色が変わるゲート
「ゲートの色は?」
「赤です。すでにS級が一人、それ以下のハンターが数名入っていますが……三時間経っても帰ってきません。」
「重症ですね。」
「はい。ですが今動けるZ級は御影さんしかいません。」
「他のZ級とS級は?」
「Z級は海外に派遣されています。S級も、各地のゲート対応に散っていて——。」
「なるほど。なんでそんなことに?」
「Z級は“エーテル樹”の伐採任務です。」
「……エーテル樹?」
「知らないんですか? 世界中のゲート出現地で確認されている、エーテルを放出する木です。放置すれば、その周囲でゲート発生率が跳ね上がります。」
「伐採できないんですか?」
「Z級が最大出力で斬らなければ倒せないんです。しかも世界中に何千本もある。」
「そんな化け物じみた木が……」
「はい。そして日本は、ゲートブレイクの発生数が世界一になっています。」
「……つまり、俺がいなきゃ詰みってことですね。」
「正確に言うと、そうです。」
「正直でよろしい。」
「御影さんなら、ホロウレイン級でも倒せると思ってます。」
「多分あいつの方が強いですよ。」
「でも——」
「まあ、俺もまだ成長期なんで。」
「二つ目の問題はなんですか?」
「今、腹が洪水を起こしそうです。」
「……え?」
「トイレ寄ってもらえません?」
「早く言ってください!!」
「すみません。」
奥多摩の山奥、ゲート出現現場。
俺はコンビニで煙草とコーヒーを買い、トイレを済ませてから現場に着いた。
「着きました。」
「はい。」
煙草に火をつけ、一服。
現場は黄色いテープが張られ、緊張した空気が漂っていた。
「ちょっと、あなた——そこから先は立入禁止です!」
スーツ姿の女性が声を張る。
「大丈夫ですよ。」
「いえ、一般の方は——」
「はいはい。」
無視して進むと、背後から姫野さんの声。
「この方は大丈夫です。ハンター協会の許可済みです。」
「え? 姫野さん……?」
「今は説明してる時間がありません。」
(相変わらず現場は慌ただしいな)
「御影さん、先に行かないでくださいよ!」
「すみません、早く終わらせたいもので。」
「それと煙草、やめてください!」
「車では吸わないで我慢してたんですよ、これくらい許してください。」
「……はぁ、もう知りません!」
俺はゲートの前に立った。
赤く輝く渦。空気がひび割れるように歪んでいる。
「赤か。」
そう呟き、足を踏み入れる。
中は、血のような赤空。
倒れているハンターが数人。
「お、お前……応援か?」
「お前がこのゲートの主か?」
立ち上がった男が、俺を値踏みするように見た。
「君は誰だ?」
「誰でもいいでしょう。」
「駄目だ、あれはS級三人でやっと倒せる!」
「そうですか。」
「君の等級は?」
「黙っててください。」
「は?」
「皆さん、そこから動かないように。」
俺は右手を掲げた。
緑の光が走り、全員の周囲に透明な結界が展開される。
「なんだこれ……?」
「回復結界です。中にいる限り、どんな攻撃を受けても死にません。傷も治ります。」
「傷が……消えていく……!」
「君は回復系のハンターか!? なら前に出るな!」
「黙っててください。煙草吸い終わるまでに終わらせたいんで。」
その瞬間、赤空がうねった。
現れたのは——鬼。
全身が紅蓮色の筋肉で覆われ、包帯を巻いた腕から黒い煙を放っている。
「来たか。」
「気をつけろ、そいつは相手のエーテルを吸収する!」
鬼は瞬間移動のような速度で背後に現れた。
拳が俺の腹を——叩いた。
だが、拳は止まる。俺の周囲の結界に阻まれて。
「悪いね、攻撃は通らないよ。」
「エーテルで出来てるんだろ? なら——吸い取ってやる!」
鬼の手が俺に触れ、エネルギーを吸収していく。
ハンター達の表情が絶望に染まった。
「もう終わりだ!!」
白いオーラが鬼の体を包み込む。
S級ハンターの一人が呟く。
「……でも結界は、消えてない。」
「そうですね。俺のエーテル、そんな簡単には減りませんから。」
鬼の顔が歪む。
「どういうことだ……? 俺が吸ってるはずなのに!」
「まあ、気にすんな。混乱したまま死ね。」
俺は瞬間移動で懐に入り、
マイクロ・ポータルから刀を抜いた。
斬撃一閃。
鬼の首が宙を舞う。
「さて、帰るか。」
「ま、待ってくれ! 君は一体——」
「もう立てるなら出口はそっちです。」
「……傷も、完全に治ってる。」
「じゃあそういうことで。」
ゲートを出ると姫野さんが駆け寄ってきた。
「御影さん!!」
「ん?」
「大丈夫なんですか!? ゲートの色が赤から虹に変わったんですよ!」
「ああ、それね。中のモンスターが俺のエーテル吸ったんで、進化したんでしょう。」
「なにそれ……そんなことあるんですか……?」
「まあ、もう倒したんで帰っていいですか?」
「……はい。」
車に戻ると、煙草に火をつけた。
「車の中で吸っていいですか?」
「駄目です。」




