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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第四章 「クズ勇者、自信をつける」
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第四章12 『嘘』

【2017年12月2日改稿。読みやすくしました。内容の変更はありません。】

 


 ウィズダム古城の勝利によっていた勇者一行だったが、旅の同行者シュネーが行方をくらませる。

 彼女は置手紙を残して「霧の湖畔へは来るな」というような意味合いの言葉を綴っていた。

 しかしエリカは彼女のSOSサインだと言い、彼女の強い要望もあり、三人は霧の湖畔を目指すこととなった。



 シュテム王国の中心部を出発してから、空気は重い。

 足取りは早く、前と後ろの温度差が激しかった。

 後方を歩く僕とモルちゃんは少しでも盛り上げようとしていたが、エリカちゃんは急ぎ足で歩いていく。


 そして、そうこうしているうちに霧の湖畔へとつながる森林の入り口が見えてきた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 木々の合間を進んでいく。

 すると、以前はなかった靄のようなものが立ち込めてきて、視界が悪くなってきた。


「これ、霧です……変ですよ。こんな時間、こんな季節に霧がかかるなんておかしいです」


「そうなの?」


「この辺りの気候から考えて、間違いないです。……エリカさん、引き返しませんです?」


 モルちゃんが提案すると、エリカちゃんは足を止めて振り返る。


「もう少しだけ……お願い」


 エリカちゃんも危険だと承知しているようだ。


 それは僕にもわかる。なにしろ、このあたりの空気が異様だった。先程よりも気温が下がったというか、言い表せない悪寒を感じている。


「わかったです。勇者様、離れないでほしいです」

「ここで迷ったらシャレにならないもんね」


 僕らはそのまま歩いていくと、湖畔にやってきて足を止める。

 湖畔の手前には見覚えのある和服美人の後姿を見つけた。



「シュネー!」



 エリカちゃんが名前を呼びながら駆け寄る。


「……本当にいたです」

「うん……でも、なんか変だ」


 エリカちゃんに続いて駆け寄っていくと、シュネーさんはようやく振り返った。

 間違いなく彼女だ。

 けれど、様子がおかしい。


「心配しましたです。シュネーさん」


「ほんとだよ。エリカちゃんがうるさくてうるさくて」


「い、言うんじゃないわよ!」


 三人で盛り上がっていると、シュネーさんは目に涙をためて、こちらを睨んでくる。


「どうして、来たのですか?」


「え……そ、そりゃあ、心配して」


「……来てしまった以上、仕方ありませんわね。『雪化粧』解除」


「シュネー?」


 シュネーさんは半歩後ろに下がる。しかしそちらは湖畔だ。


「シュネー、あぶな――」


 エリカちゃんが手を伸ばそうとすると、シュネーさんを中心に吹雪が巻き起こった。



 ビュオオオオオオオッッ!



「――! 勇者様、離れないでほしいです!」

「わ、わかった!」


「なに、これ……シュネー、大丈夫?!」


 エリカちゃんが必死に声を掛けると、吹雪は収まり、彼女の姿が見えてきた。

 しかしその姿は、先程までのシュネーさんとは違った。


「……あの姿、やはりそうです」


 モルちゃんは小さく呟く。


 目の前のシュネーさんは肌が恐ろしく白く、先程と違って不気味なオーラを纏い、その場に浮いていた。


「ど、どういうこと……?」


「エリカ、あなたなら理解してるでしょう? こういうことよ……」


 そう言ってシュネーさんは手を合わせると、周囲の霧が彼女の周囲に集まりだし、次の瞬間には彼女の後方にある湖畔が凍っていく。


「嘘だろ……モルちゃん、あれって」


 そう、キマイラの時に見た現象と一緒だ。

 霧がかかった場所から氷漬けになっていく。



「……エリカさん、気づいていますです? 彼女の風貌、そしてこの力、間違いなく雪女ですよ」



「「――!?」」



 モルちゃんはジッとシュネーさんを見つめながらそう言った。


「雪女ってことは、魔王の……」


「そうです。あたくしは雪女。あなた方が信じていたのは人間ではなく、魔物ですわ」


「ど、どういうことよ! 私を騙してたの?! 友達になれたと思ったのに!!」


「エリカちゃん……」


 エリカちゃんの叫びに、シュネーさんは一瞬だけ視線をそらし、キッとエリカちゃんを睨む。


「そうですわ。騙されるあなたが悪いの。……あたくしは、あなたのことを何とも思っていませんわ」


「……!? そ、んな、どうして……」


 ガクッ――。


「エリカさん!」


 足から崩れ、その場に座り込んでしまった。モルちゃんが必死に呼びかけるが、今は聞こえていない。


 エリカちゃんは脆いタイプだと思ってたけど、これはキツイ。

 ここ最近のエリカちゃんを見ていれば、彼女のショックが計り知れないことは予想がつく。


「……これが、シュネーさんの嘘だったの?」

「ええ。そうよ」


 そっか……。


「本当に、これでいいの?」


「……いいですわ。あたくしは、こうすると決めたのです」


「でもさ、キマイラと戦ってるとき、シュネーさんは僕たちを助けてくれたんじゃないの?」


「……」


 それを訊ねると、エリカちゃんも気づいたようで呼びかける。


「そ、そうよ!! シュネーは魔物でも、私たちを助けてくれたんでしょ!?」


 すがるような声に、シュネーさんは拳をぎゅっと作り、こちらを睨んでくる。


「簡単な話ですわ。あなた方を利用する以上、負けてもらっては困るからですわよ」


「う、嘘よ……」

「嘘ではありません」


 その言葉に、エリカちゃんはまたしてもガックリと肩を落としている。


「もしかして、キマイラを倒させることが目的です……?」


 モルちゃんの問いに、シュネーさんは頷く。


「計画の一部ですわ。本来の目的はこちらですから」


 そう言って、シュネーさんは湖の方へと移動していった。


「勇者様、どうするです? これは、危険な気がするです」


「エリカちゃんを連れて逃げよう。僕も、ここにいたくない」


 すぐさまエリカちゃんの元へと駆け寄ろうとしたが、もうすでに遅かったようだ。


「準備、整いました」


「え……」


 微かにシュネーさんの声が聞こえると、轟音が鳴り響く。


 ズドオオオオオオン!!


「「「――!?」」」


 凍った湖の中心に赤い稲妻が落ちた。



「勇者……」



「え……?!」


 稲妻に気を取られていると、耳元まで響くような声が聞こえてくる。それと同時に、森の鳥が一斉に飛び立ち、異様な空気に包まれてきた。



「まずいですよ! こんな……こんな気配に、勝てるはずないです!!」



 ギュオオオオオオオオオオオオオオ!!!



「わぷっ!」

「きゃあ!」


 突如、周囲に暴風が巻き起こると、凍った湖へと収束していく。

 すると真っ黒でおぞましい物体が湖の中央に出現し、嵐を巻き起こし始めた。


「なんっだ、これ……!」


 まるでブラックホールみたいに渦を巻き、周りの木々を揺らした挙句、真っ黒な球体となって湖の上に出現した。


「何が起こってるんだ……」


「とにかく危険すぎるです。勇者様、エリカさんを! 撤退ですよ!!」


「わ、わかった!!」


 放心状態のエリカちゃんの元へと駆け寄り、手を引いて逃げ出そうと試みるが、間に合わない。



「逃がさない、です」



 バシャアアアアアアア!!


「まさか、こんな早いなんて……強すぎるです」


 透き通った声が聞こえると、湖畔の入り口を塞ぐように巨大な滝が出現した。

 モルちゃんが魔法を唱えるよりも、断然に早い。

 そして周囲の白い霧がその滝に向かって流れていくと、滝は一瞬で凍り、巨大な壁を作り出す。


「やられたです。これでは、逃げられないです」


 モルちゃんの言葉通り、僕たちは逃げ場を失った。


「演出が整いましたわ、魔王様。……シュネー、ご苦労ですの。あたしの妹ですから、心配はしてませんでしたけど」


「はい。お姉さま」


 一方、シュネーさんは凍った湖の上を移動し、球体へと消えていく。


「っく、シュネーさん!!」


 声をかけても、彼女は振り返ることなく消えていった。

 彼女が消えた後、球体の中から四つの影が姿を現す。



「――!? うそ、でしょ?」



「え、エリカちゃん?」


 エリカちゃんはシルエットを見て青ざめている。

 一体なんだってんだ!!

 意味わかんねえっての!


 だが、すぐにその意味が分かった。



「お前が勇者だな。……俺が魔王だ」



 恐ろしい迫力と三人の魔物(悪魔のような大胆な服装の金髪女性・シュネーさんよりも真白の髪をなびかせる和服美人・透き通る髪の小柄な人魚)を従えて、黒い球体の中から姿を現したのは、僕の倒すべき魔王だった。


 霧で顔が見えないが、魔王と名乗った奴は魔物の後ろに立ち、ものすごい迫力を放ってきている。

 あのキマイラが子犬に感じるほどの恐怖と絶望で、三人とも動けなかった。


「あれが、魔王……」


 この日、僕たちは出会った。

 出会うはずのない、二つの存在が……。






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