第四章1 『勇者は浮気者の夢を見るか』
【2017年10月22日改稿。読みやすく改良いたしました。】
夢だ。
そう気づくのは簡単で、僕の意識だけがとある景色を映し出していた。
そう、目の前で馬鹿みたいにはしゃいでる金髪のチャラ男が、間違いなく以前の――勇者になる前の僕だ。
「ぎゃははは! まじウケる!!」
こうして端から見ると、やっぱ他のホストよりイケてる。
僕はこう見えて田舎の出身だ。父はすぐに他界してしまって、ずっと母に育てられた。
大物になって帰る。
そう粋がって田舎を飛び出した。幼馴染にも別れを告げず、母を一人残して上京した。
上京してからの僕は調子よく酒を飲み、女の子と喋る日々を過ごすようになった。大物になんて慣れやしなかったけど、楽しくて、それだけで十分だって思っていた。
しかし、こう考えてみると、とんだ馬鹿野郎だ。
毎日毎日酒と女に溺れる日々……エリカちゃんに口癖のように言われてるけど、傍からこの光景を見せられるとクズの汚名は仕方ないと思えてしまう。
大物になりたい願望はあった。
大物になって故郷に大量の金を持って帰って、みんなが暮らしやすいようにする。それが僕の夢だった。
でも「なりたい」だけじゃ「なれない」。
それに気づかされるのは、ホスト生活を始めてすぐのころだ。
そこまで思い出した所で、映像はバチバチと音を立てて途切れ始めた。
バツン――。
――!?
一瞬だけ故障したテレビのように砂嵐が巻き起こったが、途端に光景が変わる。
そこは街の路地裏――ゴミ捨て場の近くには、雨の中だというのに膝を抱えて座る男の姿が見えた。
すぐにわかった。あれは僕だ。
店のオーナーと喧嘩してホストをやめて、馬鹿を続けた男の末路。
大物になる道は途絶え、借金を背負い、どん底に落ちた僕だった。
そんな僕に、傘を差し伸べてくれる女の子がやってきた。
「こんなところにいたんだ。風邪引いちゃうぞ」
――ヒトミちゃんだ。
上京した当時、ホストとして働く前、フリーター時代に出会った美女。
彼女は帰りが遅い僕を心配し、迎えに来てくれたのだ。
ちなみに、彼女は僕を殺した女性。
僕を殺させてしまった。と言ったほうがいいかもしれないな。
僕の恋愛観と彼女の恋愛観は交わることがなかった。
彼女は一人をとことん愛するのに対し、僕は愛せるものであれば誰であれ愛してしまう。
それに気づかされるまで数年――僕は彼女と同棲し、借金も徐々に返していった。
順調に見えた日々だったが、突如として悲劇は起きた。
「ただいま……え?」
場面が変わり、とある日の夜。
バイトから帰宅した僕は扉を開けて固まる。
眼前にはヒトミちゃんが真っ赤に濡れた包丁を手に持ち、返り血を浴びた顔で振り返ってくる。そして光のない瞳で僕を出迎えた。
「おかえり……」
「ヒトミ、ちゃん?」
どうやら僕がバイトに行っている間、他の女の子が家に遊びに来てしまったらしく、この光景を見ただけであの時の背筋が凍った感覚が蘇る。
ようやく光景の中の浮気男も、部屋の奥で血まみれになっている存在に気付く。
ピクリとも動かない。あれはどう見ても死んでいた。
理由を尋ねると、ヒトミちゃんは家にやってきた彼女と話して自分以外に付き合っている女性がいたことを知ったらしい。彼女は淡々とした口調でそれを語っている。
だからといって殺すのはおかしい。
たとえ数年の間、共に過ごし、彼女に助けられたとしても、そこだけは当時の僕も否定した。
すると彼女は激昂し、僕はめった刺しにされて死んだ。
あの後のことは知らないが、僕はこの世界に勇者として生きることとなった。
それが今……。
自分の人生に後悔してるかと聞かれれば、していないと言ってしまう。
ただ、無関係な彼女が殺されたことと、ヒトミちゃんを犯罪者にしてしまったことが、悔やまれた。
映像は僕の死をもって終わり、暗闇に包まれた。
このまま旅を続けて魔王を倒す。
そうすれば人生をやり直せる。神様がそう言ってた。
でもこんな人生、もう一度やり直したいか?
絶対に嫌だね。
僕は一人を幸せにすることなんてできない。だからまた、どうせ彼女たちを傷つけてしまう。
それだけは何度やり直そうと同じ。
だから、もうあんなことは懲り懲りだ。ホストだって嫌だ。それに子供の頃の思い出は辛いものしかない。
そもそも人生なんて、やり直すもんじゃないっての。
……あ、いいこと思いついた。
これなら、最高じゃん。
妙案を思いつき、僕は段々と覚醒していった。




