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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第四章 「クズ勇者、自信をつける」
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第四章9 『剣を手に』

【2017年12月2日改稿。読みやすくしました。内容の変更はありません。】

 


 ウィズダム古城に攻め入った勇者一行は、キマイラ大臣を前にして歯が立たない。

 果敢に立ち向かったエリカがやられそうになり、勇者はついに剣を取った……。




「仲間を置いて……逃げられるわけないだろ!!」


「勇者様!?」

「あの、馬鹿……!」


「もう遅い!! 最善ではないぞ!!」


「――っ!」


 キマイラの言うとおり、間に合わない。奴の攻撃が先だ……。

 ごめん、エリカちゃん……!



 パキイイイィィン!!



「――!?」


 キマイラの右前足が振り下ろされそうになったが、白い霧のようなものが突然部屋の中に溢れ、奴の四本足と翼が一瞬の内に凍り、動きが止まる。


「……ぐっ、このようなもの!」


「ど、どういうことです?」

「――!」


 モルちゃんの一言で我に返り、状況を把握するよりも先に、僕はすぐに剣を握り直した。



「あああああ!!」



 その場の誰もが驚く中、僕はすかさずキマイラの身体を剣で切り付ける。

 流れるように体に身を任せてみると、イメージした通りに剣を使いこなし、キマイラの腹部を切り裂いた。


 ズバアアッ!!


「ぐふっ――」


「や、やった!」

「――まだよ!!」


 剣の手ほどきを受けたことはない。

 でも、やっぱ勇者ってことじゃね?


 僕、戦えんじゃん!!

 エリカちゃんの手前に立ち、僕は剣と楯を構える。

 今の僕、かなり勇者っぽいじゃん!!


「おのれ、ゆう――ぬっ!?」


 パキイイン!!


 再び白い霧がキマイラの周囲を渦巻くと、奴の身体は頭だけを残し、ほとんどが氷漬けになっていく。


「ぐっ、翼も足も凍らされるなど……ありえん!!」


「キマイラ、また凍ってますですよ……これは一体、どういうことです?」


 状況は不明のまま、白い霧によって四本の足がすべて凍らされ、キマイラは身動きが取れなくなった。

 そして奴は何か思い立ったのか、目を見開いて自身の凍らされた身体を見る。


「我にも砕けぬとは……この氷、まさか…………雪女の仕業か!?」


「雪女……?」


 そういえば、モルちゃんが言ってたな。雪女は魔王の幹部だったはずだ。

 でも、これが雪女の仕業だとしたら、何のために――。


「ぼさっとしないで! モルも準備!! チャンスよ!」


「そ、そうだ!! キマイラ、覚悟しちゃいなよ? お前は勇者の最初の――」


「はよ、やれ!!」


 エリカちゃん、そんなに叫べるってことは、まだ大丈夫じゃね?

 でも、このほうがエリカちゃんだよな。あんな顔、二度と見たくねえっての!!


「勇者様、合わせてくださいです!!」

「わかった! ――って、何に!?」


「いいから、キマイラに攻撃を!!」


 言われたとおりに、僕はキマイラの顔面目掛けて剣を振るう。

 すると、キマイラは大きく口を開けてきた。


「愚か者が。動けなくとも、炎は吐ける。最善なり!!」


「ちょ、まっ――!」

「勇者! 仲間を信じなさい!!」


 エリカちゃん……そうか、モルちゃんがいるんだ。


「信じて死ぬってのは、ちょっとカッコいいしな!!」


 剣を振りかぶる。

 すると、キマイラの頭上から光の剣が落ちてくるのが視界に入った。


「光の剣よ。魔の者を貫け!!」


 キイイィィイン!!


 これに合わせろってことか。よおし!!


「馬鹿め。貴様の魔法は最善ではない。我にはこの程度の……っ!?」


 ズシュッッッ!!


「や、やりましたですよ!!」


 光の剣がキマイラの頭上をかすり、口元目掛けて落ちてくると、奴の大きな口を床に縫いつけるかのように剣が突き刺さる。


「んぐっ……!」


「じゃあな! キマイラ!!」


 すでに瀕死まで追い込んだキマイラの眉間に、僕は最後の一撃を振るった。


 ズバシュッッ!!


「ぐ、がぁ……」


「ふっ……またつまらぬものを斬ってしまった」


 キマイラの顔面を切り裂くと、剣の血を振り払うように決めポーズをして見せる。


 あぁ、なんてカッコいいんだ。

 まさか、勇者としての才能があったとは。自分で自分が恐ろしいってね。



「――! 馬鹿!!」

「勇者様、後ろです!!!」



「え……?」



 しかし自分に酔っていた僕は二人の声で我に返らされる。


「二人とも、今いい所じゃん。って、なんでこっちに走ってこようと――」


「がはぁ……」


 キマイラの荒い呼吸が耳元で聞こえ、生温かい風を背中に感じる。


「ぐ、ふぅ……せ、めで、ゆうじゃ、だけでも……最善な行動を」


「――!?」


 声に驚いて振り返ると、奴はモルちゃんの光の剣で塞がれていた口を無理やりに開き、血をボタボタと垂らしていた。

 顔に獣臭い粘り気のある血液と唾液が混ざり合い、ベチャベチャと落ちてくる。


「あ……あぁ……」


 汚いとか臭いとかよりも、声が出ない。

 本当に恐怖した時、人間は声が出ないのかもしれない。


 僕は先程までの威勢のよさも失い、血の気が引き、棒立ちでキマイラの大きな口が閉じようとしているのを見つめていた。

 このままだと頭を引きちぎられる。確実にそういう口の開き方だ。

 身体全体に影が落ち、もう口の中だった。



 待てよ。死ぬんじゃね?

 いくら勇者でも、死ぬんじゃね?



 確実にそう思った。

 そう思った瞬間、外側で何か音が聞こえた気がした。

 瞬間、僕は目を瞑る。



 ザグシュッ!! ……ズスウンッ。



「……え?」



 しかしキマイラに身体を両断されることはなく、奴の頭が吹き飛ばされ、視界の端にゴロリと転がると、たてがみも宙を舞いながら床に落ちる。


 そして落ちるとともに大量の血液が噴出し、体中にかかった。


「き、汚ね……。何が起こって……え?」


 目の前には首の断面がむき出しになっていた。血肉と骨が見事に切断され、頭と胴が切り離されているようだ。


「は、はは……グロいとか、そんなレベルじゃねぇ……」


 ガクン――。


「ゆ、勇者様!!」


 キマイラを見た瞬間、僕は身体の力が抜けて足から崩れ、視界がブラックアウトした。

 その間近、冷たい空気を肌に感じ、ダイヤモンドダストのような光が見えた気がした。







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