表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第四章 「クズ勇者、自信をつける」
64/209

第四章5 『駐屯地の夜の月』

【2017年10月30日改稿。読みやすく改良致しました】



 勇者一行はウィズダム古城跡の魔物を倒すべく、まずは同じく魔物討伐を掲げる王国の義勇兵団と合流するべく、彼らとの合流を目指した。

 そしてウィズダム古城の程近く、霧の湖畔と呼ばれる森深くにある湖畔で、義勇兵団の駐屯地を発見する。

 エリカの交渉で彼らは駐屯地に招かれ、そこで兵団長と出会うのだが……。



「紹介が遅れてしまった。小生の名は、義勇兵団長筆頭騎士、リッター・フォン・ブルクゲル・レーヴェス・アイン・ナーゲシュテルフ・ドンナーケルクと申す」



 義勇兵団長の自己紹介に、誰もが思ったことを、僕が口走ってしまった。


「名前長すぎじゃね?」

「……なんだと?」


 長い人の怒りを買ってしまったのか、途端に空気が殺伐としてくる。


「勇者様、謝った方がいいですよ」

「そ、そうだね」


 モルちゃんのアドバイスは確かだ。

 これから協力しようとしてるのに、ここで険悪になるのはヤバい。

 それに、こいつらの働き次第で、僕が楽できるんだし……あれ、久しぶりにやるしかないか。

 僕はゆっくりと膝をついた。


「すんませんしたあああああっっ!!」


「いきなり土下座っ?! あんた、プライド無いの?!」


 エリカちゃん、プライドが無いんじゃない。


 これが、生きるために泥水をすするってことさ!!


「……なんか、あんたの土下座。綺麗すぎて引くわ」


「ええっ!? そりゃないよ!」


 バッと起き上がってエリカちゃんに反論するも、目の前には長い人が立っているのを忘れていた。


「――! え、えっと、な、名前が長いのはすごい人ってことっすよね。尊敬します!」


「馬鹿……」


 エリカちゃんには呆れられ、モルちゃんには心配をかけている。シュネーさんも状況に息をのんでいた。


 しかし、土壇場で出た言葉は、長い人には効果的だった。


 ガシィッッ!!


「え?」


「わかってくれるか!! いやぁ、勇者ってやつは凄いな!!」


「え、えーと、もちろん!!」


 涙を浮かべて両手を握ってくる。先程の迫力は欠片もない。



「小生はずっと長い名前をいじられてきてな。若干のトラウマがあったのだ。貴殿も同類かと一瞬思ったが、まさか名前の長さを理解してくれる者がいたとは。

 あ、この際の貴殿というのは勇者様のことだから、安心してくれよ。ええっと、あとはそうだなぁ……あ、そうそう学友は数名いたのだ。モロフスにゲンダロウ、それから――」



「……」


 誰も言葉が出なかった。勝手に一人で話し始め、どうでもいいことをグダグダと語っている光景に、声をかけようとする勇者はいない。

 さすがのエリカちゃんもドン引きしている。


 そう。長い人はまさかの、話も長い人だった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~



「えっと、勇者様でしたな」


 ようやく自伝が終わったかと思うと、急に話を本筋に戻してくる。


「あ、はい」


「小生は勇者が嫌いだ」


「……」


 えぇ…………?!


 なに、この人。

 ものすごく嫌なんだけど。


「しかし、今回の作戦。貴殿らが加わっていただけるのであれば心強い」


 お、これって……。



「その言葉通り、私達も勇者一行として、魔物の好き勝手を許せないの。この兵団に協力させてほしいのだけど、そのために私たちのテントを貸してくれないかしら」



 エリカちゃんは待ってましたと言わんばかりに、長い人の提案を受け入れる。


「もちろんだとも。四人で一基になるが、いいか?」


「そうね。それでいいわ。あと作戦についてなんだけど――」


 こうなったらエリカちゃんに任せておこう。

 モルちゃんと目配せし、ついでにシュネーさんにも合図を送る。それからは後ろで立っているだけで、話がどんどんと進められていった。



 テントを一基借りることができ、僕たちはそこで休息している。


「あの長い名前の団長、話せばわかるやつだったわ。無駄話が多いけどね」


 エリカちゃんが褒めるとは。明日は雨か。


「あんた、失礼な想像してない?」


「し、してないっての」


「どうだか? 同じ部屋だからって変なことしたら殺すわよ」


 そ、そこまでっすか。

 だが、こればかりは黙っちゃいられん!


「生憎、僕は童貞じゃないからね! そんなモテない男の思考には走らないし!」


「「……!!」」


 しかしそう言い切ると、エリカちゃんとモルちゃんは顔を赤らめていた。


「え、どうしたの? も、もしかして二人って、しょ――」

「この変態!!」


 バシイイイイン!!!


「へぶっ!!」


 ここ最近で一番のビンタだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夜になり、エリカちゃんとモルちゃんは既に眠ってしまったようだ。

 シュネーさんは……暗くてわからない。

 僕はまだ眠たくない。頬が痛むわけではないが、なんとなく夜風を味わいたかった。


「うわぁ……」


 テントを出ると、湖畔は月明かりを水面に映しだし、幻想的な眺めだった。


 きっと以前の世界では、こんな景色に触れることは難しい。

 湖畔に沿って歩き、月を眺める。

 すると、同じく夜風に当たりに来ていた人物が月光に照らされていた。


「――!」


 真白の髪がなびき、和服は彼女を引き立てる。

 絶世の美女と称したらいいか、この瞬間は彼女の姿に見惚れてしまいそうだった。


「……! だ、誰ですの?」


 どうやら気配で気づかれてしまったようだ。


「僕だよ」

「勇者様……もしかして勇者様も?」


「まだ眠たくなくてね。隣、いいかな?」


「……はい。どうぞ」


 シュネーさんの隣に立ち、僕も湖畔を眺めた。

 こうして二人きりになるのは、初めてな気がするな。


「勇者様、一つ質問してもいいでしょうか?」

「なに?」


「勇者様にとって、仲間というものは何ですか?」


 難しい質問だな……仲間ってことは、エリカちゃんとモルちゃんのことだろ?


「そうだなぁ、一緒にいたい人かな」


「――! あ、あの、もう一ついいでしょうか?」


「いいよ。なにかな」


「……もし勇者様が、仲間を助けることができて、そのために大切なものを手放すのだとすれば、どういたしますか?」


 なんか、また難しくね? でも、そうだなぁ……。


「僕なら、自分に正直に生きるよ。仲間と大切なもの、二つとも守りたいし」


「……! そ、そうですか」


「役に、立てたかな? シュネーさんの隠し事の」


「え……」


 ずっと知っている。

 この人は僕たちに何かを隠し続けている人だ。


 僕が女の人を見抜けないはずがない。その証拠に、シュネーさんは驚いている。


「ど、どうして……そんなことを?」


「いいや、言いたくないならいいんだ。そのうち、僕たちに話してよ。エリカちゃんは黙っていられるよりも、その方が好きそうだし。んじゃ、僕はそろそろ寝るから。おやすみー」


「……」


 わざとらしく立ち去った。

 これ以上は踏み込めない。シュネーさんが決めることだ。

 ま、色男はカッコよく去るのが生きがいだしね。



 ~~~~~~~~~~~~~~~



 勇者が去っていくのを見て、シュネーは湖畔に目を移した。


「……話すことなんて、できませんよ」


 そしていつも通り、誰に見られることもなく、シュネーはその場から姿を消した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ