第四章10 『祝宴』
【2017年10月30日改稿。読みやすく改良致しました】
「ううん……」
あれ、なんで僕、寝てんだ?
しかもここ……天井は見たことないし、随分と豪華な場所で…………。
「あ、勇者様。起きたんです?」
目を覚まして戸惑っていると、モルちゃんが顔を覗き込んできた。
いつもの動きやすさ重視の白装束と違い、随分とおめかししているようで、きれいなドレスがモルちゃんの可愛さを引き立てており(身長と胸は残念だが)、いつもの黒のツインテールもどこかしら艶があるように見えた。
……え?
豪華な部屋の寝室。加えてモルちゃんと二人。……記憶もない。
やばくね?
「ももももももモルちゃん、これはどういうこと? もしかして僕、モルちゃんと……」
最悪の想像をしてしまったが、彼女が首を振ってくれた。
「違うですよ。そうだったら嬉しかったです」
「じゃあ、ここはいったい……」
「覚えてないです? キマイラと戦って勇者様は倒れてしまったですよ」
「あ……」
モルちゃんに言われ、なんとなく思い出してくる。
ウィズダム古城でキマイラと戦い、奴が謎の死を遂げ、その死体を見た僕は――。
「卒倒したのか……だっせ」
「そんなことないですよ。カッコ良かったです」
「……そ、そう?」
「ですです。ですから、手早く今から済ませるです? 先程は勘違いでしたけど、今から現実に」
「間に合ってます。ところで、ここは? 見たところなんか高そうな部屋だけど」
「ホテルじゃないです」
正直、それを聞いてホッとした。
いや待て。どうしてモルちゃんにそんな知識があるんだ?
もしかしてこっちの世界にも、あるのか?
「ぐへへへへ」
「……」
おっと、冷たい視線を向けられてるぞ。危ない危ない。
「勇者様の変態妄想は置いておいて、ここはシュテム王国のお城ですよ」
「城? 牢屋には見えないけど」
「わたくし達は義勇兵団に協力し、功績を残したということで特別に出席させていただけてるですよ」
「出席って?」
「王国主催の祝宴です。魔物の脅威が去ったということらしいです」
な、な、な……。
「なんだって!?」
「王国主催の祝宴です。魔物の脅威が去ったということらしいです」
「あ、いや、聞き返したわけじゃ……でもそう言われてみると、遠くで声が聞こえる」
「お城の中庭がパーティー会場です。ここから近いですよ」
成程……。
「もしかして、モルちゃんは心配してパーティーよりも優先してくれたの?」
「そうです」
やばい。なんか涙出そう……。泣いてもいいかな? いいよ――
「勇者様に死なれては、子作りできないです」
「うん。予想通りの返しだ」
ベッドから起き上がり、僕はモルちゃんと共に部屋を出て中庭を目指した。
さすが城だな。めちゃくちゃ高そうな壺とか絵画がズラリと並んでる。
これ、一つくらい盗んでもバレないんじゃ……。
「勇者様、今回の作戦が成功したのでわたくし達にも報酬が出るです。お願いですから、犯罪者になる前に思い直すです」
「……モルちゃん、心読めるの?」
「勇者様の単純思考はお見通しですよ」
なんかムカつくけど。言い返せねぇ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
二人で廊下を歩いていくと、人が大勢集まってるパーティー会場に到着した。
「あ、勇者様よ。すてきねぇ」
「愛してますわ~~」
会場に着くなり、ドレスアップした女性たちのラブコール&投げキッスを浴びるなんて、さすが僕って感じかな。はっ。
「僕も愛して――」
「勇者様、はしたないです」
「……祭りのときくらい、羽目外しても」
「羽目を外すなら、すぐに部屋の戻ってわたくしと――」
「ああ、はいはい。エリカちゃんたちと合流しよっか」
「Death」
「なんか今の、いつもとテイスト違くね?」
「他意はないです」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
中庭という割にバカに広い。
さすが王国を収める権威ある城というところか。
しかし、ここは天国じゃん。
汗臭い男もいるみたいだけど、ドレスで解放感と高級感に溢れる女性の数々……はぁ、生きててよかったなぁ。
「あ、僕にも頂戴」
「かしこまりました。こちら、我が国の名産から作った飲み物でございます」
「じぃ……」
「……2つください」
「もちろんでございます」
歩いていたウェイターに声をかけ、グラスをもらった。
「はい、モルちゃん。お酒じゃないよ」
「……はぁ」
溜息を一つ。そしてモルちゃんはグラスをチビチビと飲み始めた。
まあ、テンションが下がるのも頷けるよな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
数分前――。
『あ、エリカちゃん』
『勇者、身体は大丈夫なの?』
『心配してくれるの? 嬉しいなぁ』
『……大丈夫みたいね。じゃあ、あんたとモルにこの場は任せるわよ』
『え?』
『シュネーが見当たらないのよ。外を捜してくるから、ここにいて』
『シュネーさんが?』
『そうなの。古城からは一緒に帰ってきたんだけど……。いい? 勇者のメンツもあるから、しっかりしてるのよ?』
メンツって……すでにズタボロのような気がするんだけど。
『モル、こいつのこと頼んだわよ』
『ま、またです? わたくしは人ごみが好きじゃ――』
なんか、最近はモルちゃんに僕を押し付けてるよなぁ、完璧に。
『じゃあ、行ってくる。終わったら、宿屋に戻ってくるのよ。それと王様への挨拶、頼んだわ』
『あ、ちょっと――』
~~~~~~~~~~~~~~~~~
――という感じだ。
「なんか、シュネーさんが友達になってからというものの、エリカさんのわたくしへの扱いがひどい気がするですよ」
飲み物を飲みつつ、モルちゃんはふくれていた。
モルちゃん、人混み苦手そうだしなぁ。
「よし、モルちゃんは先に帰っていいよ。こういう場所は、パリピの僕が適材適所っしょ!!」
「無理です。勇者様から目を離したら、どうせ酒飲みになってしまうです」
なぜバレたし。
「……あれ?」
そんなことを話して会場の隅にいると、人混みが突然、道を作り出した。
そしてその中央を、見知った長い名前の騎士と、白髪で気高い雰囲気を醸し出す豪奢な男がやってくる。
「あれが、国王様ですよ。勇者様」
「いかにも。って感じだなぁ」
小声で話していると、彼らが目の前までやってくる。
「そなたが勇者であるか。此度の作戦に協力してくれたこと、国民を代表して礼を言おう。ありがとう」
「――!?」
え、偉い人だよな、王様。こんなに簡単に頭下げていいのか?
「ま、まあ勇者ですから、当然ですよ。あっはっは」
「(調子いい人です……)」
「なんと、さすがは勇者である。では、此度の感謝の気持ち、受け取ってもらえるか。おい、あれを――」
「はっ……」
そう言って王様が傍にいた長い人に話しかける。
来たぞ来たぞ……。
ゴクリ。
これが大金だったら、借金をチャラにして毎日飲み放題……!!
自由よ! 待っていてくれ! 今そっちに行くぜ!
僕は期待に胸を膨らませ、長い人が取り出した袋を、さも興味がないように装いながら凝視していた。
そして袋から取り出されたのは、一枚の紙とメダルのようなものだった。
「勇者よ、この先の王国に渡るための通行手形である」
「あ、ありがとうございます……(いらねええええええええええええ!!)」
なに、通行手形って何!?
「通行手形……珍しいです」
おっと、モルちゃんが怪訝な表情をしてる。
やっぱおかしいよな、こんなのってないよな!!
「さすがは博識の魔法使い殿であるな。実は、通行手形を発行しているのは最近からなのだ」
「最近……もしかして例のあれです?」
あれ、とは?
いや、「あれ」の正体なんかどうでもいいんだよ。
金銀よこせよ!! 命張ってんだぞ!! もう少しで食われるところだったんだぞ!
モルちゃんもそこをさぁ、もっと追及して――
「うむ、いかにも。ここ数日、エスタ王国とファダムード王国の戦争が激化しておるから、ここより先の通行を限定しているのだ。しかし、戦争が終わらぬことには海も渡れぬ。仲裁に入ろうと検討したが、両国ともに話を聞かぬのだよ」
「両国の争いは、今に始まったことではないです。しかし、納得ですよ」
……なんか、ケチつけられる方向じゃないな、これ。
「では、こちらのメダルは何です?」
お、またしても期待の持てる質問だ。
「そちらは、代々シュテム王国に伝えられてきたものです。『勇者の遺品』と言われており、先代から新たな勇者が訪ねてきた際に渡すよう、言われておったのです」
爺さん、そうじゃないんだよ。
先代も先代だって!! 遺品なんていらない!! 生活費をください!!
遊んで食べて寝る、それを繰り返せるだけの生活費をください!!
「勇者の遺品、です……?」
「左様。世界各地に散らばる勇者の遺品を集め、魔王に挑む。伝承に書かれてある通りですぞ」
なにその伝承、初耳なんだけど……。
「では、ありがたくいただくですよ」
モルちゃん……。
「あぁ、そうそう。忘れておった」
王様が引き返してきた。
ここにきてどんでん返しか?!
「勇者が頼ってくるのであれば、我が国の騎士たちを向かわせますぞ。その際は文を寄越してくだされ」
「あ、はい。そうします」
わかってたよ。わかってたけどね……。
「その際は、小生が駆けつける。このシュテム王国騎士団長にしてウィズダム古城侵攻作戦の総指揮を執った義勇兵団長筆頭騎士、リッター・フォン・ブルクゲル――」
こうして、祝宴は終わり、夜も更けていった……。




