宿屋の来訪者
領都。臨時政府庁舎。
「お嬢様」
通信士が報告書を持って駆け込んできた。
「どうしたの?」
「王都から来た偵察隊ですが、どうやらレーツェル隊長の同期がおるようです」
私は顔を上げた。
「へぇ」
「本人から直接話を聞いていたようで、王都で聞かされていた内容と、レーツェル隊長から聞いた内容があまりにも違い、戸惑っております」
私は苦笑した。
「まあ、よくある話ね」
現場を見た者と遠くで報告だけを受ける者。
その認識が違うのは珍しくない。
「引き続き盗聴をお願い」
「はっ!」
通信士が退室する。
私は椅子にもたれ掛かった。
「まさか」
思わず笑ってしまう。
「怪しい商人対策で作った盗聴器が、こんな形で役に立つなんてね」
副官も笑う。
「備えていて正解でしたね」
「本当」
私は地図を眺める。
「見せる物と、見せない物を分ける」
そう決めたものの。実際に相手が来るとどこまで見せるべきか悩ましい。
工場。鉄道。市場。
ここまでは問題ない。
だが施設。弾薬庫。予備工場。
そこは絶対に見せられない。
「さて」
私は立ち上がる。
「ここは思い切るしかないわね」
翌朝の宿屋。
「お客様」
女将が部屋をノックした。
「朝食の準備が出来ました。一階へどうぞ」
隊長は返事をする。
「分かった」
部下達へ声を掛けた。
「おい、朝飯だ」
「ふぁぁ……」
眠そうな声が返ってくる。
「今行きます」
一階へ降りると、食堂は朝から賑わっていた。
商人。旅人。工事関係者。
様々な客が食事をしている。
隊長は周囲を見回した。
「朝から人が多いな」
女将が笑う。
「最近は鉄道のお陰でお客さんが増えましてね」
席へ案内される。
並べられた料理を見て、部下が驚いた。
「これは……」
焼き立てのパン。温かいスープ。
卵料理。燻製肉。野菜。
「随分豪勢ですね」
隊長も感心した。
「本当に反乱中なのか……」
部下達も黙って食べ始める。
やがて。
「美味い」
一人が呟いた。
「王都でも、この味はなかなか食べられません」
「確かにな」
隊長も頷く。
食事を終え、食後のお茶を飲んでいると。
一人の女の子が近付いて来た。
「失礼」
隊長が顔を上げる。
「こちらの席、相席しても宜しいですか?」
「ええ。構いませんよ」
女の子は微笑む。
「ありがとうございます」
店員へ声を掛ける。
「こちらの皆さんへ、お酒を一杯ずつお願いします」
隊長は慌てた。
「いや、そこまでしていただかなくても」
女の子は首を横に振る。
「お礼です。それに」
少し笑う。
「少し長い話になりそうなので」
隊長は不思議そうな顔をした。
「話?」
「ええ」
女性はゆっくり椅子へ腰掛ける。
そして、腰のホルダーから見慣れない物を取り出し、静かに相手に向けた。
隊長達の表情が変わる。
「……何だ、それは」
女の子は穏やかな笑みを浮かべたまま答えた。
「自己紹介がまだでしたね」
一拍置く。
「私の名前はマキナ・アルフェルト」
隊長の目が見開かれる。
微笑みを崩さない。
「そうね。両親を追い落として領地を引き継ぎ、王都から見れば反乱の首謀者」
少し肩をすくめる。
「そう言った方が分かりやすいかしら」




