ずれた国境
測量隊が動き始めて、数日。
最初は領都周辺からだ。
三脚を立て測量器を据える。
水平を取り、照準筒を覗く。
角度を読み距離を測る。
記録係が数字を書き込む。
そして次の地点へ。
これを繰り返す。
ゆきちゃんと通信で話した通り、三角測量の方法を使っている。
高台を基点にし、角度から位置を割り出す。
地味な作業だが、精度は高い。
「お嬢様、こちらの角度確認を」
測量係が呼ぶ。私は照準筒を覗いた。
遠くの丘に立てられた旗。
そこへ照準を合わせる。
「……よし」
角度を読み上げる。記録係が書き込む。
こうして測量網は少しずつ広がっていった。
最初に完成したのは、領都周辺の地図。
私はそれを机の上に広げた。
「……綺麗ね」
川の流れに街道。村。丘。
今までの地図とは比べ物にならない精度。
文官も感心している。
「これは……」
問題はその次だった。
測量隊が領地の東端へ進んだ頃。
報告書が上がってきた。
私はそれを見て、眉をひそめた。
「……おかしいわね」
文官が覗き込む。
「どうなさいました?」
私は机の上の地図を指差す。
「国境線」
この世界の公式地図では、ここに引かれている。
だが。測量結果は違う。
川の位置。丘の位置。距離。
全部が合わない。
つまり国境線が――ずれている。
文官の顔が固まる。
「それは……」
私は静かに言った。
「どれくらい?」
記録係が答える。
「最大で、二キロほど」
部屋が静まり返る。
二キロ。村一つ分。
いや。農地ならかなりの面積だ。
文官が低い声で言う。
「……この結果は」
私は頷いた。
「表に出せない」
もしこれが本当なら公式地図は間違っている。
そして今の国境は――
どちらかの領地を侵食している。
私はゆっくり椅子に座った。
「隣国側?」
測量隊の報告。
私はそれをもう一度見た。
「……私達の側に、食い込んでる」
つまり。こちらの土地が、削られている。もしくは元々の地図が怪しい。
恐らく元々の地図だろ。
分からない。だが一つだけ確実な事がある。
私は無線機を見る。
「これは……」
大きな問題になる。国境問題。領地問題。
外交問題。
そして場合によっては戦争。
私は深く息を吐いた。
「ゆきちゃんに連絡ね」
夜の三の刻。
この事実を伝える必要がある。
もし。向こうでも同じ測量をしているなら。
真実は、もうすぐ見える。
私は静かに呟いた。
「地図って……怖いわね」
一本の線。それだけで国の運命が変わる。
測量は、ただの技術ではない。
権力そのものだ。
そしてその線は今――動き始めている。




