第十六話 白銀の……
◆side不破ちゃん◆
「……できたね、最期に」
スキルへの属性付与に成功した。
たった一回だけど、私の冒険者人生で最期にこれを成せたことが素直に嬉しい。
でも、もうだめみたい。
ゴーストに体力を奪われ過ぎた。
視界がだんだん暗くなっていく。
こんな状態であの一撃を放てたことは奇跡だったんだね。
あーあ……。
女王が配下をまたどんどん集めてる。
私が最期に蹴散らしたゴーストたちは、もう元の数に迫って……ううん、むしろ元より増えている気さえする。
警戒させたってことなんだよね、これ。
キヒヒ……やるじゃん私。
やったじゃん私。
やればできるじゃん私。
これで最期にあいつの顔だけ見られれば、もう思い残すこともないかな……。
震える手で端末を操作する。
今アイリスってチームとイチャコラしてるって、さっきコメントで見た。
殺意が湧くけど、後を任せられる冒険者がいるならそれでいい。
だからイチャイチャでもなんでもいいから、私にその姿を見せて──
「……あっ」
震える手から端末が落ちる。
もう握る力もないみたいで、音を立てて地面とぶつかった。
拾おうとしても、どこに落ちているのか見えない……見えないよ。
真っ暗だ。
ダンジョンに一人。
声も聞こえない。
力も入らない。
感じるのは魔物の視線と殺意だけ。
……こわい。
「……宿敵」
助けて。
助けてよ……。
震える口が悲鳴をあげる。
大きな声も出せないけど、心の中ではずっと助けを求めてる。
ソラ姉たちでも他の冒険者たちでもなくて、ずっと彼に助けてほしいって思ってる。
女王と会敵したとき。
ゴーストに群がられたとき。
七階層で戦闘してるとき。
ずっとずっと……ずっと。
会いたい、って……想ってる。
だめなのにね。
無理なのにね。
我儘でしかないのにね……。
好きだよ宿敵。
初恋だったよ。
頭の中で彼を想うと、さっき言った言葉が蘇ってくる。
『あなたは生きてね』
嘘だ。
嘘じゃない。
でも嘘だ。
本当は私も、あなたと一緒に生きたいです。
私だって本当は、こんなところで……
「死にたくないよ、馬鹿ぁ……!」
真っ暗な世界で、冷たい涙が頬を伝う。
真っ暗な世界で、女王の叫びが恐怖を駆り立てる。
真っ暗な世界で、私は──……
「【勇気】」
──白銀の……背中を見た。
「……え?」
真っ暗だったのに、明るい。
寒かったのに、温かい。
怖かったのに、怖くない。
これは夢……?
「……宿敵?」
幻覚だ、幻術だ、またゴーストの見せる悪い夢だ。
だっているはずがないんだから、来てくれるはずがないんだから。
だって本当にここに彼がいるのなら、私は……その背中を、掴まずにはいられなくなってしまうのに。
手が伸びる。
震える手でなんとか触れた白銀の背中はとても暖かくて、大きくて。
とても安心する。
「少しそこで待っててくれな、不破ちゃん」
大好きな背中が離れていく。
待って、行かないで……。
私の側から、離れないで。
掴もうと必死に伸びる手は、だけど届かなくて。
と思ったら、横からぎゅっと掴まれた。
宿敵……!
「私たちが付いていますよ」
「あたしらで絶対守るから安心しろ」
誰だよお前ら。
ううん知ってる、こいつら噂のアイリスだね。
宿敵に媚び売って近づいたメス猫共だ。
視界が暗くなる。
メス猫共の顔が視界から消える。
それでも白銀に輝く宿敵の背中だけははっきり見える。
あぁ……そこにいるんだね。
守護者と一人で戦おうとしてるのに。
さっきよりずっと多いゴーストの群れがいるのに。
まるで不安なんて感じない。
「おやすみ……宿敵……」
起きたらベットの横にいてね。
◆sideアリス◆
私の胸の中で不破ちゃんが寝息を立てています。
大丈夫、ただ寝ているだけです。
ゴーストに相当体力を奪われていた中であれだけ戦ったのですから無理もないでしょう。
私は寝ている不破ちゃんの頭をそっと優しく撫でてあげます。
「頑張りましたね」
「うぅ……」
寝ながら顔を顰める不破ちゃん。
きっと悪夢を見ているのでしょう。
可哀そうに……。
「あーアリス。宿敵の独壇場、見ないのか?」
「あらあらふんふん……まるでゴーストが寄ってこないから戦闘中だと忘れてしまいますね。いったいどれだけ暴れ回って……あらあらこれは」
「亡者が逃げ惑ってるんだよなぁ……女王含めて」
イリスの咳払いに戦いに視線を向ければ、そこには白銀の人型から逃げ惑う亡者たちの姿がありました。
守護者が冒険者から逃げるって相当な出来事だと思うんですが、この場合絶対的格上はどちらなのでしょう?
……考えるまでもありませんね。
白銀を纏うアイスさんの輝きはこの闇夜のフィールドを照らします。
そこには私たちがいる場所も含まれ、その範囲内には亡者が入ってこない、どころか逃げ惑う始末。
これでは私たちが不破ちゃんを守る務めも必要なくなってしまいますね、ふんふんです。
「……まぁ、あの様子ではどの道すぐ終わりそうですけどね」
すっかり観戦モードの私たちの視界には、白銀が線を引いて闇の中を駆け巡る姿が。
逃げ惑うゴーストより速く、触れるどころか近づくだけで消滅させていく。
守護者たる女王は必死に距離を取ろうとしていますが、白銀はゴーストたちを蹴散らしながら突き進んでいきます。
〈コメント〉
:侵略者がよぉ
:安心して見られる。絶望的な戦力差だな
:さっきまでヒヤヒヤしてたのになんだこの、なんだあいつ
:宿敵さん笑ってないか? 微かに笑い声が聞こえる……
:あれでレベル一? 第七階層の守護者ってむしろ宿敵さんでは?
:守護者(人類側)
:まじでかっこいいな宿敵さん。憧れるわぁ
:おっ、なんか輝きが増してきてないか?
:来る? 来るのか? あれが来るのかぁ!?
:あれって?
:そりゃおめぇ……あれよ
:あれって?
:聖剣!
ふふ、コメントももう安心しきっていますね。
先程まで心配で荒れていた視聴者たちが、今では冗談まじりのコメントをしている。
これが……宿敵さんの、アイスさんの力。
言い換えれば、魅せる力、安心させるカリスマ。
……たらしこむ力も追加しておきますか。
彼の白銀が輝く。
一際強く、逃げ惑う女王の前で。
あれは彼の象徴となるだろう。
ただの一撃で悉くを討ち滅ぼす。
その名を白銀の……。
「──……」
響き渡る轟音と閃光。
それは彼の勝利と。
今回の騒動が一段落ついたことを世界に示した。
「……帰り支度、しますかイリス」
「後ろから不破ちゃんの親衛隊が突っ込んできてることだしな」
「不破ちゃぁぁぁぁんっ!!」
「……『審門』が解除されたんですね。やっぱり上位冒険者の速度は本物ってちょっと私までぁぁぁぁ……」
〈コメント〉
:……今回の戦犯。ソラさんのご登場だ
:ほんっと役に立たなかったなあの人
:実力はあるんだけどなぁ。どっちかというと指導者向きなのかもなぁ
:アリスちゃん、南無……
◆◇◆◇◆
後日談をしよう。
不破ちゃんはあれから三日後に目を覚ました。
といっても後遺症などはなく、ゴーストに体力を奪われ過ぎただけだから寝て食べたら元通りだ。
……まぁ、少しリハビリに時間はいるかもしれないが。
目を覚ましたのはたまたま俺が見舞いに来ていたときのことで、兜もしていないので警戒されるかと思ったらいきなり抱き着かれてちょっと戸惑った。
まぁそのときのことは俺もまだ整理できてないから置いとくとして。
今回の一件で俺はメグルぽんのソラさんと話をした。
不破ちゃんをください、と。
ぶん殴られた。
いや俺の言い方が悪かったのだが、痛かった。
けどぶん殴った後ソラさんはこう言ったんだ。
「……不破ちゃんを泣かせたら許さないから」
そっぽを向きながらだったが、これは認めてもらえたということでいいんだろうか?
いやもちろんパーティー結成の話な。
アリスとイリスも不破ちゃんなら歓迎というし、当の本人も横で俺とソラさんにお願いをしていたから問題はない。
「よ、よろしく……」
と言っていたしな。
そして今回のことで一番の成果をご紹介しよう!
……いや一番という言い方は語弊を招くな、俺の中で抱え戦ってきた問題の一つが解決したという話だ。
それはなんと、俺の退学関連の話が帳消しとなったのだ!
いや嬉しいね。
正直宝物殿に辿り着いたことで目的物の入手はそっちでできるんじゃないかと思ったりもしたんだが、それはそれとして俺は〈勇気クラス〉の空気や連中が気に入っているのだ。
飛鳥お嬢様の力で不破ちゃんも学園占有ダンジョンに潜れることになったし、諸々万々歳である。
……と、喜ばしいことだけ見れば文句のつけようがないのだが。
世界はダンジョンの秘密、その欠片を知った。
俺が宝物殿に辿り着いたこと、そしてそこでご令嬢から聞いたこと。
あの後何度かご令嬢と会って話してはその様子を配信で流した。
国からの命令というのもあるが、ただアイリスの配信を垂れ流すだけでいいんだ。
それだけで俺たちパーティーメンバー全員に多額のお金が支払われるから、満場一致で引き受けた。
そこで発覚したダンジョンの秘密……いや、世界の敵というべき存在に関しては、俺もまだ整理できていない。
けどこれから始まるのは波乱の時代だと、それだけは言える。
力が必要だ。
つまりはそういうことで。
これからも俺は、俺たちは冒険をする。
ちょっと変わった、世界の認識の中で。
第二章 完
第三章は完結できたら毎日投稿します
作者の心はシャボン玉なので応援よろしくお願いします




