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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第一章 「社畜魔王、誕生」
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第一章7 『社畜魔王、誕生』

【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】

 



「――きてください! 魔王様!!」




 声?

 そうか、俺……この身体に残っていた本物の魔王の魂と会っていたんだ。


「――ッ!」


 目を開けようとすると、徐々に光が差し込んでくる。

 そして、瞳に涙を溜めるサキさんの姿を捉えた。


「サキさ――」


「魔王様ッッ!」

「むぐっ!」


 いきなり抱きつかれてしまい、サキさんの小さいけれど少しは膨らみのある胸元に頭ごと押し付けられた。


「サキュバス様、周りの視線が気にならないなんて、さすが秘書ですのね」


「――ハッ!」


 サキさんが慌てて離れると、星が見えた気がした。



「貴殿が秘書でなければ斬っているぞ」

「さ、サキュバス様、大胆……です」

「いーなー。フェニちゃんもやりたい!」

「だ、駄目ですよ! まだ安静にしないと!」



 他のみんなの声も聞こえる。

 そうか、あの後――。


「み、みんな、ごめん…また心配を」


 とにかく謝ろうとすると、サキさんが首を横に振る。


「……サキさん」


「しばらく、安静にしましょう? お身体のことを考えて――」


「あの、話したいことがあるんだ。みんなも、聞いてくれないかな?」


「なんですか? もしかして何か思い出して――」


「違うんだ。実は――」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺は魔王のアドバイスを信じ、自分が元の魔王でないことや、魔王の魂が自分の中に生きていることを説明した。

 出来るだけ、元は人間であることを隠しながら、記憶喪失と偽ったことへの謝罪を織り交ぜて話していくと、彼らは真剣に話を聞いてくれた。


「――というわけなんだ」


「つまり、外見は変わらず、中身が変わってしまったということですか?」


「そういうこと、かな」


 心臓がドクンドクン脈を打つ。


 もし、認められなかったら、完全に死ぬ。

 そんなことを考えていると、不意に頭に声が響いてきた。


『大丈夫だって。俺様の部下だぞ?』


『ま、魔王っ?!』


『よう、魔王だぜ』


『どうやってこんな……』


『お前さんの内側にいるんだから、これくらい簡単。これからは時折、アドバイスすっから』


『これからもなにも、今が大変なんだけど!』


『そうか? そんな風には見えんがね』


「え?」


 言葉につられてサキさん達を見ると、彼らは一斉に跪いた。


「な、な、なんで?」


「これまでの無礼、お許しください」


「ど、どうして、証拠もないし、信用ないでしょ?」


「いえ、あなた様は、魔王として数時間、振る舞っておられました。信用はあります」


 サキさんがハッキリとそう言った。

 そして彼らも、魔王と同じように謝ってくる。


「俺なんかで、いいの?」


「それが魔王様のご意志のようですから」


 ……そ、そうだよな。


「ですが!」


「……?」


 サキさん達は俺を見てくる。

 真剣に、魔王ではなく、俺を見てくるようだった。



「私達は、自分の意思で、新たな魔王であるあなた様に、忠義を尽くしたい所存でございます!」



「え……」


『やったな。認めるってよ』


『ほ、本当に?』


『あいつらは、自分の嫌いな相手に尽くすような真似はしない。ちょっと悔しいけど、お前さんを認めてるんだ』


 認めてもらえた……。


「あ、ありがとう。みんな」


「ちょ――、上に立つ御方がそのように頭を下げないでください!  こ、困ります!」


「ごめん。でも、嬉しいから……こうしたいんだ」


「……!」



「さすが、の一言ですな」


「うふふっ。あんなに可愛らしくなってしまって。新たな魔王様は魅力的ですね」


「前の魔王様が死んじゃったのは辛いけど、フェニちゃんは、新しい魔王様も守るかんね!」


「……魔王様ぁ」


「セイレーンさん、涙を見せてはいけませんよ? あの御方に笑われてしまいます」



 魔王が死んで、辛くない者はいない。みんな、きっと必死に誤魔化してる。

 魔王なら、いや、俺なら、こうするよな。



「俺、魔王としても新米だけど、足引っ張らないようにするから! だから、新たな魔王として見てて、くだしゃい!」



「……ま、魔王様。いま、噛みましたよね」


「あ、うん」


「――くすっ、フフフッ」


 サキさんを先頭にみんな笑い出す。


「これはまた、あの魔王様がお認めになるはずだ!」


 デュラハンが笑い、顔が熱くなってきた。

 そんな中、サキさんは俺を見て、小さく笑う。


「あなた様には、これまでにはない魅力があります。新たな魔王として、私達が全力で支えます。皆さんも、そうですね?」


 サキさんの言葉に、護衛衆は頷く。


「ですから、こちらからも、魔界の安定のため、お力を貸してください!」


 そう言い、サキさんは手を出してくる。

 俺も応じ、しっかりと握手した。


「よろしくお願いいたします。魔王様」


「は、はい! いや、うん」


「くすっ」


「い、今のは無しで!」


 本当に認められるか不安だったけど、言ってみて良かった。


『そうだろう? 俺様の選んだ家臣なんだ』


『ま、魔王……』


『頼んだぜ、新魔王。ま、大丈夫だ。俺様もいるからな』


『さすが本物、凄い自信だ』


『おうよ!』


 いままで、何度か魔王になった実感はあったけど、すべて仮初めだった。



 この時、ようやく本物となった気がした。

 秘書やお側付き、そして俺の中だけに生きる本物の魔王。

 全部合わせて、魔王になったんだ。

 俺は、ここにいる――。



 コンコン。



「秘書様、急用の通達です」


 扉のノックとメイドの声が聞こえ、サキさんは入るように促す。


「どうしたの? 随分と急いでいるみたいだけど」


「人間界の方で、勇者と名乗るものが、魔王討伐を掲げて旅に出たとの情報が入りまして……」


「勇者!?」


 サキさんだけでなく、皆、その単語に反応している。


『まずいな』


『え? 魔王も知ってるのか?』


 おいおい、勇者って、あの勇者じゃないよね。


『先代の魔王が、勇者との死闘を繰り広げ、相討ちにもちこんだ。勇者ってのは、魔界の天敵なんだ』


 あ、それ知ってるやつだ――。


 もしかして、この世界には、お約束の勇者がいるのか?

 それが、わざわざ生まれたってことか?

 子孫ってことだろうけど、非常事態だ。まさか、勇者が出現するなんて……。



 ついに勇者も揃い、彼と彼の物語が始まるのだった。













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