米沢編第55話 新生の王座
K392
来週は5月22日頃公開
86伝説エーペックス吾妻GT編2026年6月5日開始決定!!!!
フリス「……ふん。よくここまで我を凌いで前に出てたな、、、、、っ!」
銀色のポルシェ 718 ケイマン GT4。そのコックピットの中で、フリスは歪んだ笑みを浮かべていた。
余裕の笑みではない。獲物を追い詰めた猛獣が、その喉元に牙を突き立てる瞬間の、残酷な歓喜の表情だ。
横に並ぶ赤い86。そのドライバーである腹切カナタの必死な形相が、雨粒越しにハッキリと見える。
フリスは、自身のポルシェのステアリングを握りしめ、アクセルペダルをさらに深く、床板をぶち抜く勢いで踏み込んだ。
フリス「だが、それも泳がせていただけのことを...ここまでだ赤い戦闘機......ッ!!!!」
轟音と共に、ポルシェの排気音が一段階高い音域へと跳ね上がる。
「泳がせていた」。それは半分は事実で、半分は自分自身への戒めだったかもしれない。
だが、この瞬間において、その言葉は真実となる。
ポルシェのミッドシップレイアウトが生み出すトラクションは、FRの86がどんなに足掻いても届かない「物理の壁」だ。
高速ベントの強烈な横G(遠心力)の中で、フリスは涼しい顔でラインを維持し、カナタを外側からじわじわと圧迫していく。
若林「並んだまま赤い戦闘機とポルシェが並走状態!!!!!」
実況席が揺れるほどの絶叫。
モニターに映る2台は、まるで一心の同体のように、水しぶきを上げながらコーナーを駆け抜けていく。
しかし、その実態は「同体」などではない。
圧倒的な質量と剛性を持つ銀の鉄塊が、軽量な赤い戦闘機をコース外へと弾き飛ばそうとする、静かで暴力的な「押し出し」だ。
腹切 カナタ「……ッ!! 重い……ッ!!
風圧が……プレッシャーが……車体を押し潰しに来やがる……ッ!!」
カナタは知っていた。フリスが本気で「殺し」に来ていることを。
並走状態。逃げ場はない。
このまま次のコーナーへ飛び込めば、アウト側のフリスが有利なライン(イン側)を奪取し、86は行き場を失って減速を余儀なくされる。
それは、敗北を意味していた。
フリス「消えろ。我の視界から」
王者の慈悲なき宣告が、雨の米沢に響き渡る。
若林「再びバックストレート......!
ここでも並走したまま赤と白の壁が夜の高畠突き抜けていくううう!!!!!」
視界の全てが流線型に変わる超高速領域。
腹切カナタの赤いREVIVE 86 TURBOと、フリスの白銀のポルシェ 718 ケイマン GT4。
二台のマシンは、まるで互いのボディが溶接されているかのように、一ミリの隙間もなく並走していた。
水しぶきが二台の後方で巨大な雲を作り、テールランプの光が赤い帯となって闇に伸びる。
それはもはやレースではない。夜そのものを物理的に切断する、巨大な「壁」の進撃だった。
フリス「……しぶとい。虫の分際で、我の横に並び続けるとはな」
フリスの右足は床まで踏み抜かれている。
ポルシェの水平対向6気筒エンジンが、7000回転を超えて金属的な咆哮を上げる。
本来なら、この長いバックストレートで空力と馬力に勝るポルシェが突き放すはずだった。
だが、86は離れない。
スリップストリームもない並走状態で、なぜついて来れる?
腹切 カナタ「……うおおおおおおッ!! 回れッ、回ってくれェッ!!
俺の86(ハチロク)は、あんたのポルシェにだって負けねえッ!!」
カナタはシフトノブが折れそうなほどの力で握りしめ、エンジンを限界域まで回し続けていた。
過給機の悲鳴にも似た吸気音。
エンジンのピストンがボンネットを突き破らんばかりに暴れ回る。
「理論」で走るフリスに対し、カナタは「感情」をガソリンにして燃やしていた。
恐怖も、劣等感も、全てを推進力に変えて、王者の横顔に食らいつく。
若林「離れない、離れない!! なんという執念だァァッ!!
ポルシェの最高速に対し、86が魂のオーバーレブで対抗しているゥゥッ!!
二台の轟音が共鳴し、高畠の空気が震えています!!
どっちだ!? 次のブレーキング、先に引くのはどっちだァァァッ!!」
フリス「……いいだろう。そこまで死に急ぐなら、付き合ってやる。
この『赤と白の壁』の崩壊……どちらが瓦礫となるか、試してみようではないか」
二つの殺気が混じり合い、ストレートエンドの闇へと吸い込まれていく。
フリス「付きまとうな、、、害虫がアアアア!!!!!!!」
プツン、と何かが切れる音がした。
それはフリスの理性の糸か、それとも王者としての矜持か。
横に並び続ける赤い86の存在が、フリスの精神を蝕み、完璧だったドライビングを狂わせていく。
視界の端で点滅する赤い影。それが羽虫のように目障りで、不快で、我慢ならなかった。
フリス「消えろッ! 我の聖域から消え失せろォォッ!!」
フリスはあろうことか、ステアリングを左――腹切カナタの86がいる方向へと意図的にこじった。
ライン取りのミスではない。明確な「攻撃」の意思を持った幅寄せ。
ドガッ!!!!
鈍く、重い衝撃音が豪雨の夜に響く。
ポルシェ 718 ケイマン GT4の強固なボディサイドが、REVIVE 86 TURBOの右側面に激突した。
火花が散り、砕けたサイドミラーの破片が後方へと弾け飛ぶ。
腹切 カナタ「く、、、!」
カナタの腕に、ハンマーで殴られたような衝撃が走る。
高速走行中の接触は、一歩間違えば大クラッシュに繋がる自殺行為だ。
86の車体が大きく左へ弾かれ、タイヤが水たまりに乗ってハイドロプレーニングを起こしかける。
若林「ああっーーと!? 接触!! フリスが当てたァァッ!!
これは事故か!? いや、明らかにフリスが幅寄せを行いました!!
あの美しく潔癖な王者が、なりふり構わず86を排除しにかかったァァァッ!!」
フリス「ハァ、ハァ……! 潰れろ! 壁のシミになれ!
貴様のようなドブネズミに、我の隣を走る資格などないのだァァッ!!」
腹切 カナタ「……やってくれたな……。
あんた、それでもプロかよ……ッ!!」
カナタは歯を食いしばり、暴れるステアリングを必死に抑え込む。
王者の仮面を剥ぎ取ったフリス。その下から現れたのは、ただ勝利に餓え、恐怖に怯える「一人の弱き人間」だった。
赤と銀のボディには、生々しい接触痕が刻まれ、バトルの様相は「競技」から「殺し合い」へと変貌していく。
若林「それでも10秒以上の2台並走!!!! どうなるのかアアアっ!!!??」
常軌を逸していた。
接触の衝撃で弾き飛ばされるどころか、腹切カナタのREVIVE 86 TURBOは、フリスのポルシェに磁石のように吸い付いたまま離れない。
ガリガリガリガリッ!!!!!
金属とカーボンが削り合う不快な音が、エンジンの咆哮に混じって絶え間なく続く。
1秒、2秒、3秒……。
通常のレースなら一瞬で終わるオーバーテイクの攻防が、このストレートでは永遠のように続いていた。
マヒロ「あははっ☆ すごーい! 仲良しだねーっ☆
見て見て若林さん! 二台の火花がチークダンスみたい!
フリスさんが『どいてよ!』ってノックしてるのに、
カナタくんが『ヤダよ!』ってドアを閉め続けてるの!
まるで、一つの車になろうとしてるみたいだねーっ☆」
若林「マヒロちゃん、それはあまりにも危険な例えだッ!!
しかし、その通りかもしれない!!
互いの車体が支え合って、逆に直進安定性を保っているかのような奇跡のバランス!!
だが、タイヤへの負担は限界を超えているはずだ!!」
フリス「なぜだ……!? なぜ落ちない!?
貴様の車体はボロボロのはずだ! 我のポルシェに触れて、無事でいられるわけがないんだァァッ!!」
ハンドルを通して伝わる86の振動。それは「恐怖」の震えではなく、「拒絶」の振動だった。
カナタは、フリスの狂気的な幅寄せを、ステアリングの微妙な修正舵だけでいなし、
逆にその押し出しを利用してトラクションに変えていたのだ。
腹切 カナタ「……痛ぇよ、相棒。
傷だらけにしちまってごめんな。
でもな……ここで引いたら、俺たちはずっと『負け犬』のままだ。
耐えてくれ……!! あと数秒、この『痛み』に耐えてくれッ!!」
フリス「離れろッ.....!」
10秒を超える密着。
愛し合う恋人同士よりも深く、殺し合う敵同士よりも激しく。
赤と銀の鉄塊は、互いの塗装を削り取りながら、運命のブレーキングポイントへと心中覚悟で突っ込んでいく。
フリス「......冷静になれ、、、我、まだ負けた訳じゃないんだ、、、、、、っ」
ガリガリと車体を削り合う喧騒の中で、フリスの瞳から激情の色がスッと消え失せた。
それは、暴走する機械のスイッチを強制的に切り、再起動したかのような不気味な変化だった。
殺気も、怒りも、焦りも、全てが消失する。
腹切 カナタ「……なっ!? 消えた……!?」
その時、カナタにとってフリスから何かを感じた、、、、
いや、感じなくなったのだ。
今まで隣で燃え盛っていた「王者のプレッシャー」が唐突に途絶え、
カナタの周囲の空気が真空になったかのような錯覚に陥る。
腹切 カナタの空間が一瞬4んだ(死んだ)かのようだった、、、、、。
音がない。重力がない。敵がいない。
極限の集中力が生んだ「ゾーン」の逆位相。
フリスが意図的に作り出した「虚無」に、カナタの意識が一瞬だけ吸い込まれ、空白が生まれた。
フリス「……ここだ。その一瞬の『停滞』こそが、貴様の敗因だ」
そしてそのスキをフリスのポルシェが突き刺していく......。
カナタが「死んだ空間」に囚われているコンマ数秒の間。
フリスは感情を廃した精密機械として、ポルシェ 718 ケイマン GT4のブレーキペダルを完璧な踏力で踏み込んだ。
ABSが作動する寸前の、タイヤが路面を最大効率で掴む領域。
赤と銀の並走状態から、銀色のノーズが音もなく、しかし鋭利なナイフのようにスッと前へ出る。
腹切 カナタ「しまっ……!? 行かれたッ!?」
意識が現実に戻った時、目の前には既にポルシェのリアバンパーがあった。
強引な体当たりよりも恐ろしい、冷徹な技術による完全なる制圧。
王者は、暴力ではなく「完璧」をもって、死神を突き放したのだ。
若林「勝負ありかァァァッ!?
もつれ込んだブレーキング勝負、制したのはフリスだァァッ!!
一瞬の出来事!! カナタが何かに躓いたかのように遅れを取り、その隙を王者が逃さず刺しましたァァッ!!」
若林「戦況が動く!! いや、圧縮されたと言うべきかァァァッ!!
フリスと腹切カナタの激しすぎる消耗戦が、後続の怪物を呼び寄せてしまったァァッ!!
イヨと、氷のドラゴンのウラカンが接近してきましたあああ!!!!!
その少し離れたところに伊藤翔太も迫ってきている!!!」
フリスとカナタが互いの寿命を削るようなバトルを繰り広げていた数秒間。
そのわずかなタイムロスを、彼女たちは見逃さなかった。
イヨ「あはは☆ カナタくんたち、楽しそうにしてたねー☆
でも、そこ……通れないよ? だって、重くなっちゃうもん☆」
3位のイヨが操る白いGRスープラ。その周囲には、視界が歪むほどの濃密なプレッシャー(重力波)が漂っている。
そして、そのすぐ後ろ。
4位のセシルが駆るランボルギーニ・ウラカンが、雨を瞬時に凍らせるような冷気を纏って現れた。
V10エンジンの咆哮は、猛獣の吼え声というよりは、神話に登場する「氷のドラゴン」の鳴き声に近い。
セシル「……騒がしい。氷河期のように静まり返らせてあげる」
白いウラカンの鋭利なフォルムは、まさに獲物を狙うドラゴンの顎。
前の3台(ポルシェ、86、スープラ)をまとめて氷漬けにするかのような、圧倒的な威圧感。
そして、その超常的なバトルの最後尾に、黄色い閃光が食らいついている。
伊藤 翔太「待ってくれェェッ!!
俺も……俺も混ぜてくれよッ!! カナタ、花さん、みんなの想いは俺が繋ぐんだッ!!」
伊藤翔太のスイフトスポーツ ZC33S。
スペック的には圧倒的に不利なコンパクトカーだが、彼の「熱量」がマシンの限界を超えさせている。
チャンピオンイエローの車体は、雨の中でも決して輝きを失わず、上位陣の背中に必死に手を伸ばしていた。
若林「先頭から5位までが団子状態!!
物理最強のポルシェ! 魂の86! 重力のスープラ! 氷龍のウラカン! 熱血のスイフト!
属性がバラバラの5台が、米沢の峠で一つになろうとしていますッ!!
もはや誰がトップに立ってもおかしくない!!
一瞬のミスが命取りになる、極限のサバイバルゲームの開幕だァァァッ!!」
セシル(ウラカン)「……なによ、後ろの黄色い子。
気配が消えたと思ったら……こんなに近くにいたの?」
4位を走るセシルが、バックミラーを見て眉をひそめる。
さっきまで感じていた熱苦しいプレッシャーが消え、代わりに背筋を撫でるような冷たい視線を感じたからだ。
伊藤 翔太「ランボルギーニ・ウラカン。V10の排熱でリアタイヤがタレ始めている。
……計算通りだ。次のセクターで堕とす」
伊藤は表情一つ変えず、淡々とシフトダウンを行った。
黄色い車体は、派手なアクションを起こすことなく、ただ「そこにいる」という事実だけで、スーパーカー集団に冷ややかな恐怖を与え始めた。
若林「怖い!! 逆に怖いぞ伊藤翔太!!
感情が見えない!! まるで精密機械のように、淡々と上位陣のミスを待っています!!
熱血漢が『冷徹なスナイパー』へと変貌したァァァッ!!」
次回 プロフェッショナル
来週は5月22日頃公開




