出てきた。


「あ、いや……」


 マズイ……とりあえず誤魔化そう。そう思ったが。


「む、お前の連れか? 私は誇り高き十二使龍が一柱。幻を司る、紫龍だ! ……もう十一使龍になっておったな」


 そんな俺の気持ちは届かず、紫龍が勝手に挨拶を済ませてしまった。


「……マスターは昨日、この方と密会していたのですか?」


 そう、俺は昨日紫龍に会いに行っている。それはミオンも周知のこと。


「密会って、それは語弊が……」


 変な誤解を始めるミオンを宥めようと、説明をしたいのに。


「そう! 密会などではない。我とこいつは、昨日の晩に魂で結ばれたのだ!」


「むすばっ!?」


 何でこいつは余計なことを言うんだ! 見ろ! ミオンの奴、目が点になっているじゃないか!


「お前は一回黙ってくれ!」


 肩を抑え、背後に紫龍を押し込む。


「む? なんだ、連れないな……」



 背中からは紫龍の寂しそうな声が聞こえるが、今は気にしてられない。


「どうしたの〜」


 今度はロロが、眠そうな目を擦り現れる。マズイ状況というのは、何故こうも立て続けに起きるのか。


「ロロさん……もうマスターは、穢れてしまいました……。私達の知るマスターはもういません……」


 ミオンがロロを抱きしめ、涙ながらに語っている。

 もう完全に勘違いされてるぞこれ!


「えー、おにいちゃんじゃないのー?」


 ロロの純粋な瞳が、俺に刺さる。

 いや、別にやましい事をした訳では無いのだから胸を張れば良いのだろうが。


「釈明をさせてくれ!」


 今の俺の頭にはそんな余裕すらなく、必死に無罪のアピールを二人にするしかない。


「ははは、何だか賑やかだのう」


 ただ一人、事の元凶である紫龍だけは、俺の後ろで楽しそうに笑っていた。



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