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キャンプの夜


「ただいま」

「お帰りなさい」

キャンプ地に戻ると、夕日が山の向こうに沈みかけていた。赤橙の光が木々の隙間から差し込み、影が長く伸びている。火の粉のような光の粒が舞い、少し湿った夏の風が頬を撫でた。

「どうでした、モンスターは?」

「うーん、まあ雑魚しかいなかったよ」

「そうですか」

雪村さんが、少しほっとしたように胸を撫でおろす。

「いつもそんな感じなんですか?」

「何が?」

「テレビで見るハンターさんって、みんなボロボロで帰ってくるじゃないですか」

「そりゃ、あいつらは弱いからだ」

「え?弱い?」

桐生さんが笑いながら肩をすくめた。

「まあ御影さんは規格外ですから、否定はできません」

「そうなんだ、凄いですね」

「まあ俺も、力を手に入れるまで苦労したからな」

「そうなんですか?」

「半年くらい、虹ゲートの中に閉じ込められてた」

「え、本当ですかそれ」

「うん。でも、生きて出てこれた。それだけで充分だよ」

「……無事でよかったです」

雪村さんの声には、本気の安堵が滲んでいた。

________________________________________

テントの設営はすでに終わっていた。二つ並んだテントの前に、折り畳み椅子が三つ。ランタンの淡い光が、夏草の上で柔らかく揺れている。

「夏だとこの時間でも蒸し暑いな」

「ですね」

「そういえば最近、女子高校生がキャンプするアニメ見たんだ」

「それでキャンプを?」

「うん。でもあのアニメは冬が舞台でさ。カップラーメンとか、やたら美味そうで」

「冬キャンプ、いいですね。息が白くなる季節に、湯気が立つラーメン…想像しただけで美味しそう」

「だろ?まあ今回は夏だから、汗かきながら食う飯だな」

「はい。じゃあ、その分美味しく作りましょう」

________________________________________

夕飯の支度が始まる。

メニューはアヒージョ、チーズカレーリゾット、ベーコンエッグトースト。

鉄板の上で油が弾け、ニンニクとオリーブオイルの香りが夜気に広がった。

「いただきます」

三人の声が夜の森に溶ける。

「うん、美味い」

「今日は珍しく手伝ってくれたし、自分で作ると美味しいでしょ?」

「はいはい、いつもは食べる専門ですよ」

「はは、素直ですね」

雪村さんが笑う。その笑顔を見て、御影は少し胸の奥が温かくなった。

最初は、何をするにも怯えていた少女が、今こうして自然に笑っている。

その変化が何よりもうれしかった。

________________________________________

食後、御影は冷えたビールを開ける。

「御影さんって、食事中にビール飲むイメージないですね」

「まあ仕事中は飲まないけど、今日はキャンプだからな」

「美味しいですか?」

「うん、背徳感込みで美味い」

「雪村さんは真似しちゃだめですよ?」

「俺のこと何だと思ってる」

「たまにしか仕事しない人、ですかね」

「おい、それはニートの定義を誤解してる」

「似たようなもんですよ」

「全然違うわ」

くだらない会話が心地いい。

夜の森に、笑い声が響く。

________________________________________

「普段、御影さんはどんな感じでモンスターと戦ってるんですか?」

「相手がS級以上なら、ネクロポートを使う」

「ネクロポート?」

「ああ、倒したモンスターを吸収して、戦闘時に召喚できる」

「え、そんなことができるんですか?」

【出てこい】

空間が歪み、小型のポータルから一体のネクロポートが現れる。

「モ、モンスター!?」

「大丈夫、危害は加えない」

「じゃあ…二回まわってジャンプしてもらえますか?」

ネクロポートが律儀に動くと、雪村さんが小さく拍手した。

「すごい……本当に従ってる」

「まあ、一人暮らしのときは雑用もやってもらってたからな。もうペットみたいなもんだ」

「ふふっ、可愛いですね」

________________________________________

「雪村さんはハンターになりたいとか思わないの?」

「うーん、私は……きっと向いてません。怖いですし」

「それがいい。君はそういう場所にいちゃいけない」

「はい。私はアイドルになるって決めましたから」

「次、三次オーディションだっけ?」

「はい。次は合宿でダンスの基礎から叩き込まれます」

「大変そうだな。でも、そこまで行ったのは立派だよ」

「いえいえ……」

「たまには、自分を褒めてもいいんだぞ」

「……はい。じゃあ、明日は朝日を見たいので寝ますね」

「おう。おやすみ」

雪村さんが赤いテントへ入っていく。ランタンの灯がゆらりと揺れた。

________________________________________

「こっちの青が俺たちだな」

「はい。間違っても赤の方には入らないように」

「分かっとる。そういうタイプじゃないし」

「まあ、そうでしょうね」

御影が笑うと、桐生もつられて笑った。

「それより、今日のゲートで気になることがある」

「というと?」

「ゲートの中に施設があった」

「施設?そんな馬鹿な」

「だろ。でも見たんだ」

御影の声が、夜の静寂に溶けていく。

「今までの事件の裏に、何かがいる。組織なのか、あるいは――人ではない“誰か”か」

「……御影さんが閉じ込められていたあの虹ゲートにも関係が?」

「かもしれない。桐生さんが探しているモンスターも、そいつが作った可能性が高い」

「人間社会に紛れ込んでいる、ということですか」

「ああ。人かモンスターか、もう境界は曖昧だ」

風が吹き、焚き火が小さくはぜた。

「ホロウレインとは、どういう戦いを?」

「負けたよ。互いにボロボロで、それで――俺が負けた」

「御影さんが?」

「ああ。でも、殺されなかった」

「どうして?」

「奴は言ってた。“人とモンスターが共に生きる世界を見たい”ってな」

「共存、ですか」

「無理だとは思う。でも、俺は……話せる相手なら、殺さないようにしてる」

「……御影さんらしいですね」

「そうかもな」

「うん、まあ桐生さんは桐生さんの思うままにしてくれ、俺もそれが全てとは思わないから」

「分かりました」


空を見上げると、星が滲んで見えた。

火の揺らめきと虫の音、そして夜の静けさが、いつになく優しく感じた。

そして話ながら俺もあのモンスターを吸収して色々聞きたかったけど、振り返ればそれをさせないように直ぐ消滅したのではと色々と疑問があった。


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