第四章4 『時に名前は煩わしい』
【2017年10月30日改稿。読みやすく改良致しました】
義勇兵団の情報を手に入れた勇者一行は、彼らに追いつき、合流を図ることにした。
向かう場所はウィズダム古城跡。そこで魔王の配下が人間界への侵略を企てているらしい。
それを阻止するためには、勇者たちは義勇兵団と共に魔王の配下と戦わねばならなかった。
シュテム王国の中心部から歩くこと一時間。
最初は平野だったが、途中からシュネーさんの案内で鬱蒼としてきた緑の多い道を進んでいくと、いつの間にか小さな森林地帯に踏み込んでいた。
「ここ、すごいな……」
「勇者様、おんぶしてほしいです」
「えー」
「見るからに嫌そうです」
「勇者、してあげなさい」
「……はい」
「エリカさんの命令は絶対なんです?」
モルちゃんを背負い、しばらく歩いていくと森を抜け出た。
「うわぁ……」
「ここが霧の湖畔……聞いてた通り幻想的な場所ね」
森を抜けた先の光景に、僕もエリカちゃんも感嘆の声を漏らした。そこは妖精が水浴びをしていそうな神秘的な湖畔で、目を奪われてしまう。
「エリカ、あそこみたいですわ」
シュネーさんの言葉通り、湖畔の近くにテントが見えた。義勇兵団だろう。町で見かけた旗を掲げている。
「どうやら、追いついたようね。近づきましょう」
近づいてみると、そこにはテントが何基も張られており、甲冑や剣、大砲に馬が並べられていた。
周囲には柵が作られ、出入り口となる門には重装備の男が二人おり、中の雰囲気は物々しく、近づきがたい。
それに、見る限り男ばかりだ。
「ね、ねえエリカちゃん。本当にあの中に混ざるの? 男ばっかじゃん」
「そうでもしないと、魔王の配下は倒せないわよ。たった数人じゃ何もできないわ」
「で、でもさぁ」
「今回は、勇者がいるでしょ」
「――!」
その言葉に、先日の言葉を思い出す。
エリカちゃんが、イルハットの町で教えてくれた、魔王に執着する理由だ。
「……しゃあないな」
「それでこそ勇者よ」
エリカちゃんが嬉しそうに笑った。
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「たのもおおおおおお!!」
だからといって、この突入の仕方はどうだろう。
エリカちゃんを先頭に、僕たちは彼らの駐屯地にやってきた。
ウィズダム古城が遠目に見える場所に、駐屯地が設置されている。
ここには市民や騎士の連中が大勢集まっているらしいが、そこにエリカちゃんは大声で訪ねたというわけだ。
「何者だ。貴様ら!」
「エリカさん、いきなり武器を向けられてるですよ」
「だ、大丈夫でしょうか?」
僕たちはエリカちゃんから少し離れた場所にいて、彼女の勇姿を見守っていた。
エリカちゃんは当然のごとく不審者扱いされるが、出てきた騎士の二人に身振りでぶりで何やら話しており、こちらを指さしてくる。
「あ、戻ってくるです」
「何かあったのでしょうか?」
エリカちゃんが大手を振って戻ってくると、開口一番にこう言った。
「交渉成立よ」
一体、どんな交渉術を使ったのやら。
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先程の騎士二人に招かれるようにして、僕たちは駐屯地に足を踏み入れた。
周りからの視線が突き刺さる。視線には慣れてるけど、野郎の視線はいらねぇ。
「こちらに、兵団長がおります」
「助かったわ」
エリカちゃんが二人の騎士に礼を言うと、こちらに振り向いてきた。
「エリカさん、どんな交渉したです?」
「勇者のことを話したらすぐに通してくれたわ。さ、みんな。中に兵団長がいる。彼らと協力させてもらいましょう」
「で、でも、ここまで来ておいてあれなんだけどさ、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。あんたは後ろに控えて、私に任せなさい」
エリカちゃん、なんて頼もしいんだ。
一生、養ってくだせえ!!
「じゃ、失礼しま~す」
軽い感じでエリカちゃんはテントを開き、中に入っていく。
僕たちも続いて入っていくと、どのテントよりも広く、中央に木のテーブルが置かれ、戦略図のようなものが広がっている。
それを見て僕はゴクリと息をのんだ。
こんなの、映画でしか見たことないし、本格的な奴じゃん!
長机の端、僕たちの視線の先に、背の高い甲冑姿の男がこちらに背を向けて立っている。
「あなたが、この義勇団の兵団長?」
「いかにも」
エリカちゃんの問いに、声が返ってくる。意外と若い声だった。
そして男は振り返る。見るからに年上で、迫力だけで気圧されそうな強面の男だ。
「……勇者様、怖いです」
「僕も若干、怖いかも」
「ダサいです、勇者様」
なんとでも言ってくれ。
ホスト時代も借金生活も怖い連中に追い回されていたけど、彼らと同等かそれ以上の迫力だ。
別に顔に傷があるわけじゃない。気迫のようなものが恐ろしかった。
「君たちが、勇者ということか。ふむ。そこの男の剣と楯は、本物のようだな」
「認めてくれたみたいね」
エリカちゃんは普通にやり取りしてるけど、怖くねえの?
「紹介が遅れてしまった。小生の名は――」
「義勇兵団長筆頭騎士、リッター・フォン・ブルクゲル・レーヴェス・アイン・ナーゲシュテルフ・ドンナーケルクと申す」
『………………』
その場の誰もが思った。それを僕がついつい口に出してしまった。
「名前長すぎじゃね?」
「……なんだと?」
次の瞬間、今日一番の恐ろしい視線が、長い人(勇者命名)から送られた。




