第四章5 『駐屯地の夜の月』
【2017年10月30日改稿。読みやすく改良致しました】
勇者一行はウィズダム古城跡の魔物を倒すべく、まずは同じく魔物討伐を掲げる王国の義勇兵団と合流するべく、彼らとの合流を目指した。
そしてウィズダム古城の程近く、霧の湖畔と呼ばれる森深くにある湖畔で、義勇兵団の駐屯地を発見する。
エリカの交渉で彼らは駐屯地に招かれ、そこで兵団長と出会うのだが……。
「紹介が遅れてしまった。小生の名は、義勇兵団長筆頭騎士、リッター・フォン・ブルクゲル・レーヴェス・アイン・ナーゲシュテルフ・ドンナーケルクと申す」
義勇兵団長の自己紹介に、誰もが思ったことを、僕が口走ってしまった。
「名前長すぎじゃね?」
「……なんだと?」
長い人の怒りを買ってしまったのか、途端に空気が殺伐としてくる。
「勇者様、謝った方がいいですよ」
「そ、そうだね」
モルちゃんのアドバイスは確かだ。
これから協力しようとしてるのに、ここで険悪になるのはヤバい。
それに、こいつらの働き次第で、僕が楽できるんだし……あれ、久しぶりにやるしかないか。
僕はゆっくりと膝をついた。
「すんませんしたあああああっっ!!」
「いきなり土下座っ?! あんた、プライド無いの?!」
エリカちゃん、プライドが無いんじゃない。
これが、生きるために泥水をすするってことさ!!
「……なんか、あんたの土下座。綺麗すぎて引くわ」
「ええっ!? そりゃないよ!」
バッと起き上がってエリカちゃんに反論するも、目の前には長い人が立っているのを忘れていた。
「――! え、えっと、な、名前が長いのはすごい人ってことっすよね。尊敬します!」
「馬鹿……」
エリカちゃんには呆れられ、モルちゃんには心配をかけている。シュネーさんも状況に息をのんでいた。
しかし、土壇場で出た言葉は、長い人には効果的だった。
ガシィッッ!!
「え?」
「わかってくれるか!! いやぁ、勇者ってやつは凄いな!!」
「え、えーと、もちろん!!」
涙を浮かべて両手を握ってくる。先程の迫力は欠片もない。
「小生はずっと長い名前をいじられてきてな。若干のトラウマがあったのだ。貴殿も同類かと一瞬思ったが、まさか名前の長さを理解してくれる者がいたとは。
あ、この際の貴殿というのは勇者様のことだから、安心してくれよ。ええっと、あとはそうだなぁ……あ、そうそう学友は数名いたのだ。モロフスにゲンダロウ、それから――」
「……」
誰も言葉が出なかった。勝手に一人で話し始め、どうでもいいことをグダグダと語っている光景に、声をかけようとする勇者はいない。
さすがのエリカちゃんもドン引きしている。
そう。長い人はまさかの、話も長い人だった。
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「えっと、勇者様でしたな」
ようやく自伝が終わったかと思うと、急に話を本筋に戻してくる。
「あ、はい」
「小生は勇者が嫌いだ」
「……」
えぇ…………?!
なに、この人。
ものすごく嫌なんだけど。
「しかし、今回の作戦。貴殿らが加わっていただけるのであれば心強い」
お、これって……。
「その言葉通り、私達も勇者一行として、魔物の好き勝手を許せないの。この兵団に協力させてほしいのだけど、そのために私たちのテントを貸してくれないかしら」
エリカちゃんは待ってましたと言わんばかりに、長い人の提案を受け入れる。
「もちろんだとも。四人で一基になるが、いいか?」
「そうね。それでいいわ。あと作戦についてなんだけど――」
こうなったらエリカちゃんに任せておこう。
モルちゃんと目配せし、ついでにシュネーさんにも合図を送る。それからは後ろで立っているだけで、話がどんどんと進められていった。
テントを一基借りることができ、僕たちはそこで休息している。
「あの長い名前の団長、話せばわかるやつだったわ。無駄話が多いけどね」
エリカちゃんが褒めるとは。明日は雨か。
「あんた、失礼な想像してない?」
「し、してないっての」
「どうだか? 同じ部屋だからって変なことしたら殺すわよ」
そ、そこまでっすか。
だが、こればかりは黙っちゃいられん!
「生憎、僕は童貞じゃないからね! そんなモテない男の思考には走らないし!」
「「……!!」」
しかしそう言い切ると、エリカちゃんとモルちゃんは顔を赤らめていた。
「え、どうしたの? も、もしかして二人って、しょ――」
「この変態!!」
バシイイイイン!!!
「へぶっ!!」
ここ最近で一番のビンタだった。
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夜になり、エリカちゃんとモルちゃんは既に眠ってしまったようだ。
シュネーさんは……暗くてわからない。
僕はまだ眠たくない。頬が痛むわけではないが、なんとなく夜風を味わいたかった。
「うわぁ……」
テントを出ると、湖畔は月明かりを水面に映しだし、幻想的な眺めだった。
きっと以前の世界では、こんな景色に触れることは難しい。
湖畔に沿って歩き、月を眺める。
すると、同じく夜風に当たりに来ていた人物が月光に照らされていた。
「――!」
真白の髪がなびき、和服は彼女を引き立てる。
絶世の美女と称したらいいか、この瞬間は彼女の姿に見惚れてしまいそうだった。
「……! だ、誰ですの?」
どうやら気配で気づかれてしまったようだ。
「僕だよ」
「勇者様……もしかして勇者様も?」
「まだ眠たくなくてね。隣、いいかな?」
「……はい。どうぞ」
シュネーさんの隣に立ち、僕も湖畔を眺めた。
こうして二人きりになるのは、初めてな気がするな。
「勇者様、一つ質問してもいいでしょうか?」
「なに?」
「勇者様にとって、仲間というものは何ですか?」
難しい質問だな……仲間ってことは、エリカちゃんとモルちゃんのことだろ?
「そうだなぁ、一緒にいたい人かな」
「――! あ、あの、もう一ついいでしょうか?」
「いいよ。なにかな」
「……もし勇者様が、仲間を助けることができて、そのために大切なものを手放すのだとすれば、どういたしますか?」
なんか、また難しくね? でも、そうだなぁ……。
「僕なら、自分に正直に生きるよ。仲間と大切なもの、二つとも守りたいし」
「……! そ、そうですか」
「役に、立てたかな? シュネーさんの隠し事の」
「え……」
ずっと知っている。
この人は僕たちに何かを隠し続けている人だ。
僕が女の人を見抜けないはずがない。その証拠に、シュネーさんは驚いている。
「ど、どうして……そんなことを?」
「いいや、言いたくないならいいんだ。そのうち、僕たちに話してよ。エリカちゃんは黙っていられるよりも、その方が好きそうだし。んじゃ、僕はそろそろ寝るから。おやすみー」
「……」
わざとらしく立ち去った。
これ以上は踏み込めない。シュネーさんが決めることだ。
ま、色男はカッコよく去るのが生きがいだしね。
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勇者が去っていくのを見て、シュネーは湖畔に目を移した。
「……話すことなんて、できませんよ」
そしていつも通り、誰に見られることもなく、シュネーはその場から姿を消した。




