ライブ
「御影さん」
「まだ眠い」
「折角キャンプ来てるんですから、朝日見とかないと」
それでやっと自分が家にいないことを思い出した。
「そっか家じゃないのか」
目を開けると青いテントが見えた。
「そうですよ、もう雪村さんも起きてます」
「そうか、じゃあ行くか」
そうして、テントを出ると。
朝日が丁度昇っていた。
「綺麗だな」
「あ、御影さん起きたんですね」
「うん、おはよう」
あくびをしながら椅子に座る。
「この時間になると少し涼しいな」
「ですね、取り敢えず朝ごはん作るので待っていてください」
「分かった」
朝日を見るなんていつぶりだろうか、こんなにも綺麗ならいつも見ていたいとも思える。
「こうして朝日を迎えるのが、こんなにも素敵なことだったんですね」
雪村さんはどうやら感動しているらしい。
「そうだね、日光浴が必要な理由も頷ける」
「うん、私も家に帰ったら朝日を体に浴びることやろうかなって思った」
「家に帰ったら」──その言葉が、やけに胸に響いた。
彼女にとって“家”とは、長く居場所ではなかったはずだ。
それでも今は、ここを“帰る場所”だと思ってくれている。
その小さな一言が、戦いの中で傷ついた俺の心を、不思議と温めた。
ちゃんと今いる家を自分の家だと認識してくれると思ってくれるのが、何よりも進歩だと思える。
「朝ごはん出来ましたよ」
「カップラーメンじゃん」
「良いでしょう、って言うか御影さんが言ったんじゃないですか」
「まあ確かに、でも熱くない?」
「それはカップラーメンの醍醐味でしょう」
「俺は冷めたものを食うのが好きなんだ」
「それは知りません」
そうして、ご飯を食べてかたずけをして荷物を車に運んで山梨を出た。
家に帰ってから早速煙草を吸いにベランダに出た。
火をつけて、煙を吸う。
仕事が終わってからのこの時間が一番至福だ。
今までの事件の過去に誰がいるのか、それはハンターなのかはたまた人間ではなくモンスターなのかそいつはどんなGiftを持っているのか?
これは俺だけでは解決できる問題ではない、とは言え今の俺の交友関係では限界がある。
そんなもやもやを感じながら。
お風呂に入って、眠りについた。
煙草の煙が夜空に溶けていく。
事件の記憶と、新しく芽生えた日常が、まだ胸の奥でうまく混ざらない
翌日。
「おはようございます」
朝早く、ベランダに煙草を吸っているとベランダに雪村さんが来た。
「おはよう、早いね」
「はい、なんだかドキドキしちゃって」
「そう言えば今日から合宿だったね」
「はい、ここまでこれたのは間違いなく御影さんのおかげです」
「そこまでちゃんと力を見出して発揮したのは、間違いなく雪村さんの力だよ」
「そうですかね?」
「うん、これでもう十分凄いことなんだから誇って良いよ、でも先を見据えるなら頑張って」
「はい、ありがとうございました」
「うん」
俺はリビングに戻りながらもなんだか、娘の結婚式当日の父親のような感覚を持っていた。
そうして、雪村さんが家を出る時間になった。
「会場は渋谷なので電車で行きますので、此処で大丈夫です」
「そう、なら頑張ってね」
「はい、また戻る時は必ず連絡しますので」
「分かった」
「それじゃあ」
「あ、ちょっと待って」
「なんですか?」
俺は石のペンダントを手渡した。
「これは?」
「まあお守りみたいなものかな」
「分かりました、いただきます」
「うん、じゃあ頑張って」
「はい、行って来ます」
そうして雪村さんは家を出て行った。
俺が生きて来たなかで一番応援する人が出来た。
こんな人生でも良いことはあるものだなと思った。
「泣きますか?」
「馬鹿言わないでください、泣くなら雪村さんが合格してからです」
「泣くんだ」
そう言ってリビングに戻った。
一つだけ心配なのは彼女の家族に関してだがそれも、日本の警察に任せれば大丈夫だろうと思った。
39ライブ
雪村さんが家を出てから一週間が経った。
「暇ですね」
桐生さんとテレビを見ながらアイスコーヒーを飲んでいる。
「まあハンターが暇なのは良いことでは?」
「ですけども」
「でもだらけすぎですよ」
「なんこう、シャキッとしないんですよね」
「御影さんが燃えると大変ですから、落ち着いてください」
「そう?」
「はい、まあ雪村さんのアイドルのオーデションでも見ますか?」
「えー、ドキドキしちゃうじゃん」
「何を言ってるんですか、応援するって決めたじゃないですか」
「でも、もおう結果出てるんでしょ?」
「まあ、最終審査に行く人はもう決まってるでしょうね」
「それじゃあ、桐生さんは雪村さんがどうなったか知ってるんですか?」
「まあ」
「結果だけ教えて」
「駄目です、ちゃんと見てください」
「連絡も来ないしもう、分かった。見る」
そうして、YouTubeの公式チャンネルを開いた。
そこには一週間の記録が出ていて、合計四つの動画で時間は三十分くらいだった。
俺は一つ目の動画を再生する際、ドキドキで心臓が持たなかった。
最初の動画は参加者たちが集合して挨拶。
会場の全景(体育館・宿舎・練習室)を空撮風に映していた。
そして、雪村さんが緊張しながら自己紹介する場面があり、俺は最初にあった時とは全く別人のように人前で話せている雪村さんを見て感動すら覚えた。
そして二つ目。
練習室でダンスや歌唱の練習、インストラクターの指導風景。
雪村が苦手な振り付けを何度も失敗するシーンがあり、講師の人に怒られていて涙を流していた。
そして夜に部屋で自主練習する姿も映っていてどこまで映すのか、心配だったがそれでもめげずに頑張る雪村さんの姿は間違いなく、誰かの光になるだろう。
そして、三つ目。
グループで課題曲を仕上げる様子、メンバーとの衝突や協力。
皆で課題曲などを練習して様になってはいたが、少し熱量があるあまり口論になったりしたが、それでも雪村さんは冷静に落ち込んでいる少女に寄り添っていて人としての成長を感じた。
そして最後の四つ目は…
観客や審査員の前でパフォーマンス、本番のステージだった。
スタジオで観客の前で課題曲を披露してそこから、夏に毎年やっているライブに行けてファンの前で曲を披露してメンバーを決めるとの物だった。
今残っているのは、十五人。
その中から六人が落とされて、九人が正式にメンバーになるとのことだった。
三組に分かれて曲を披露していたが、雪村さんは最後のお披露目でセンターをしていた。
その姿は輝いていて正しく王道のアイドルに見えた。
結果は見事雪村さんは受かって、ファンと講師の人の審査で順位が決められたがそれも堂々の一位で俺はガッツポーズをした。
そうして全部見終わったと思ったら、最後に告知があった。
それはライブの日程と会場で、会場は東京ドームで日程は明日だった。
「明日!!」
「はい」
「なんでもっと早く見せてくれなかったんだよ」
「だって頑なに見たくないって言ってたじゃないですか」
「それとこれとは話が違う、受かってるならリアルタイムで見たかった」
「そんな我儘を言われても」
「で、行けるの?」
「はい、ちゃんと雪村さんからチケットを送ってもらいました」
「そうか、でもアイドルになるなら連絡先は消さないといけないか」
「そうですね、私はだめでしょうね」
「私はって俺は?」
「御影さんとは許可をもらったと言ってましたよ」
「なんで?」
「そりゃ、なにかあれば助けになるでしょう」
「ハンターとしてか」
「そうです、でも必要最低限の連絡は出来ないでしょうけど」
「そうか、まあいいや。でもさ運営には俺のことなんて説明してるの?」
「運営には全て話しているそうですよ、家族のこともその後御影さんに助けてもらったことも」
「そうか、でもさテレビとかではどうするんだろう」
「それは、親戚とか?」
「そうか、それで良いか」
「はい、でも家族に関して報道されるのはまずいでしょうね」
「ですね」
家族に関してテレビに出てしまえば、最悪くびになってしまったりとかそう言う不安を感じたがそれでも、それすらも試練として乗り越えてしまうパワーを持っていると俺は感じていた。
「そう言えば、動画さ他の子に比べて雪村さん結構映ってませんでした?」
「そうですね、やはり人気は一番ですし、まあそれは運営的には一人に集中するのは良くないとは思ってはいると思っているでしょうけど」
でもちゃんと見れば、雪村さんは努力する姿や怒られながらも頑張る姿、人に寄り添う姿など人柄が出ていて自然と応援したくなる人だと思った。
そうして翌日。
俺は朝早く起きてベランダで煙草を吸っていた。
時刻は朝五時。
「おはようございます」
「桐生さん早いですね」
「いつもこのくらいに起きてるので、それより御影さんこそ早いですね。いつも寝てるのに」
「まあ自然と起きちゃって」
「目の下の隈はっきり見えてますよ」
「まじ?」
「はい」
「まあ正直緊張で寝られなかった」
「御影さんが緊張してどうするんですか」
「まあ良いじゃん、ゆっくりして行こう」
そうして、時間になり車で移動して東京ドームに着いた。
朝の光が差し込む東京ドーム。観客席はすでに埋まり、熱気が場内を包む。
御影と桐生は関係者通路を通され、会場の裏側へと案内される。
通路脇では、公式グッズが整然と並んでいる。Tシャツ、タオル、キーホルダー…雪村の名前や笑顔が描かれた品々に、御影は思わず手を止めて見入る。
首から引っ提げた関係者と書かれているので、基本的にどこに居ても何も言われない。
そうして控室に通されて、少し待つ。
二回ノックされて、男の人が入ってくる。
「失礼します」
「どうも」
「私は丹波です、グループの責任者として働いてます」
「御影です」
「桐生です」
「色々お話をしたい所ですがそろそろ本番なので、また後で詳しくお話したいんすがよろしいですか?」
「はい」
そうして、丹波さんは出て行って暫くして他の若めのスタッフが来て階段を上がり席に着いた。
そうしてライブが始まり、曲が流れながらアイドルが登場する。
それに合わせて手拍子をする観客で会場は一体感があり圧倒される。
ライブはどんどん進んで行き中盤でナレーションがあり、オーデションのメンバーが登場する。
ライトが観客席に向かって放たれ、歓声が渦となる。
雪村はセンターに立ち、深呼吸ひとつで微笑む。曲のイントロが鳴り始めると、会場は光と音で一気に熱狂の渦に包まれた。
客観的に見たいがどうしても雪村さんを見てしまう、だがそれもそのはず踊るたびに、リズムに乗った髪の動き、笑顔、手の動き――全てが完璧にステージに溶け込んでいた。
曲のクライマックス。雪村がセンターで両手を広げ、観客の声援に合わせて身を揺らす。場内は歓声とペンライトの光でひとつに染まる。
曲が終わると、東京ドームがひとつの生き物のように鳴った。拍手は波となって押し寄せ、歓声が天井の鉄骨まで震わせる。審査員席からも拍手が止まらない。
「これで、九人全員合格です!」アナウンスが流れ、御影と桐生は視線を交わす。雪村は、唇を噛みしめながらも笑っていた。目の端に光る涙が、ライトの煌めきに溶けていく。
ライブ後、控室前で雪村と短く話す時間が設けられる。
「御影さん、ありがとうございました。応援してくれて……」
「お前が頑張った結果だ。俺はただ、見守っていただけ」
雪村は微笑み、少し俯いた後、真っ直ぐ御影の目を見て言う。
「これからも、支えてください……お願いします」
「うん、俺は何もできないけど助けが必要なら遠慮なく呼んでくれ。必ず守る」
「ありがとうございます」
そうして一礼して、雪村さんは控室に戻って行く。
「御影さん」
後ろから声がするので振り返ると、丹波さんが立っていた。
「少し話よろしいですか?」
「良いですけど」
「此処ではなんですから、先ほどの控室で」
そうして、控室に移動して椅子に座る。
「実は来週に神楽坂46の姉妹グループのライブが、富士急ハイランドで行われるんですがそれに対してこんなものが届きまして」
鞄から紙を出した。
そこには〈ライブを中止しないと、モンスターを会場に放ってアイドルを皆殺しにする〉
そう書かれていた。
「これは」
「はい、脅迫文です」
「なるほど」
「それで警察にもハンター協会にも連絡をしたのですが、ハンターと警察を導入すると言われまして。そこに御影さんも加わって頂けないでしょうか?」
俺は少し悩んだ、でも姉妹グループと言うことは今後これがいたずらではなく、本気ならいずれ神楽坂にも被害が及ぶと考えていたので即答した。
「良いですよ」
「本当ですか?」
「はい」
「ありがとうございます」
そうして帰路に着く。
車で移動するがまだライブの余韻に浸る、合格だと言われた瞬間に涙を流しながら抱き合う新人の皆が脳裏に焼き付いていた。
あの後もう少し話して今後雪村さんは、寮に入るので一緒にはいられないとのことでそれは良いが少し寂しい。
「御影さん?」
「ん?」
「さっきの話ですが珍しく即答でしたね」
「護衛の話ですか?」
「はい」
「さっきの脅迫文見ました?」
「見ましたけど」
「モンスターを放つと書いてました」
「ってことは、また事件の裏にいる何者かが関わっていると?」
「うん、それに普通の人間がまたGiftを植え付けられたとしたらエーテルを吸い上げるおのです、なので必ず止めて吐かせます」
「気合い入りますね」
「はい」
一週間後になにがあるかは分からないがそれでも、止めないといけない。




