第五章4 『嵐が去って』
勇者視点です。
ドッ!
魔王が去り、勇者は腰を抜かすと湖を張った氷の上に座り込んだ。
「し、死ぬかと思った……」
今でも心臓が破裂しそうなくらいに活動している。
剣を向けられた時もそうだが、何度も怒らせてしまい、怒号の度に迫力で気圧されそうになった。
生きてることが不思議で仕方がない。
「……しっかし、魔王も苦労してんだな」
「勇者様!!」
モルちゃんが呼んでいる。僕は腰を上げ、そちらへと駆け出した。
「勇者様、大丈夫です?!」
「あ、ああ。なんか魔王も帰ったみたいだし」
「……す、すごいです。さすが勇者様です。何を話していたのかわかりませんが、あんなに魔王を怒らせた挙句、口論で勝っていたみたいです」
ま、そうなるよな。
魔王も色々あるみたいだが、勝手に死なれちゃまずい。どっちの世界でも借金まみれだけど、あっちの連中よりエリカちゃんの方が万倍いい。
「……魔王、強すぎです。あそこまでは予想していなかったですよ」
モルちゃんが思い出すように口にした。
確かに、魔王を取り巻く美女たちの……美女、美女。美女!?
「なんだよあいつ、僕より恵まれてんじゃね!?」
「きゅ、急にどうしたです?」
「……」
なんか存分に慕われてそうだったし、考えるとムカついてきたな。
だってあれだろ? 彼女たちは部下みたいなもんだから、命令し放題ってことじゃん!!
それでなんだよアレ。どんだけ我儘なんだよ!
あんなムッチリボディや美女を好き放題にできるっつうのに、何が「戻りたい」だ。
「……っ!」
おのれ魔王……あん時は情に流されてたが、許せん。
次に会ったときは、絶対に……。
「勇者様、エリカさんは……」
モルちゃんの言葉で我に返ると、未だ放心状態のエリカちゃんが湖を眺めていた。
「わ、わたくし声を――」
「今はやめた方がいいよ」
「……はいです。そっとしておくです」
魔王と和解をする目的は変わらない。
だけど今度は、一発ぶん殴ってからにしよう。
エリカちゃんを泣かせたんだ。それから和解しても遅くはないよな。
こうして魔王と勇者の初対面が終わった。
双方に思うことがあり、この出会いをきっかけに互いの存在を意識し始めるようになるのだった。




