第一異世界人 その1
そろそろ台詞なしor独り言の回を抜けられそうです。今回もぬるい目で見たいって頂けるとありがたいです。
森の中を進むこと体感的に30分。ずっと代わり映えの無いまま進んできたが森が終わる気配がない。
そもそも目的地を決めずにここまで来たけど私はこの後どうするんだろう。
GやMは武器や乗り物と違い、ゲーム内通貨でステータスに額面は表示されるが物質化して持っているわけではない。
つまり無一文着の身着のまま、武器は僅か。
運良く人里を見つけても差し出せる対価は来ている服か武器しか思いつかない。
そんな事を考えながら進んでいると20mほど先の草むらから草をかき分ける音がした。
太ももからグロック26を取りして構える。
現れたのは私と変わらない大きさの狼(?)だ。
ヨダレを垂らしながら明らかにこっちを睨んでいる。まさに腹ペコと言った雰囲気だ。
「グルルルルゥ…」
すぐに突っ込んで来ないのは多分こちらが真っ黒な服装で品定めをしてるんだと思う。
私も撃っていいものなのか分からず動けないでした。
「ガアァッ‼︎」
十数秒の静寂が流れた後、狼(?)の方が動き出した。地面を蹴って突進してくる。
口を開いてヨダレを撒き散らしながら近づいてくる。
私はそれを明確な敵対行動だと判断して引き金を引いた。
パン! 「グギャッ」
数発撃とうと思ったが直線的な動きだったので1発目の銃弾が頭部に命中し、仕留められたようだ。
狼(?)はバランスを崩してそのままの勢いで地面をザザザッと滑り止まった。
銃を構えたまま近づいて見たがピクリとも動く気配はなく、足でつついても反応は無い。
私は銃をホルスターに仕舞うと死骸を確認した。
頭部を確認すると中心は少し外れているが脳に到達したであろう銃創があった。
対人用のホローポイント弾を使用していたためおそらく頭の中は酷いことになっているんだろう。
しかし後頭部から銃弾が出ていない事からこの世界の生物がそこまで弱い訳ではないと思う。
小説や漫画だとこう言った獣はどこかで素材を買い取ってくれたり冒険者ギルドみたいなのがあって討伐報酬が貰えるイメージがある。しかしこの大きな狼(?)を全部運ぶのは無理だ。
ましてや解体なんてやった事ないのでできない。
狼の討伐証明部位は牙と言うのがお約束だ。
ここは牙だけ取って残りは置いていくべきかな?
でも討伐証明部位が他の場所だったりしたら困る。
これだけ大きな死骸をここに置きっ放しにしても何が起こるか分かったものじゃない。
(しかもヨダレダラダラの口の中から牙なんか取りたくない)
試しに後ろ足を持って引きずってみる。STR 45がこっちの世界でどの程度の物なのか分からなかったが、力を入れればこの狼を引きずることが出来るのがわかった。
GSOでは私は初期の頃はDEXとAGIを中心にポイントを振っていたが、レベル80を超えたあたりからはSTRやVITにもポイントを振っていた。
それが功を奏した形だ。
仕方ない…引きずって行くか…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あれから体感的に3時間ほど狼(?)を引きずりながら歩いた。日もまだ沈まないがだいぶ傾いて来た。
途中途中に休憩を挟んで来たがもう腕と腰と脚が限界だ。
私は歩みを止めその辺の木の根元に腰を下ろした。
後ろ脚を持ち上げて引きずったため狼の前脚と首から顎にかけては地面に擦れてボロボロだ。後ろを振り返ると引きずった後が狼の血で汚れている。またしばらくこの木に寄りかかって休憩しよう。
パキッ ガサガサ
諦めて狼(?)置いて行こうかなと考えていたその時。5時の方向から枝を踏みしめる音が聞こえた。
私からは木が影になって直接は見えないが何かがいるのが分かった。距離はおそらく15mを切っている。
これがさっきの狼(?)と同じ獣ならもう匂いか何かでバレているかもしれない。
私はホルスターから音を立てないように銃を取り出すと木を背にしたまま立ち上がった。飛び出して先制攻撃しようとしたその時
「おいおいこんな所にグレイウルフが転がってんぞ」
物音がした方角から無骨な男の声が聞こえた。
「この辺りにグレイウルフに勝てる魔物は居ないはずなんだがな。仲間割れか?」
1人目よりクールなイケメンボイスが聞こえた。
この世界に来てからの第一村人…第一・第二異世界人だ。
しかし今は敵か味方かわからない。
こちらは女が1人。あちらは多分男が2人。襲われないとは限らない。
私は銃を構えると木の陰から飛び出した
「動かないで!」
そこに居たのは声のイメージそのままの男2人組だった。
片方は無精髭を生やしたいかにも冒険者といった風貌の男。
もう片方はやや長身の10段階中8くらいのイケメンだ。
「誰だ⁉︎」
無精髭の男が声をあげ2人とも反射的にに剣の柄に手をかけた。
2人の男は一瞬私の姿を見て驚き、硬直した。
一瞬の間の後、柄に手をかけたままではあるが警戒を解いた。
すると長身の男が
「どこのお嬢さんか存じ上げませんがこの様な森で一人歩きは危険ですよ。護衛の方かお父様はどちらですか?」
今度は私が固まった。確かに背が低くて童顔なのがコンプレックスだがこれでも今年で19だ。なのにまるで親離れしていない少女に対する様な扱いだ。しかも何故か丁寧に。
これはあれかな?異世界あるあるの日本人が若く見られるやつ⁈
「わ…私は旅の者です、護衛はいません」
再び2人は驚きで硬直した。
「「 ... 」」
2人とも数秒何かを考えてる様子だったが長身イケメンの方が切り出した。
「失礼しました。私は冒険者をしています【エルク】と申します。護衛がいらっしゃらないとの事でしたがお一人で旅をなさっているのですか?見た所武器も旅の装備もお持ちでない様に見受けられますが。」
やばい…流石に旅の者と言うには無理があったか…
無精髭の男が続けて名乗った。
「俺は【ガイル】だ。貴族様みたいに気取った喋り方は出来ないが勘弁してくれ。その後ろに転がってるグレイウルフは嬢ちゃんがやったのかい?」
異世界から来たと言うのは出来る限り秘密にするのがセオリーだ。ここは旅人で押し通すしかない。
「ええ。この先に街か村がないかと歩いてました。こちらの 狼 (?)は私が倒しました。倒し方は秘密です。死骸を放置する訳にもいかないので引きずって来ましたが街も村も見つからずに途方に暮れていた所でした。よろしければ帰りに同行させていただけませんか?」
長身イケメン…エルクは顎に手を当てて深く考え出した。
ガイルの方は腕を組みエルクの方をチラッと見た。
「…分かりました。私たちが街までお送りいたしましょう。丁度帰る所ですのでさほど苦にもなりません。ですが、その前に貴女様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「申し遅れました。カエデと申します。」
「カエデ様ですね。分かりました。道中カエデ様と呼ばせていただいても構いませんか?」
「いえ、ただ単に『カエデ』もしくは『カエデさん』まででお願いします。」
「…分かりました。ではカエデさん。早速出発したい所なのですが……そのグレイウルフはどうなさいますか?」
……あっ…すっかり忘れてた。
次回更新予定は…未定です。まだ不定期更新続きます。しかしそう遠くないうちに更新する予定です。