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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第三章 「社畜魔王、会談する」
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第三章15 『心の髄まで人間』

【2017年10月22日改稿。読みやすく改良いたしました。】

 


 ハーピーが錯乱して魔王を殺そうとしたという話は、その日の内に城中に広まった。

 ハーピー族は死んだ族長の跡を副族長が継いだけれど、彼女たちは魔王の幹部から外され、幹部の下である下級魔物へと成り下がった。

 そして一夜明け、魔王は眠ったまま、心配した護衛衆や秘書が、彼の部屋に集結していた。



 セイレーンが魔王に治癒の水魔法を使っている中、それを残りの者達は離れてみていた。


「このデュラハン、一生の不覚……」


 痛々しく包帯に包まれた魔王の姿を見て、デュラハンが真っ先に口にすると、彼はおもむろに剣を腹部に突き立てる。


「デュラハンさん!?」


 ミノタウロスが驚いて止めようとするも、デュラハンはガチャガチャと暴れ、切腹を続行しようとしていた。


「放せ! 我はこれ以上!!」

「早まっちゃ駄目です!! 魔王様も悲しみます!!」

「おお! フェニちゃんも混ざるお!!」


 フェニックスが加わって騒々しくなると、セイレーンが治癒の手を止め、ギロリと三人を睨み付ける。


「静かにしないと、許しませんよ」


「「「――!」」」


 口調は柔らかいが、目が笑っておらず、さすがの護衛衆もセイレーンの威圧感に静かになった。



「……サキュバス様、大丈夫ですの?」

「ええ……」


「とても、そのようには見えないですけれど……」


 部屋の端で静かに見守っていたサキュバスと雪女だったが、雪女はサキュバスの顔を見て言葉をかけていた。


「今回の件、お手柄でしたの。サキュバス様が間に合っていなければ――想像したくもありませんわ」


「……やりすぎ、ですか?」


「それは、ハーピーを消したことですの?」


 サキュバスは小さく頷く。

 それを見て、雪女は溜息をついた。


「……最善の判断ですわ。あのまま生かしても、彼女のことですから」


「雪女……」


「もう、あの方はいない。ここにいる魔王様こそ、次の魔王様。幼い頃から想いを寄せる彼女には、受け入れられないことですわ」


 雪女はそう言って、サキュバスのもとを離れ、魔王の様子を見に行った。


「魔王様……」



「し、失礼します!!」



『――!?』


 そんな、沈んだ空気を一変するように、部屋にサキュバスのメイドが入ってくる。


「何事ですか?」


「秘書様、至急の報せが!」

「言いなさい」


「はっ。勇者一行が、例の地点まで到達いたしました!」


 その報告に、全員が反応を示した。

 それは、これまで寝ていた魔王にも届いていた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ま、魔王様?!」


「ううん……セイレちゃん? あれ、みんなも……どうしたの?」


 俺は、あたかも目を覚ましたように上半身を起こし、目を擦ってみせた。


 つい先程、既に起きていたが、あえてそのまま会話に耳を傾けていた。

 その理由は、サキさんと顔を合わせるのが難しかったせいもあるけど、寝てる間のみんなの反応を窺っていたからだ。


 彼らはこんな俺に尽くし、本当に心配してくれていて、嬉しくもあり、苦しくもあった。


「魔王様、その、実は――」


「魔王様、勇者が例の地点まで到達しました。あの計画を実行する時かと思われます」


 セイレちゃんがすぐに状況を説明しようとすると、それを掻き消すかのようにサキさんが声を張る。


「サキュバス様……?」


 セイレちゃんが驚いているが、俺はサキさんの言葉を聞き、深く頷いた。

 彼女も、それを望んでいる。


「これから、勇者に会いに行くんだね」


「はい。ご準備を――」

「待ってください、サキュバス様! まだ魔王様が――」


 セイレちゃん……。

 俺は彼女の訴えに、首を振る。

 彼女が俺を心配してくれていることはわかったけど、俺は勇者の情報を耳にして、いてもたってもいられなった。


「俺なら大丈夫だよ。それよりも、早く、勇者に会いたい」


「魔王、様……」


 つい語気が強くなってしまい、セイレちゃんは少し驚いた表情を見せる。


 ごめん、セイレちゃん。


 彼女の心配も振り切り、俺はベッドから起きあがった。


「行こう、みんな」

『はっ!』


 それは魔王の言葉で、誰も逆らうことはなかった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――独白――


 なぜ焦っていたのか。

 それは、ハーピーの件があってから、気づかされたからだ。

 俺が魔王として認められたくて、それだけで満足していたってことを。

 自分が求められる状況に優越感を覚えていただけで、何一つ、俺は魔王として相応しくなかった。


 その証拠に、ビーストとの会談では、ほとんどサキさんに任せて、自分は護られるだけ。魔王の地位を武器に、簡単に発言するだけだった。


 つまり、俺は魔王として何一つしてこなかったんだ。

 やってきたのは、誰にでもできる書類の整理や確認。あの頃と変わらない雑務ばかり。


 何が魔王だ。


 オーガはその異変に気付き、魔王を倒そうとして絶滅した。

 これは、俺が殺したと言ってもいい。


 更に、ハーピーのことをもっと知って、彼女とも話しておけば、こうならずに済んだかもしれない。

 俺の怠慢が、彼らを殺した。

 そして、サキさんの手を汚した。


 ……考えれば考えるほどに、彼らの最期がフラッシュバックする。

 周りから称賛されるのは心地よかったけど、こんな気持ちになるなら、魔王になんてなりたくなかった。


 もう、嫌だ。


 勇者を倒せば人生をやり直せる。

 その言葉を信じ、今ある状況を――魔王を演じようとして演じきれていない大根役者を終わらせたかった。


 つまり、また俺は、逃げ出したかった。自分勝手な考えと願望で、全てを投げ出そうとしていたわけだ。


 あの時と同じ。

 死ぬことすらも他人任せにした最低の人生と、何も変わらない。


 そりゃそうだ。

 人は簡単に変われない。変われたら、この世界に俺はいない。

 だからわかってる。

 勇者を倒したって、また同じ俺が人生を繰り返すだけだ。

 でも、それでも……。


 次は変われるかもしれない。――そんな根拠のない自信ばかり並べてしまう。


 俺はどう足掻いても……心の髄まで人間だから。




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