第五章1 『邂逅』
勇者視点です。
勇者一行はシュネーを追って霧の湖畔へとやってきた。
しかしシュネーは姿を偽った魔王の護衛衆、雪女の妹だった。
湖畔は凍らされ、中央に黒い塊が出現すると、その中から魔王と幹部たちが出現する。
セイレーンの魔法と雪女の術によって出入り口は塞がれ、一行は彼らと対峙する形となってしまった。
「顔が見えないけど、あの奥のやつが魔王ってこと?」
「き、きっとそうです。ですが、勝てないです」
「そんなの、やってみなくちゃ――」
僕がそう言い切る前に、冷たい空気が肌に当たった。
「上です!!」
見上げると、絶世の美人がいた。
シュネーさんと同じように和服に身を包んだ真白の美女だが、彼女はこちらを見下すように、ゆらゆらと宙に浮かんでいる。
「ふふっ、あなた以外に用はありませんの」
そう言うと息を吐くような所作を見せ、痺れる様な冷気が視認するよりも早く、僕の真横を抜けていくと、あっという間に地面が一直線に凍っていく。
パキイイッッン!!
「――! モルちゃん!!」
「う、動けない、です……」
驚いて振り向くと、キマイラのように足を凍らされて身動きの取れないモルちゃんがいた。
「い、いまの一瞬で……このおおお!」
ブン! ブン!!
咄嗟に剣を抜いて立ち向かおうとするが、浮いた雪女には当たらず、剣を振りかぶってみても悠々とかわされてしまう。
「その程度ですの?」
「く……このっ!」
「サキュバス様、早く済ませてください」
雪女は楽しげに避けながら後方に声をかけると、今度は金髪の美少女が歩いてきた。
「な、二人がかりなんて卑怯だぞ!」
そう叫ぶと、サキュバスはギロリとこちらを睨んでくる。
「手間取らせないで。誘惑の――」
「たあああああ!!」
「エリカちゃん!?」
いつの間にか、エリカちゃんはサキュバスに切りかかろうとした。
「邪魔しないでください。魔王様の御前ですよ」
「――!?」
キイイインッッ!!
サキュバスは避ける動作もせず、指先で剣を止めて見せ、手を振り払っただけでエリカちゃんを吹き飛ばした。
「きゃあああっっ!!」
吹き飛ばされたエリカちゃんは湖の傍に転がり、立てそうにない。
「エリカちゃん!! このっ!」
「誘惑の鎖……」
ズブシュッ!!
「――んぐっ!」
サキュバスに切りかかろうとするが、彼女から放たれた鎖が思い切り胸に刺さる。
「――あ、あれ? 痛くない?」
思ったほど痛くないが、それは傷つけるためのものではなかったらしい。
「魔王様の元へと向かいなさい」
「……!? は、はい」
なぜか命令に逆らえず、足が自然と動き、サキュバスや雪女たちの間を通り抜け、凍った湖の上を歩いていた。身体を動かそうとしても、意識に反して勝手に動き、どうしようもない。
「勇者様!!」
モルちゃんの声が聞こえても口が開かず、返事すらできなかった。
ただ操られるように、僕は魔王の元へと歩みを進めてしまう。
そして湖の中央へとやってくると、そこには魔王がいた。
霧で見えなかったが、とても大きな体躯と恐ろしい風貌を見るに、明らかに魔王だった。
角と生えていて本当に人間なのか疑わしくなってきやがる。
剣もなんだよ、アレ。簡単に僕の身体を真っ二つにできるくらい大きいじゃん。
こりゃ、勝ち目ねえな……一か八か、あれで勝負に出るしかない。
この日がこんなに早く来るとは思わなかったが、好都合だしな。
「……!?」
しかし魔王は何かに驚いているのか、こちらを見て眉をひそめ、何も言葉を発しようとしない。
そして、思いがけない問いを投げかけられた。
「お前の名を、教えろ……」




