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86伝説エーペックス  作者: SAI
米沢編
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442/535

米沢編第53話 ダウンヒルの反撃

K390

クレアの視界の中で、山吹花のWRX STIは、まるで重力が消失したかのような軽やかさでヘアピンをクリアしていく。

スバルのAWDシステムと、溝に引っ掛けたタイヤが生み出す強烈な回頭性。

それは、ハイパワーで路面をねじ伏せるGT-Rの走りとは対極にある、美しくも恐ろしい光景だった。


クレア「どう見ても並大抵のスピードじゃない.....!!

どうやってこんな細い道を...!?

タイヤが別次元にいるかのように軽やかに曲がってしまうのは何故じゃ......ッ」


雨煙と共に舞う桜色のオーラ。

クレアはアクセルを踏み込もうとするが、右足が瞬時に反応しない。

目の前の「魔法」に魅入られ、恐怖し、思考が追いつかないのだ。


若林「クレア、完全に戦意喪失かァァッ!?

ブラックホールという『虚構の重力』を操る彼女が、

山吹花の『真実の重力制御(ミゾ落とし)』に圧倒されていますッ!!

タイヤが滑っているようで滑っていない……!

まさに氷上のフィギュアスケートのような優雅さで、WRXが加速していくゥゥッ!!」


山吹 花「……重くないよ。みんなの想いが乗っているから、翼が生えたみたいに軽いの」


青い残像を残し、WRXは次のコーナーへと消えていく。

残されたのは、敗北の味を噛み締めるデビルカラーのGT-Rだけだった。


若林「いってしまうううううう!!!!!!!!!!!!!!

あのデビルGT-Rを突き放し、青い閃光が夜を切り裂いていくゥゥッ!!

山吹花がWRX STI! 8位できましたァァ!!!!」


コーナーを抜けるたびに、WRXの加速は鋭さを増していく。

クレアのGT-Rはもはや、バックミラーの彼方にある「過去の遺物」と化した。

山吹花は、ただ前だけを見据えている。

その視線の先には、同じチームで切磋琢磨し合う後輩、夢野ユナのGR86のテールランプが揺れていた。


山吹 花「……待っててね、ユナちゃん。

先輩として、背中で語らなきゃいけないことがあるの」


マヒロ「花ちゃん、カッコよすぎだよーっ☆

8位なんて通過点にしか見えないねーっ☆

このままトップ集団まで、桜吹雪で埋め尽くしちゃうかもーっ☆!!」


若林「とどまることを知らない進化!

『チームの精神的支柱』が、今や『最強の鉾(ほこ)』となって上位陣に襲いかかりますッ!!」


若林「さあ、7位争いが勃発だァァッ!!

ストレートエンド、誰よりも遅くブレーキペダルを踏み込んだのは……山吹花だァァァッ!!」


豪雨を切り裂き、WRX STI VABがGR86の真後ろから、弾丸のように飛び出す。

ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動する限界ギリギリの領域。

花はタイヤのグリップを指先で感じるかのようにコントロールし、

ユナが「これ以上は無理」と判断したブレーキングポイントの、さらに奥へ突っ込んだッ!!


フルブレーキングで山吹花が夢野ユナに接近!!!!


夢野 ユナ「うそ……ッ!? まだ踏まないの!?

そこじゃ止まりきれな……えっ!?

内側から.....ッ!???」


ユナがステアリングを切り込んだ瞬間、彼女のサイドミラーは「スバルブルー」一色に染まっていた。

花はオーバースピード気味にインへ飛び込みながらも、

4輪すべてのトラクションを使って車体をねじ伏せ、ユナの走行ラインを完璧に奪い取っていたのだ。


山吹 花「ユナちゃん、そこが『空いている』ってことは、

『入ってください』って言ってるのと同じだよ……ッ!!」


若林「入ったァァァッ!! 先輩の意地か、後輩への愛の鞭か!?

山吹花、鬼神のごときフルブレーキングで、夢野ユナのインサイドを掌握しましたァァッ!!」


若林「次のヘアピン...! 山吹花が瞬殺だああああ!!!!」


クリッピングポイントを通過した瞬間、勝負は決していた。

夢野ユナがアクセルを開けようと躊躇したその一瞬の隙に、

山吹花のWRX STIは、既に全開加速(フルスロットル)の体勢に入っていたのだ。


ドッボォォォォォォンッ!!!!!


AWD(全輪駆動)の暴力的なトラクションが、濡れた路面を鷲掴みにする。

ユナのGR86がリアを滑らせまいと慎重になるところを、

花は「四輪すべて」で地面を蹴り飛ばし、一瞬で車2台分の差をつけたッ!!


夢野 ユナ「えっ……早っ……!? 嘘、もうあんな所に……!!

これが……花さんの『本気』……!!」


若林「速い、速すぎる!! 並んだと思ったら次の瞬間には前に出ている!!

立ち上がりの加速が段違いだァァッ!!

夢野ユナ、先輩の背中を拝むことすら許されないまま、

山吹花があっという間に7位へ浮上しましたァァッ!!」


山吹 花「……ごめんね、ユナちゃん。

でも、今の私には『追わなきゃいけない背中』があるの。

……待っててね、黒川海斗くん」


青いWRXは、勝利の余韻に浸ることなく、次なる獲物――宿命のライバルであるランエボXへと照準を合わせた。


若林「さあ、6位の黒川海斗に対し、7位の山吹花が牙を剥くかと思われたその時ッ!!

あああああっとォォォォォッ!!!!!

黒川海斗がスピン!! 黒川海斗がスピンだァァァッ!!!!」


黒川 海斗「ぐっ……!? 曲がれッ、曲がってくれェェェッ!!

俺は……俺は最速なんだよォォォッ!!!」


焦りからオーバースピードでコーナーへ飛び込んだ黒川のエボX。

AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)の制御範囲を超え、

リアタイヤが濡れた路面で一気にブレイクした!!


キキキキキキッ……ゴァァァァッ!!!!!


黒い車体が激しく回転しながら、コース幅いっぱいに暴れ回る!

その横を、山吹花のWRX STIが冷静なライン取りですり抜けていく。


山吹 花「……海斗くん。自分を見失ったら、速く走れるわけないじゃない」


若林「エボX、コース上でなんとか停止!! クラッシュは免れました!

しかし、その間に後続車が次々と抜き去っていくゥゥッ!!

山吹花が行った! 夢野ユナも抜けた! クレアも、田中英二も抜いていく!!

黒川海斗が4つ順位を落としてしまう! 痛恨の10位転落だァァァッ!!」


黒川 海斗「……クソッ!! クソォォォォッ!!

またかよ……また俺は……ッ!!」


コックピットの中で、黒川はステアリングを叩きつけ、屈辱に顔を歪ませた。


若林「いったあああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「容赦ないッ!! スピン直後で息も絶え絶えのエボXに対し、

緑のAMG GTRが猛然と襲いかかるゥゥッ!!」


北斗「……無様な舞だったな、黒川。

お前のタイヤは、今のスピンですでに死んでいる」


ドォォォォォンッ!!!!!


4.0L V8ツインターボの重低音が、瀕死のエボXを震え上がらせる。

北斗は一瞬の躊躇もなく、黒川のインサイドを強引に抉じ開けた。

それはレースというよりも、もはや「処刑」に近い光景だった。


若林「北斗神拳伝承者が黒川の前に出たァァ!!!!

抵抗できない!! 今の黒川海斗には、この緑の怪物を抑える力は残っていないのかァァッ!!」


黒川 海斗「あ……あぁ……ッ!?

俺の前を……塞ぐなァァッ!! どけッ、どけよォォォッ!!」


北斗「……消えろ。敗者に用はない」


冷徹な宣告と共に、メルセデスの巨大なリアウイングが黒川の視界を覆い尽くす。

黒きカラスは、地に堕ちたまま、さらに順位を下げることとなった。


若林「さあ、カメラは中団グループの異様な光景を捉えています!!

15位を走る岡田大成のトヨタ GRヤリス。その背後に、どす黒いオーラを放つ『漆黒の風の神』が迫っているゥゥッ!!

イタリアの芸術品、パガーニ・ウアイラ!! ドライバーは伊藤乎太郎だァァァッ!!」


岡田 大成「冗談じゃねえぞ……ッ!! なんでこんな狭い峠道に、家が何軒も買えるようなハイパーカーがいんだよォッ!!

幅が違いすぎるだろ、幅がァッ!!」


岡田は悲鳴を上げながら、GRヤリスのコンパクトなボディを活かしてイン側の深い水たまりを強引にカットする。WRC(世界ラリー選手権)の血を引くGR-FOURシステムは、この豪雨の中でも水を得た魚のように路面を掴み、驚異的な脱出速度を見せる。だが、バックミラーに映る絶望は消えない。

漆黒のパガーニ・ウアイラ。その車体は、まるで生き物のように動く4枚の可変フラップ(アクティブエアロ)をバタつかせ、濡れた路面にへばりつくように追走してくるのだ。


伊藤 乎太郎「……ふん。チョコチョコと目障りな豆粒だ。

我が愛機(ウアイラ)の『風』の前では、貴様の走りなど木の葉も同然」


乎太郎が操るパガーニは、AMG製 6.0L V12ツインターボエンジンを搭載するモンスターマシン。700馬力オーバーの怪力を、彼は繊細なアクセルワークとアクティブエアロのダウンフォースで完全に制御していた。

ストレートで踏めば一瞬で追突しかねないほどの速度差。しかし、コーナーでは車幅の広さとRWD(後輪駆動)のネガティブ要素が顔を出す。それでも乎太郎は、芸術的なライン取りでヤリスの逃げ場を塞いでいく。


マヒロ「うわぁ……☆ ヤリスくんがハムスターで、後ろのウアイラさんが黒い巨大な掃除機みたいだねーっ☆

吸い込まれちゃいそうだよーっ☆」


若林「その例えはともかくとして!! 凄まじいプレッシャーです!!

岡田のGRヤリスが必死に逃げる! 乎太郎のウアイラが優雅かつ不気味に追い詰める!

価格差、馬力差、サイズ差、すべてがデタラメなこのバトル!!

しかし、雨の米沢では『軽さ』と『四駆』を持つ岡田に分があるかァッ!?

いや、乎太郎の不気味なほどの落ち着きが、ヤリスの精神(メンタル)を削り取っていくゥゥッ!!」


岡田 大成「くそっ、離れねえ……!! V12の音が背中に張り付いてやがる……!!

ミスったら踏み潰される……これがハイパーカーの圧(プレッシャー)かよッ!!」


雨煙を巻き上げる2台。泥臭いラリーの魂と、洗練された超高級車のプライドが、

水しぶきの中で激しく火花を散らす!!


若林「おっとォ!? ヘアピンへのアプローチ、岡田大成のGRヤリスがわずかに、ほんのわずかにリアを流して姿勢を作ったその一瞬です!!

背後の『漆黒の風』が、音もなく動き出しましたァァッ!!」


伊藤 乎太郎「……粗暴だな。風の流れを乱していることに気づかないのか」


岡田 大成「なっ……!? う、嘘だろ!? そこは『ライン』じゃねえぞッ!!

そんな幅広の車体で、その隙間に入ってこれるわけが……ッ!!?」


信じられない光景だった。

岡田がラリー仕込みのドリフトでイン側のクリッピングポイントを舐めようとしたその内側。

物理的に車一台分も空いていないはずの空間へ、伊藤乎太郎のパガーニ・ウアイラが、まるで液体になったかのように「流れ込んできた」のだ。

急激なステアリング操作ではない。ブレーキング競争ですらない。

ウアイラのボンネットとリアに備わった4枚の可変フラップが、生き物のようにパタパタと動き、車体を路面に強力に押し付けながら、濡れたアスファルトの上を滑るように旋回していく。


伊藤 乎太郎「失敬。……そこは私の『指定席』だ」


サイドウィンドウ越しに見える乎太郎の表情は、紅茶でも嗜んでいるかのように涼しげだった。

GRヤリスの3気筒エンジンの咆哮が、AMG製V12ツインターボの重厚かつ芸術的なサウンドにかき消されていく。

接触など一切ない。数ミリ単位の精密機械のようなコントロールで、漆黒の芸術品はGRヤリスの鼻先をかすめ、流れるように前へと踊り出た。


岡田 大成「ば、化け物かよ……ッ!! あの巨体が、なんであんなにスムーズに……ッ!!

ラリーカーの動きじゃねえ……あれは『風』そのものだッ!!」


マヒロ「うっとりしちゃうねー☆

数億円の車が、泥んこの中をドレスの裾も汚さずに歩いていくみたいだよーっ☆

岡田くんのヤリスも頑張ったけど、やっぱり『格』が違ったのかなーっ☆」


若林「美しい……あまりにも美しいオーバーテイク!!

力(パワー)でねじ伏せるのではなく、技(テクニック)と空力(エアロ)で魅了する!!

伊藤乎太郎のパガーニ・ウアイラ、GRヤリスを音もなく抜き去り、15位へと浮上しましたァァァッ!!」

伊藤 乎太郎「……ふぅ。ようやく『お遊戯(コーナー)』の時間は終わりか。

高畠区間……ここは高速区間が多いんだ。

我が愛機(ウアイラ)が、その巨大な翼を広げるに相応しい舞台(ステージ)だよ」


直線の彼方まで伸びる濡れたアスファルト。

乎太郎がアクセルペダルを床まで踏み込んだ瞬間、パガーニ・ウアイラの背後に搭載されたAMG製6.0L V12ツインターボエンジンが、ジェット戦闘機のような金属的な吸気音を奏で始めた。


シュゴォォォォォォォォッ!!!!!


若林「さあ来たぞ!! 狭い峠を抜けて、コースは全開率の高い高畠セクションへ!!

ここで解き放たれたのは、15位の伊藤乎太郎だァァァッ!!

見てください、あの異様な動きを!! コーナーのたびにボンネットとリアのフラップが生き物のようにパタパタと動き、

空気を味方につけて路面にへばりついているゥゥッ!!」


水しぶきが、まるで巨大な滝のようにウアイラの後方へ吹き飛んでいく。

GRヤリスとのバトルで見せた「柔」の動きとは正反対の、圧倒的な「剛」の加速。

300km/hに迫る超高速域でも、ウアイラは微動だにせず、矢のように突き進む。


マヒロ「わーっ☆ すごいすごい!!

前の車たちが止まって見えるくらいのスピードだねーっ☆

まるで黒い竜巻が、コース上の全てを飲み込みに行ってるみたいだよーっ☆」


前方を走る14位の柳津カリン(フェラーリ Roma)と、13位のゾフィア(コルベット C7)。

米伊のV8サウンドを響かせてバトルを繰り広げる二人のバックミラーに、

常識外れの速度で巨大化する「漆黒の影」が映り込む。


ゾフィア「な、なによアレェッ!? ミラーが一瞬で真っ黒になったんだけど!?

直線番長は私のコルベットの専売特許でしょォォッ!?」


カリン「……ッ!! 優雅じゃないわ……。

あんな暴力的な風圧、フェラーリの美学に反するなら容赦は……ッ!!」


伊藤 乎太郎「道を開けたまえ。風が通る」


パガーニ・ウアイラは、単なる機械ではない。

莫大な富と技術と情熱が結晶化した、走る芸術品。

その絶対的な「格(クラス)」の違いを見せつけるべく、

乎太郎はV12の咆哮と共に、前の2台をまとめて飲み込む構えを見せた。


若林「さあ、高畠のロングストレート! 15位のパガーニ・ウアイラが、前を行く2台のV8マシンを完全にロックオンしました!!

まずは14位、柳津カリンのフェラーリ Romaに襲いかかるゥゥッ!!」


柳津 カリン「ひっ……!? な、なに……あの音……っ!?

ミラーが真っ黒……。怖い……あんなの、車じゃないよぉ……っ」


カリンはハンドルを握る手を震わせていた。

兄の仇討ちを胸に秘めてはいるが、彼女の本質はガラス細工のように繊細だ。

優雅で乗りやすいフェラーリ Romaを選んだのも、彼女のそんな性格ゆえ。

だが、背後から迫るパガーニ・ウアイラの、空気を引き裂くジェット機のような轟音は、彼女の許容量(キャパシティ)を遥かに超えていた。


柳津 カリン「ごめんなさい……ごめんなさい……っ!

そんなに煽らないで……。私、壊れちゃいそう……っ」


恐怖で足がすくみ、アクセルを緩めそうになるカリン。

その横を、伊藤乎太郎のウアイラが、暴力的な風圧と共に一瞬で通過していく。


伊藤 乎太郎「……脆いな。風に怯える小鳥のようだ」


ドゴォォォォォォンッ!!!!!


若林「抜いたァァァッ!! 悲鳴を上げるカリンのRomaを、風圧だけで弾き飛ばすかのような豪快なオーバーテイク!!

カリン、あまりの恐怖に涙目か!? 完全に戦意を喪失しているように見えます!!

そして乎太郎の矛先は、そのまま13位のゾフィアへ!!」


ゾフィア「はぁ!? カリンが一瞬でチギられた!?

ちょっと! あんた、女の子泣かせてんじゃないわよこの成金野郎ォッ!!」


ゾフィアはコルベットC7の大排気量V8を唸らせ、カリンの敵討ちとばかりにブロックラインを取る。

だが、高速域で翼(フラップ)を広げたパガーニのダウンフォースは、物理法則の壁を超えていた。


伊藤 乎太郎「騒がしい女だ。……消え失せたまえ」


超高速の左コーナー。ゾフィアがブレーキを残して進入するところを、乎太郎はノーブレーキに近い速度でアウト側から被せた。

4枚のフラップが狂ったように動き、車体を路面に縫い付ける。


ゾフィア「嘘でしょ!? アウトから……その速度で曲がれるわけ……ッ!?

いやああああッ!! 吸い込まれるゥゥゥッ!!」


若林「ごぼう抜きだァァァッ!!!!!

繊細なフェラーリと、獰猛なコルベット!!

性格の異なる2台のV8マシンを、伊藤乎太郎のV12ツインターボが、

まるでゴミを掃除するかのようにまとめて飲み込みましたァァッ!!

これで一気に13位浮上ですッ!!」


若林「まだ終わらないっ! RomaがC7を...抜いたぁぁぁ!!!!!!

パガーニに蹴散らされ、戦意喪失したかに見えた柳津カリンですが、

なんと涙を拭う暇もなく、ゾフィアのコルベットに襲いかかったァァァッ!!」


直前のパガーニの衝撃で、ゾフィアのコルベットC7はリズムを崩していた。

一方、カリンのフェラーリ Romaは、繊細な彼女の性格を反映してか、乱気流の中でも姿勢をすぐに正していた。

恐怖で心臓は早鐘を打っている。瞳にはまだ涙が溜まっている。

けれど、カリンは「お兄ちゃんの仇討ち」という目的を忘れてはいなかった。


柳津 カリン「うぅ……っ。怖かったよぉ……っ。

でも……ここで止まったら、お兄ちゃんに笑われちゃう……。

ゾフィアさん、ごめんなさい……。そこ、通ります……っ」


「ごめんなさいパッシング」を一度だけチカッと点滅させ、カリンはRomaの美しいノーズをイン側へ滑り込ませる。

震える手でパドルシフトを弾き、3.9L V8ツインターボが「クォォォォォッ!」と甲高いソプラノを奏でる。

それは、アメリカンV8のドロドロとした低音とは対照的な、悲痛なまでに美しい旋律だった。


ゾフィア「はぁッ!? アンタさっきまで泣いてビビってたじゃないッ!?

なんでそんな綺麗なラインで入って来れんのよォッ!!」


カリン「だって……怖いから……早く前に出ないと……もっと怖いからぁ……ッ!!」


ゾフィア「理由が可愛くないわよッ!! 舐めんなァァッ!!」


ゾフィアが慌ててブロックしようとするが、恐怖心から「早くこの場を抜け出したい」と願うカリンの生存本能(スピード)が勝った。

優雅なフェラーリ Romaは、荒ぶるコルベットの横を、まるでダンスのパートナーをすり抜けるように通過していく。


マヒロ「あはは☆ カリンちゃん、『怖すぎて逆に速くなる』タイプだねーっ☆

泣きながらアクセル全開なんて、ある意味一番狂ってるかもーっ☆」


若林「涙のオーバーテイクだァァァッ!!

柳津カリン、恐怖を勇気(スピード)に変えて、ゾフィアを抜き返しましたッ!!

これで14位浮上!! 繊細なハートに火がついたかァァッ!?」

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