戦い
「ほう……人間か。久しぶりに見たな」
「お前がボスか?」
「ああ。だとしたら、どうする?」
「お前はこのゲートから出る方法を知っているか?」
「知っているとしたら?」
「――倒してでも、話してもらう」
「そうか。ならば、倒してみろ」
俺はイマジンの力で日本刀を生み出し、間合いを詰めて斬りかかった。
だが、ホロウレインは紙一重でそれを躱した。
脚力を強化している今の俺は、常人の何倍もの速さを持っている。
これまでのモンスターなら、この一撃で沈められた。
しかし、相手は“ドール系最強格”――人の形に最も近い存在。
人語を話すモンスターは、人間を模した「完成体」とも言われる。
「これで倒せると思ったか?」
次の瞬間、背後に回り込まれた。
反射的に振り向きざまに刀を振るうが、そこにはもういない。
「つまらん。――死ね」
声と同時に背中を裂く激痛。
爪が肉を切り裂き、視界が赤に染まった。
「ぐっ……」
膝をついた俺の意識が、暗闇に沈んでいく。
「これで終わりか。弱いな」
『――これで終わるのか?』
「……光牙、こんな時に出てくるのかよ」
『ホロウレインと相対したんだ。満足だろう』
「満足なもんか。俺は……出たい。ここから、外へ」
『出て、何をする?』
「……うまい飯を食いたいな」
『それだけか?』
「ああ。此処に来たときの俺、デブだったろ?」
『ああ、醜いほどにな』
「それだけ、食うことが幸せだったんだよ」
『人間とは愚かだ。欲を満たすために自らを壊す』
「それでも、あの頃の飯は……この世界の肉よりずっと美味かった」
『俺は食えんがな』
「分かってる。でも、俺は……絶対に出たいんだ」
少し間があって、光牙が静かに問う。
『食事以外では? 出たい理由だ』
「……家族に会いたい」
『それだけか?』
「ああ。家族以外に会いたい奴なんて、数えるほどしかいないし……それに――」
『それに?』
「……いや、いい。今は倒すことに集中する。あいつを倒さなきゃ、何も始まらない」
『本気でやるのか?』
「もう本気だ。だが、攻撃が届かなかった」
『それで諦めるのか?』
「諦めない。――使えるものは、全部使ってやる」
『そうか。なら……見せてみろ』
光牙の声が消える。
「この人間、どうします?」
「放っておけ。そのうち死ぬ」
「食ってもいいですか?」
「やめろ。余計な反感を買いたくない。以前の人間とも約束した」
「……ボスが言うなら、仕方ないっすね」
かすかに聞こえるモンスターたちの声。
俺は意識の底でそれを聞きながら、歯を食いしばった。
「まあ結局、他の奴に食われるだけだろ。可哀想に」
「だが、ボスに逆らったんだ。自業自得さ」
下っ端のモンスターが俺を担ごうと手を伸ばした瞬間――
閃光のように日本刀が走り、その腕を斬り落とした。
「うわっ!?」「なんだ!?」
モンスターたちの視線が一斉に俺へ向く。
血に濡れた刀を構えながら、俺はゆっくりと立ち上がった。
「そのままにしておけばよかったのにな」
「……まだ立つのか、人間」
「まだ、こっからだろ」
ホロウレインがわずかに口角を上げる。
「そうか。なら、死ぬ準備はできているか?」
「悪いけど――死ぬ気は、ない」
俺の足元にエーテルが集中し、空気が震えた。
次の瞬間、世界が再び、戦いの色に染まった。




