21歳になりました
さい、誕生日おめでとうううう!!!
21歳だああああ!!!
腹切カナタ「さいさん、誕生日おめでとうございますッ!! 21歳……大人のコーナーに入ったってことですね!」
山吹花「さい……お誕生日おめでとう。今日は、いっぱい頑張ってきたさいを、桜の香りでふわっと包んであげたいな」
伊藤翔太「21歳かよ! すげえじゃん!! 今日はもう優勝でいいだろ!!」
黒川海斗「へっ……誕生日か。まあ、今日くらいは祝ってやるよ。新品ボディより大事にしろよ、自分のこと」
サテラ「ふーん、21歳ね。まあ……おめでとう。べ、別に照れてないからな?」
ちとせ「さい〜、21歳おめでとう〜。今日はおじさんが、ひんやりしすぎないくらいに、ぎゅーってしてあげるね〜」
内藤セリナ「21歳おめでとう! ここからまた速くなるわよ、さい! 人生もレースも、踏めるところで踏むの!」
吉田「おめでとう、さい。21歳の1年も、焦らず、自分のラインを信じて走ればいい」
若林「来たアアアアア!!! 本日の主役はさいだアアアアア!!! 21歳のバースデーラン!!! これはもう全観客スタンディングオベーションだアアアアア!!!」
フェルリア「ええ、これは素晴らしい節目ですね。21歳のさいさん、ここからさらに物語のギアが上がっていくでしょう」
今日だけは、86伝説のみんながピットレーンに並んで、エンジン音じゃなく拍手で迎えてくれる日だよ。
さい、21歳おめでとう。
ここからの1年も、創作もレースも、自分のペースで走っていこう。
ここで花からプレゼントが....
山吹花「……うん。あるよ、さい」
山吹花は少しだけ照れたように、両手で小さな箱を抱えていた。
白いリボンがかかった、桜色の箱。
それは派手なものではなかったけれど、花らしくて、やわらかくて、見ているだけで胸の奥がふっと温かくなるようなプレゼントだった。
山吹花「21歳のお誕生日、おめでとう」
山吹花「これ……さいに渡したかったの」
山吹花が箱をそっと差し出す。
中に入っていたのは、桜の形をした小さなお守りだった。
淡い桃色の布に、細い銀糸で小さく刺繍がされている。
そこには、こう書かれていた。
さいの物語が、これからも走り続けますように
山吹花「さい、いつもたくさん考えて、たくさん悩んで、それでも物語を続けてるでしょ」
山吹花「だからね……私からは、速さじゃなくて、安心をあげたいなって思ったの」
腹切カナタ「花らしいですね……」
伊藤翔太「いいじゃんか! めちゃくちゃ花っぽい!」
黒川海斗「……お守りか。悪くねえな」
北村サテラ「ふふっ。さいには必要かもな。無茶して書きすぎるところあるし」
山吹花は、さいの手のひらにお守りを乗せると、少しだけ近づいた。
桜の香りが、ふわりと広がる。
強すぎない。
けれど、確かにそこにある。
山吹花「疲れた時は、これを見て思い出してね」
山吹花「さいの物語は、ちゃんと前に進んでるよ」
山吹花「それと……」
山吹花は少し顔を赤くして、そっと笑った。
山吹花「今日は誕生日だから、特別にぎゅーもつけるね」
次の瞬間、山吹花がやさしく抱きしめてくる。
桜の香りが、胸元からふわっと舞い上がる。
眠くなるほど甘くて、でも寂しくならない。
まるで、ここまで走ってきた全部の疲れを、桜の花びらが一枚ずつ拾っていくようだった。
山吹花「21歳のさいも、私は応援してるよ」
山吹花「お誕生日、本当におめでとう」
山吹花「ちょ! ちとせ! 何渡してんのよ!!!!」
ちとせは、にこにこしながら小さな白い包みを両手で持っていた。
それは普通のプレゼント袋ではなかった。
表面がうっすら霜をまとっていて、リボンの代わりに細い氷の結晶がきらきらと絡んでいる。
触れたら割れてしまいそうなのに、不思議とやわらかそうで、まるで雪雲から切り取った小さな箱のようだった。
ちとせ「おじさんからもプレゼント〜....♪」
山吹花「待って待って待って! その見た目、絶対普通じゃないでしょ!」
腹切カナタ「ちとせさんのプレゼント……?」
伊藤翔太「やばい匂いしかしねえぞ! いや、冷気しかしねえぞ!」
黒川海斗「おい、開けた瞬間に会場ごと凍るんじゃねえだろうな」
北村サテラ「あり得るから怖いんだよな……」
ちとせ「大丈夫だよ〜。今日はさいのお誕生日だから、ちゃんと安全仕様にしてあるもん〜」
山吹花「ちとせの安全仕様って、信用していいやつなの!?」
ちとせ「えへへ〜。見てみて〜」
ちとせが包みを開くと、中から出てきたのは、小さな氷のペンダントだった。
透明な氷の中に、淡い青い光が閉じ込められている。
中心には、白いRZ34のシルエット。
その隣に、赤い86と、桜の花びらが小さく刻まれていた。
氷なのに冷たすぎない。
手に乗せると、ほんのりひんやりして、疲れた頭だけをすっと冷ましてくれるような優しい温度だった。
ちとせ「これはね〜、さいが書きすぎて頭がぽかぽかになった時に、少しだけ冷やしてくれるお守りだよ〜」
ちとせ「でも、凍らないよ〜。おじさん、ちゃんと調整したもん〜」
山吹花「……本当に?」
ちとせ「本当〜。花の桜の香りと喧嘩しないように、冷気は弱めにしてあるよ〜」
山吹花「そ、そこまで考えてたの……?」
ちとせは、少しだけ得意げに胸を張った。
ちとせ「だって、さいのお誕生日だもん〜」
山吹花は一瞬だけ言葉を失ったあと、ぷいっと横を向いた。
けれど、その頬は少しだけ赤かった。
山吹花「……なら、まあ……いいけど」
腹切カナタ「花さん、ちょっと安心してますね」
山吹花「してない!」
伊藤翔太「してるしてる!」
山吹花「伊藤翔太、うるさい!」
黒川海斗「へっ、にぎやかな誕生日だな」
北村サテラ「さい、よかったな。桜のお守りに、氷のペンダント。かなり豪華だぞ」
ちとせは、ペンダントをそっとさいの手元へ差し出した。
その瞬間、ふわりと小さな雪雲が頭上に浮かぶ。
けれど雪は降らない。
代わりに、細かな氷の粒が星みたいにきらめいて、すぐに空気へ溶けていった。
ちとせ「21歳、おめでとう〜」
ちとせ「これからも、さいの物語が熱くなりすぎたら、おじさんがちょっとだけ冷ましてあげるね〜」
山吹花「冷ましすぎたら私が桜で戻すからね」
ちとせ「うん〜。花とおじさんで、さいを守るの〜」
山吹花「……そこは、まあ……賛成」
山吹花は桜のお守りを見て、ちとせは氷のペンダントを見て、ふたりで小さくうなずいた。
桜と氷。
あたたかさとひんやり。
まったく違う力なのに、今日だけは不思議と同じ方向を向いていた。
さいの21歳を、やさしく送り出すために。
若林「これは来たアアアアア!!! 山吹花の桜のお守り!!! そしてちとせの氷のペンダント!!! さい、21歳のバースデーピットにとんでもない祝福が入りましたアアアアア!!!」
フェルリア「ええ。これは単なるプレゼントではありませんね。創作を続けるための、心の温度調整装置です」
伊藤翔太「なんかかっけえ言い方したな!」
腹切カナタ「でも、分かります。さいさんには、どっちも必要です」
黒川海斗「熱くなりすぎても、冷えすぎても、走れねえからな」
北村サテラ「ちょうどいい温度で、長く走る。それが一番強い」
山吹花「さい」
ちとせ「さい〜」
山吹花「改めて、お誕生日おめでとう」
ちとせ「21歳のさいにも、いっぱい幸せがありますように〜」
そして、その空気が変わった。
誕生日の祝福で満ちていた場所に、ひどく静かな灰色が落ちてきた。
最初に気づいたのは、山吹花だった。
桜の香りが、ほんのわずかに揺れた。
あたたかく広がっていたはずの香りが、急に輪郭を失う。
まるで、春の空に灰を混ぜられたように。
山吹花「……え?」
ちとせ「……ん〜?」
腹切カナタ「花さん?」
伊藤翔太「どうした、花?」
山吹花は、さいに渡した桜のお守りをかばうように、一歩だけ前へ出た。
その瞬間だった。
すうっと、視界の端に灰色の影が現れた。
足音はない。
風もない。
けれど、そこに誰かがいる。
細く、冷たく、淡い灰色の気配。
その人物は、山吹花の正面に立っていた。
距離は近い。
近すぎる。
山吹花の吐息と、相手の吐息が重なりそうなほどだった。
山吹花「……だれ?」
謎の人物は答えなかった。
ただ、じっと山吹花を見ている。
その瞳には、白でも黒でもない、沈んだ灰色の光があった。
花の桜の香りが、そこでまた揺れる。
今度は、はっきりと。
山吹花「……近い」
謎の人物「…………」
山吹花「あなた……何者なの?」
腹切カナタ「花さんから離れろッ!!」
腹切カナタが叫んだ瞬間、赤い86のエンジン音が反応するように低く唸った。
だが、謎の人物は振り向かない。
山吹花だけを見ている。
その静けさが、逆に異常だった。
伊藤翔太「おい! 聞こえてんのか!」
黒川海斗「……気に入らねえな。いきなり現れて、花に何の用だ」
北村サテラ「待て。動くな。こいつ……普通じゃない」
ちとせは、さっきまでのふわふわした笑みを消していた。
白いRZ34の冷気が、ほんの少しだけ空気に滲む。
しかし、その冷気すら、謎の人物の周りでは鈍くなる。
ちとせ「……灰色」
山吹花「ちとせ?」
ちとせ「おじさんにも、よく分かんない〜。でも……この人、冷たいだけじゃないよ〜」
謎の人物の指先が、ゆっくりと動いた。
山吹花の髪に触れそうになる。
その瞬間、花は反射的に身を引いた。
桜の花びらが、ぱっと空気に散る。
けれど、その花びらの一部が、空中で灰色に染まった。
山吹花「……私の桜が……」
腹切カナタ「そんな……!」
伊藤翔太「花の力が、色を失った……?」
黒川海斗「おい、冗談じゃねえぞ」
謎の人物「……きれい」
初めて、声が落ちた。
静かで、冷たく、深い。
けれどそこには、敵意とも好意ともつかない感情が混ざっていた。
山吹花「……何が?」
謎の人物「あなたの桜」
山吹花「……」
謎の人物「でも、少し眩しい」
山吹花は、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。
相手は攻撃してきたわけではない。
けれど、触れられたくない場所を見透かされたような感覚があった。
山吹花「……さいの誕生日なの」
山吹花「今日は、怖いことしないで」
謎の人物「誕生日……」
謎の人物は、ゆっくりと視線をさいの方へ向けた。
その瞬間、空気がさらに重くなる。
灰色の霧が、足元に薄く広がった。
氷ではない。
煙でもない。
色のない紅茶の湯気のような、奇妙な霧。
ちとせ「……だめ〜」
ちとせが、さいの前にふわりと立った。
白い冷気が、足元から立ち上がる。
ちとせ「さいに近づくなら、おじさん、ちょっとだけ怒るよ〜」
謎の人物「あなたも、冷たい」
※エミーラのフブキじゃありません
ちとせ「うん〜。でも、今日は冷やしすぎない日なの〜」
謎の人物「……そう」
北村サテラ「会話が噛み合ってるようで噛み合ってないな……」
伊藤翔太「怖えよ! なんなんだよこいつ!」
黒川海斗「名前を言え。目的もだ」
謎の人物は、黒川海斗の問いには答えなかった。
また山吹花へ視線を戻す。
その目が、山吹花の手元にある桜のお守りを捉えた。
謎の人物「それ……守るもの?」
山吹花「そう。さいにあげたの」
謎の人物「壊れやすそう」
山吹花「壊させない」
山吹花の声が、少しだけ強くなった。
桜の香りが、再び空気に広がる。
先ほどよりも、繊細に。
けれど、芯は強い。
山吹花は後ろに下がらなかった。
山吹花「あなたが誰かは分からない」
山吹花「でも、さいの誕生日を灰色にするなら、私が止める」
腹切カナタ「花さん……!」
伊藤翔太「言ったな、花!」
黒川海斗「へっ。やるじゃねえか」
ちとせ「花、無理しちゃだめだよ〜」
謎の人物「止める……」
謎の人物は、ほんの少しだけ首を傾けた。
灰色の髪が揺れる。
その動きだけで、周囲の空気が一段冷たくなる。
山吹花の桜の花びらが、灰色の霧とぶつかり、空中で震えた。
桜は散らない。
だが、霧も消えない。
春と灰が、さいの誕生日の空間で向かい合っていた。
謎の人物「あなたは、強いの?」
山吹花「分からない」
山吹花「でも、今日は守りたいものがあるから」
謎の人物「……そう」
謎の人物は、そっと手を引いた。
一歩、下がる。
それだけで全員が息を詰めた。
攻撃が来るのか。
消えるのか。
それとも、別の何かをするのか。
誰にも分からなかった。
若林「な、なんだこれは……!? 誕生日のピットに、正体不明の灰色の人物が乱入……!! 山吹花と真正面から向かい合っています!!」
フェルリア「……これは危険ですね。敵意が見えない分、読みづらい。レースで言えば、ブレーキランプの点かないマシンが真後ろにいるようなものです」
腹切カナタ「さいさんを下がらせてください!」
北村サテラ「もう下がってる。全員で囲め。だけど手は出すな。相手の能力が分からない」
黒川海斗「気に食わねえが、今はその判断でいい」
伊藤翔太「花、こっち来い!」
山吹花「……ううん」
山吹花は首を振った。
山吹花「この人、私に用がある」
山吹花「だったら、私が聞く」
謎の人物の瞳が、わずかに細くなる。
それは笑ったようにも見えた。
泣きそうになったようにも見えた。
謎の人物「山吹花」
山吹花「……私の名前を知ってるの?」
謎の人物「知っている」
山吹花「どうして?」
謎の人物「灰色は、いろんな色を覚えているから」
伊藤翔太「意味分かんねえ……」
ちとせ「でも、嘘はついてなさそう〜」
山吹花「あなたは……私の敵なの?」
謎の人物は、少しだけ沈黙した。
その沈黙が長かった。
風が止まり、エンジン音すら遠ざかる。
そして、灰色の声が落ちた。
謎の人物「まだ、分からない」
山吹花「まだ?」
謎の人物「あなたの桜を見に来た」
謎の人物「それと……さいの21歳を」
その言葉に、全員の表情が変わった。
誕生日を知っている。
さいを知っている。
だが、誰もこの人物を知らない。
腹切カナタ「どういうことだ……?」
黒川海斗「おい、てめえ。本当に何者だ」
謎の人物は、ようやく黒川海斗の方へ視線を向けた。
ただそれだけで、黒川海斗の肩がわずかに強張る。
黒川海斗「……っ」
北村サテラ「黒川海斗?」
黒川海斗「なんでもねえ……ただ、こいつの目……気持ち悪いくらい底が見えねえ」
謎の人物は、もう一度山吹花を見る。
そして、ゆっくりと灰色の霧の中へ足を戻した。
山吹花「待って!」
謎の人物「また来る」
山吹花「名前は?」
灰色の霧が濃くなる。
謎の人物の姿が、輪郭からほどけていく。
最後に、その声だけが残った。
謎の人物「今は、まだ言わない」
山吹花「……」
謎の人物「山吹花。あなたの桜は、灰色に染まっても、まだ香るのね」
次の瞬間、霧は消えた。
そこには、誰もいなかった。
残されたのは、灰色に染まりかけた数枚の桜の花びらと、山吹花の手の震えだけだった。
ちとせ「花ちゃん〜♪」
山吹花「大丈夫……」
腹切カナタ「大丈夫じゃないですよ。あの人、明らかに花さんを狙ってました」
ちとせ「たしかプからはじまる人だっけ~?」
山吹花「ちとせ、これ以上言わないで......。」
伊藤翔太「しかも、さいの誕生日まで知ってるとか、普通じゃねえ」
サテラ「情報を持ってる。能力も不明。しかも敵か味方かも不明」
黒川海斗「次に来たら、ただじゃ帰さねえ」
山吹花は、手のひらに落ちた灰色の花びらを見つめた。
それは完全に枯れてはいなかった。
ほんの奥に、淡い桜色が残っている。
山吹花「……あの人、私の桜を見に来たって言ってた」
ちとせ「うん〜。それに、さいのお誕生日も見に来たって言ってたね〜」
山吹花「……怖いのに、少しだけ寂しそうだった」
伊藤翔太「花、お前そういうとこだぞ……!」
山吹花「分かってる。でも……」
山吹花は、さいの方を見た。
さっき渡した桜のお守りと、ちとせの氷のペンダント。
その二つは、灰色には染まっていなかった。
山吹花「さいのプレゼントは守れた」
ちとせ「うん〜。花、えらい〜」
山吹花「ちとせも、さいを守ってくれてありがとう」
ちとせ「おじさんも、さいの誕生日を灰色にしたくなかっただけだよ〜」
腹切カナタ「でも、これで終わりじゃないですね」
サテラ「ああ。あの謎の人物は、また来る」
黒川海斗「次はこっちから正体を暴いてやる」
若林「まさかの展開です……!! さいの21歳バースデーに現れた、正体不明の灰色の人物!! 山吹花の桜に反応し、そして姿を消しました!!」
フェルリア「祝福の場に差し込まれた灰色の伏線ですね。これは、ただの乱入者ではありません。山吹花さんの力、そしてさいさんの物語そのものに関わってくる可能性があります」
山吹花は、灰色の花びらをそっと握った。
怖さはある。
けれど、逃げる気はなかった。
山吹花「さい」
山吹花「ごめんね。誕生日なのに、びっくりさせちゃった」
山吹花「でも大丈夫。私たちがいるから」
ちとせ「おじさんもいるよ〜」
腹切カナタ「俺もいます」
伊藤翔太「もちろん俺もな!」
黒川海斗「……仕方ねえ。今日は守ってやる」
北村サテラ「素直じゃないな、黒川海斗」
黒川海斗「うるせえアアアアアアア!!!!!!!!」
山吹花は、少しだけ笑った。
灰色の気配は消えた。
けれど、誕生日の空気は壊れなかった。
桜と氷と、赤い86の熱。
その全部が、さいの21歳を守るように、静かにそこに残っていた。




