第一話 極みを追う者
最初なので第三話まで纏めて投稿します。
その後は第一章完結までノンストップで毎日投稿します。
投稿する時間は適当です。
『エェクスカリバァァァァッ!!』
画面の中のその光景に、幼い俺の心は持っていかれた。
輝く剣を手に悠然と佇むその存在が、同じ世界の出身なのだと思うと身震いした。
「かっけぇ…!!」
あの剣の先にあったモノ、巨躯を誇ったであろうその怪物は一撃のもとに葬り去られた。
ただの一撃で、剣の一振りで、あの見るも恐ろしい怪物が消し飛んだのだ。
目が離せなかった。
それは物語のクライマックスか、魔王を倒す勇者のように俺には見えたのだ。
幼い頃のそんな憧れは、成長した今、俺をこんな場所まで連れてきた。
ダンジョン攻略を目的とし、その人材育成のため設立された冒険者のための学び場。
敷地内に学園関係者専用のダンジョンを有し、百年前ではあり得なかった剣や斧といった武器習熟のための講義。
ダンジョンに入れるようになる十五才の若き命を守るという名目でも期待されている、冒険者志望者憧れの場所。
――ダンジョン冒険者育成学園ユートピア
ここに今日、俺は入学する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……――であるからして、若き新入生諸君には節度ある行動を期待する。以上」
ぱちぱちぱち……という疎らな拍手の音で、ようやく教頭の長い話が終わったのだと悟る。
話が長い上につまらな過ぎて、ここに至るまでの回想を思い浮かべて暇を潰していた。
特にそれで楽しい時間を過ごせたわけではないが、あの勇者のような一撃を自分も、という想いは強くなったから良しとする。
「では次は辰巳教官から新入生に向けたエールを頂けるとのことで、皆さん心して聞くように」
と思ったらまた長い話を聞くことになりそうな展開に。
勘弁してくれ……と俺は思う訳だが、なにやら周りの反応はちょっと浮ついているようだ。
そこで気付くが、辰巳という名には確かに俺も聞き覚えがあるような気がする。
誰だったかと記憶を掘り起こしていると、件の教官が壇上に出てきた。
蒼い髪に鋭い目つき、そして遠目からでもわかる引き締まった鍛えられた肉体。
「あぁ……有名なダンジョンン冒険者の」
俺は勇者以外興味はないが、確かあの女性もかなりの実力者だったはず。
そうか、この学園の講師になったのか。
どうりで周りの新入生が浮ついた反応をするわけだ。
人気だからな、あの冒険者。
あの人の話は何気に初めて聞くことになるが、一体どんな話をしてくれるのか楽しみだ。
憧れのユートピアに来れた高揚感もありワクワクした気持ちで彼女の言葉を待つ。
「紹介に与った、辰巳 メイだ。この学園では主に剣の実技講師をすることになるが……そうだな。――まず始めに言っておく。この学園に限らず、ダンジョンに入ろうと志す者、それは強き力を持つ者でなければならない。ダンジョンは遊び場じゃない。弱者は淘汰されるのが宿命だ。覚悟の足りないものは、今すぐこの学園を去るがいい」
その言葉を聞いて、俺は入学初日の式からぶっ放すもんだと感心した。
冒険者になりたくてこの学園に来た者たちに、今一度ここで覚悟を問うたのだから、あの人のダンジョンに対する想いはきっと本物なのだろうな。
そしてその言葉が辰巳教官から放たれたと同時に、周りの視線が一斉にこちらを向いたのも感じる。
こちら、というかその眼の向く先は間違いなく――俺である。
予想できたことではあったが、こうもあからさまに反応されるとちょっと困ってしまう。
恐らくここ以外でも何ヶ所かで同じような現象が起きてることだろうが、その視線の原因もわかってる。
学園の制服に付けられたこのクラスマークだ。
いや、もっと深く原因の話をするなら、≪ギフトホルダー≫だからということになるか。
我ながら笑ってしまう皮肉だと理解しているのだが、≪ギフトホルダー≫という呼び方は嫌いじゃない。
だが恐らくこれを大層ありがたいなんて考えてる奴は少ないことだろうさ。
実際周りの奴らも……
「おい、お前! そのクラスマーク、〈蛮勇クラス〉だよな? さっさと出てけよ!」
俺に向けて放たれたその発言は、やっぱりか、というものだった。
他の者たちも何も言わないまでも、その眼は同意だと語っている。
――〈蛮勇クラス〉。
またの名を〈勇気クラス〉。
ていうかこっちが学園がつけた正式名称。
このクラスに入れられる者の話をするには、まず先程言った≪ギフトホルダー≫について語らねばなるまい。
それは皮肉と憐みからできた言葉だ。
≪ギフトホルダー≫とはなんぞやと聞かれれば、一言で言うと生まれ持ってスキルを保持している人のことだ。
そしてスキルは生まれ持って獲得していると、新たに獲得することはできない。
普通はダンジョンでレベルを上げれば自ずといくつも手に入るスキルが、いくら頑張っても永遠に一つ。
それがハズレと馬鹿にされる理由であり、反発した人間が「これは生まれた時に神から貰った贈り物だ!」と主張した理由でもある。
つまるところ、冒険者を育成するこの学園で、「成長の見込みなし」と判断された者たちがいれられるのが〈勇気クラス〉――彼らが言う〈蛮勇クラス〉だ。
大した力もないのによくダンジョンに潜るよなと、その勇気を讃え――るわけもなく、バカの蛮勇と呼ばれるクラス。
それが、今の世の中の一般常識であるため、この少年たちの発言や態度は仕方のないものではあるのだが。
「おい! なんとか言えよ!」
「お構いなく」
「「「は?」」」
ギフト。
ホント笑っちまう言い回しだ。
反発精神で生まれた言葉なのに、俺にはピッタリの呼び名だよ。
「――勇者がいた」
ちょうどいい機会だからと、この新入生の集まる場で一発かましてやることにする。
ならばする話は当然、あれだ。
「ゆ、勇者? いきなりなんだよお前」
「そうだ勇者だ。憧れるだろう?」
突然語り出した俺にちょっと引き気味の少年。
だが話はまだまだこれからだ、聞いたからには最後まで付き合ってもらう。
「いや、憧れって、お前がなれるわけねぇだろ! 夢見てねぇでとっとと出てけよ!」
「――それは一撃だった……」
「…なぁ、話聞いてるか……?」
両手を広げ、大事なことなので神妙な顔で強調する。
ここが俺の話の一番熱いところだ。
そう、俺は勇者に憧れた。
いや、勇者の一撃に憧れた。
強大な魔物を剣の一振りで倒すその様に、俺は強い憧れを抱いたのだ。
「スキルが一つしかない? 新たに獲得できない? ――結構だとも! 最高のギフトを俺は既に貰っている」
勇者のような一撃を放ちたい。
一撃必殺で敵を仕留めたい。
その心が俺に気付きを与えてくれた。
「――少年。一撃で敵を屠るのに必要な力はなにか、わかるか?」
「い、いや、知らんしもう勝手にしろよ……」
自信満々な態度で尋ねる俺に、少年の顔には「絡む相手間違えた」と書いてある。
だがそんなことは知らん。
俺に語れと言ったのはお前なんだ、最後まで聞いてもらう。
……語れって言われたよな?
きっと、いや絶対言われたはず……うん。
なんでもいいが続けよう。
オチのない話はしちゃダメってじっちゃんが言ってたしな。
「一撃必殺に必要な力。それは――極めた壱だ」
≪ギフトホルダー≫は新たにスキルを獲得できない、しかし既に持っているスキルを進化させることができる。
これは一般の冒険者にはできない、俺たち≪ギフトホルダー≫にだけ許された特権だ。
そして俺が得た≪ギフトスキル≫は【剣斬】――剣の一撃を高めるスキル。
「もうなにが言いたいか、わかるよな? 少年」
「え? いやお前今大事なとこ喋ってなくね――」
「そうだ。俺はダンジョンに一撃必殺の力を求め挑むのだ。たった一つのスキルで、だからこそ目指せる最強を俺は目指す!」
「そ、そうなんだな。まぁ頑張れ……」
「うむ!」
そうだ、俺がここに来た理由はそれなんだ。
幼い頃の俺を奮い立たせたあの勇者の一撃のように、俺は強くありたい。
「長いだけの入学式かと思ったが、存外悪くなかったな。己の目標を再確認できた」
こうして、俺のダンジョンと学園での生活が幕を開ける。
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