静かな不足
「――まき様」
行政区画の朝。最近の市場。
少しずつ変わってきた。
「石炭、また制限だってよ」
「鉄材も高ぇ……」
「代わりの燃料も上がってるぞ」
そんな声。普通に聞こえる。
「……」
私は報告書を見る。北方警戒令以降。
燃料、鉄の全部が少しずつ不足。
いや。
「優先配分化」
が進んでる。
「何?」
商業文官は、少し疲れた顔。
「民間燃料需要、予想以上に増加しています」
「……でしょうね」
皆、察してる。
“何か起きる”。
だから備える。つまり買い溜めが始まる。
「このままだと?」
「市場在庫が偏ります」
「……」
私は少し考える。
そして静かに言う。
「配給制、入れましょう」
空気が止まる。
「……はい?」
「燃料配給切符制」
「――!」
周囲は、ざわつく。
「ついに、そこまで……」
「そう」
必要。今は金持ちが大量購入。
始めたら終わる。つまり。
「最低限を、全員へ回す仕組み」
必要。
「文官さん」
「はい!!」
「世帯人数登録、職業別必要燃料算出、配給切符発行準備」
「了解!!」
更に。
「農地、診療所、学校、警備隊、この辺は優先供給」
「了解!!」
その時、整備文官は少し真面目。
「……ですが」
「うん?」
「結局、燃料そのものが増えなければ限界があります」
「……」
私は静かに頷く。
その通り配るだけじゃない。
「作る量も増やす」
そこが必要。
「人造石油プラント」
「――!」
空気が変わる。
地下都市には既に試験型が存在。それを今まで使ってきた。でもまだ小規模。
「増強する」
「しかも地下へ新規設置」
「……地下!?」
「そう」
重要。もし戦争、本格化したら地上施設。危険。つまり。
「地下分散化」
必要。
「文官さん」
「はい!!」
「地下第三工業区画、掘削開始、新型人造石油プラント建設、既存設備増設」
「了解!!」
更に。
「燃料精製効率改善、副生成物回収、保管庫分散」
「了解!!」
整備文官は少し興奮。
「完全に戦時工業化ですね……」
「違う」
私は静かに首を振る。
「生き残る為の工業化」
重要。戦争したい訳じゃないでも。
「燃料止まる」
それは文明止まる。
「絶対止められない」
その頃。
市場は既に配給切符試験配布。始まっていた。
「一家族、一週間分です」
「追加購入は申請制になります」
「……」
住民達は少し戸惑う。でも怒号は無い。
皆、解ってる。空気感が変わってる。
「……本当に、きな臭ぇな」
「北、そんな悪いのかねぇ」
「嫌な時代だ」
市場。静かに以前の活気とは少し違う。
その日。
地下都市では――
燃料配給切符制度と地下人造石油プラント増設計画が、本格的に始まっていた。
文明とは、ただ物を増やす事じゃない。
限られた資源を分け合い。
止めてはいけない機能を守り。
最悪の状況でも、生き残れる形へ変えていく事。
その静かな備えこそが――有事の時代を生き抜く為に必要な力になっていくのだから。




