ホロウレイン
此処に来て、いや巻き込まれてどのくらいの時間が経ったのだろうか。
光牙はあれから姿を現さなくなった。一人には慣れていたはずだが、友達がいなくなったような寂しさを感じる。
それでも俺は、アニメやラノベの知識を駆使してイマジンのレパートリーを増やしていった。
モンスターを食べるたびに体内にエーテルが蓄積され、相手をするモンスターのレベルも次第に上がった。
前のようにアラクニアに手間取ることもなく、毒も効かない体になり、肥満だった体も筋肉がつき、痩せマッチョに変化していた。
家族が見たら驚くレベルだろう。ヴェノリスの毒が効かなくなったとなれば、モンスターは魔法や物理攻撃など別の手段で攻めてくる。
現代医療では俺はもう人間ではないと見られるかもしれない。
だが、そんな不安も、このゲートから出なければ意味がない。
最近、俺は「索敵のイマジン」を編み出した。
これでエーテル量やモンスターの強さを把握できるようになり、重宝していた。
そして、俺の中に一つの仮説が浮かんだ。
――このゲートから出られるのではないか?
虹ゲートのボスなら、何かしら出口を知っているのではないか?
普通のゲートはボスモンスターを倒せば自動で閉じるのが常識だ。
しかし、ここは世界でも稀な虹色ゲート。常識は通用しない。
だが、希望を信じるしかない。
俺は行動を開始した。
周囲を索敵し、モンスターを倒して経験値とエーテルを蓄え、体中のエーテルを感じられるようになった。
一日中Giftを使っても、遂にはエーテルは尽きなくなった。
時間の感覚はもう曖昧だ。夜は確かに来る。ゲート内の時間は、どのゲートでも共通なのかもしれない。
もしそれが本当なら、俺は何度も月日を跨いでいることになる。計算はしていないが、もう何年も経った気分だ。
そうして、俺は相当なレベルに成長した。
周辺のモンスターは倒し尽くし、Aクラスのモンスターなら一撃で倒せるほどになった。
森を移動しながらモンスターを討ち、ボス戦に備えて力を蓄えた。
そして、遂にボスモンスターの存在が索敵で分かった。
今までのモンスターとは明らかに違う。エーテルの量も戦い方も、遙かに異質だった。
『あいつは間違いないな』
「うわ、びっくりした」
『馬鹿、でかい声を出すな』
「分かってるよ、光牙がいきなり出てくるからだろ」
『あいつは此処の主、ボスモンスターだ』
「そうかい」
『淡泊だな』
「もう出てこないと思っていたよ」
『まあ、こっちも色々あったんだ』
「幽霊事情なんて知らん」
『まあ拗ねるな。それにしてもあれは化け物だ』
「そうか…正直、俺は勝てると思うか?」
『さあな。やってみろ。ここから出るには戦うしかない。死んだらそれまでだ』
『餞別に情報を教えてやる』
「ああ?」
『あれは人型モンスターのドール最上級、ホロウレイン。虹ゲートの核に存在するボスだ。今まで使ったイマジンは通用しない』
「そうか…じゃあ行ってくる」
『待て』
「なに?」
『本当に行くのか?』
「ああ。どのみち、ここを出るにはあいつと相対するしかないだろ?」
『そうだな。まあ、死ぬなよ』
「分かってる」
こうして、俺はホロウレインの前に立った。




