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最終局面

闇の底に沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。

冷たい風が頬を撫でた。

「……まだ、生きているのか」

視界に広がるのは、黒く覆われた空。

零のエーテルが世界を侵食し、朝であるはずの空を夜に変えている。

だが――違った。

闇の向こうに、薄く光が滲んでいる。

『目を覚ましたか』

低く、しかし以前よりも近い声。

「光牙……」

『ようやく分かったな』

御影はゆっくりと起き上がる。

腹を貫かれたはずの傷は塞がっていない。だが、血は止まっている。

痛みはある。

だが、それ以上に身体が軽い。

「共鳴、か」

『ああ。お前はようやく“牙になった”』

その瞬間、御影の瞳に金色の光が宿る。

零が振り向いた。

「……立つか」

「終わってないと言ったはずだ」

空気が震える。

御影の足元から、白と金の光が螺旋を描いて立ち上る。

それは単なるエーテルではない。

人とモンスターの境界を越えた力。

「これは……」

零の瞳が僅かに揺れる。

御影は刀を握る。

刃が変化していく。

白い光の中に、金色の脈動が走る。

『名を付けろ』

光牙が囁く。

御影は静かに言う。

「――牙界共鳴こうがいきょうめい

踏み込む。

瞬間、世界が停止したかのように静まる。

否、違う。

御影の視界に、無数の線が走る。

未来視。

晴明から託された力。

零の動きが、枝分かれした未来として展開される。

右に斬る未来。

左に回避する未来。

空へ跳ぶ未来。

反撃する未来。

「見える……!」

零が動く。

「六手先、袈裟斬り」

だが今回は違う。

御影はその“未来”の一つを掴み取る。

回避ではない。

零の未来視が“見ていない可能性”を選択する。

「なに……」

刃がぶつかる。

火花が空を裂く。

初めて、真正面から打ち合う。

衝撃で山頂の岩盤が砕ける。

御影は息を吐く。

「未来は一つじゃない」

光牙の力が、御影の動きに重なる。

人の理性と獣の本能が完全に同期する。

「――牙界断裂がかいだんれつ

横薙ぎ。

空間そのものが裂ける。

零は後退する。

「面白い」

零の未来視が高速で未来を更新する。

だが御影の未来視も同時に展開される。

未来と未来が衝突する。

可能性の嵐。

「ならばこれはどうだ」

零の周囲に黒い刃が展開される。

未来の“失敗”を具現化した攻撃。

触れれば即座に死へ至る軌道。

御影は目を閉じる。

『考えるな』

光牙の声。

本能で動く。

未来視に頼らず、共鳴で感じる。

刃をすり抜け、懐へ潜る。

「――天穿てんせん

突き。

零の肩を貫く。

血が舞う。

零が初めて膝を揺らす。

「お前……」

御影は静かに言う。

「未来を見ても、希望は見えなかったと言ったな」

空を指す。

黒い雲の裂け目から、わずかな光が差し込む。

「未来は視るものじゃない。作るものだ」

零の瞳が揺れる。

「黙れ」

零の力が爆発する。

山頂が崩壊する。

大地が割れ、空が軋む。

御影は光を収束させる。

光牙の咆哮が響く。

『行け』

御影の背後に巨大な牙の幻影が現れる。

人の姿と獣の影が重なる。

「――牙界終極がかいしゅうきょく

踏み込み。

時間が引き延ばされる。

零の未来視が加速する。

だが。

その中に、ただ一つだけ“読めない未来”があった。

御影が零を斬らない未来。

ただ、名を呼ぶ未来。

御影は刃を止める。

至近距離。

互いの呼吸が交わる。

「……天黎」

零の瞳が見開かれる。

千年前の名。

絶望する前の名。

「思い出せ。お前は“零”じゃない」

世界が静まる。

未来視が揺らぐ。

零の力が不安定になる。

「……なぜ、それを」

御影は刀を構える。

「終わらせるな。お前の絶望も、俺が背負う」

最後の一撃。

光と闇が激突する。

爆発的な閃光が空を裂く。

黒い雲が吹き飛び、朝日が差し込む。

土煙の中。

御影は立っている。

息は荒い。

血だらけだ。

だが立っている。

零――否、天黎は膝をついていた。

空を見上げる。

千年前と同じ朝日。

「……まだ、こんな未来があったのか」

御影は刀を下ろす。

「未来は視るだけじゃ足りない」

一歩近づく。

「一緒に作るんだ」

朝日が二人を照らす。

闇は、完全には消えていない。

だが確かに、裂けている。

光牙が静かに言う。

『ようやく牙になったな』

御影は小さく笑う。

「まだ途中だ」

天黎の瞳に、初めて迷いが宿る。

そして――

戦いは、終局へ向かう。


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