第二話 初・ダンジョンダイブ
改稿済(2025/12/22)
一悶着あったがその後無事に入学式を終え、その日は解散となった。
俺はそのまま同じ〈勇気クラス〉の面々に挨拶だけでもしようと思ったが、誰にも会えず帰路につくことに。
探せど探せど何処にもいないんだから、もしや〈勇気クラス〉って俺だけ? と心配にもなったものだ。
まぁその懸念は通りすがりの先生の「〈勇気クラス〉にいるような子って皆我が強いから」というお言葉で無事払拭された。
じっ……と見つめられながら言われたが、きっと俺以外の〈勇気クラス〉の面々は相当癖が強いのだと思われる。
そんな観察しなくても、俺はまともですよって言ったら先生は「皆我が強いのよね……」と俺の身を案じるようなことを呟いて去っていった。
ともあれ少し残念な気持ちで帰路を歩く俺だが、学園の寮は利用していないので挨拶は後日、今向かうは駅だ。
自宅からの通学となるが、駅に設置された転移陣のおかげで通学はスムーズ。
百年前までは転移などという代物は空想上のものでしかなく、その頃は電車なるもので移動をしていたと言うのだから驚きだ。
そもそもダンジョンから得られる魔石やそれを用いた技術……魔道具と呼ばれる物が普及したのは八十年程前かららしいので、やはりダンジョン出現で齎された影響は強かったということだろう。
百年前にダンジョンが現れて世界は変わった。
それまで主流であった科学は魔学という魔力を用いた研究へと。
世界に溢れる魔力は人の生態系にまで影響し、エルフや獣人といった身体的特徴の強い人間も生まれるようになった。
一説では『ギフトホルダー』も魔力の影響を受けて誕生したものだと言われているが、まぁ諸説あるしどうでもいいことだ。
俺は自分の夢を追うスキルが手に入ったというその事実だけで十分だった。
魔学の発展で作られた転移陣に乗り、学園から遠く離れた地元へと帰り着く。
魔学の力があれば離れた場所であろうと通勤や通学にかかる時間は変わらない。
国外でさえ専用の駅に行けばあっという間にはい到着だ。
めっちゃお高いらしいから俺は使ったことないけど。
「ただいまー」
家の玄関で呼びかけるとすぐにドタドタと階段を駆け下りてくる音が聞こえる。
「おかえりにぃに! 早かったじゃん!」
「まぁな。今日は入学式だけだったし、クラスメイトにも会えなかったから。チョコは学校まだだっけか?」
駆け寄ってきたのは我が妹、一ノ瀬チョコ。
愛するチョコの頭を撫でながら問い返す。
チョコは俺の一つ下で今は中学三年、にもうすぐなる予定。
始業式がまだだから今日も家で寛いでいたのだろう。
「うん、始業式は明後日だよ。あ~チョコも早くにぃにと同じ学園行きたいな~。我が強いのに絡まれてたらにぃにが可哀そうだもん」
「おいおい、栄えあるユートピア学園だぞ? そんな輩少ししかいないさ。まぁ同じ〈勇気クラス〉の連中はその少しらしいけど……絡まれたら落ち着いて対処するって」
「うん! にぃにが常識人として引っ張ってあげないとね!」
ほんとその通りだなとチョコと笑い合いながらリビングへ。
俺は入学式で既にちょっと絡まれているんだが、まぁあれは我が強いのとは違うし、『ギフトホルダー』の身でユートピア学園の門を潜った時点でああいうのはわかっていたことだ。
俺の大事なチョコへの侮辱でもされない限り、いちいち気にすることでもない。
「そうだ、最近チョコはお友達と仲良くやれてるか? 冬休みでしばらく会えてないって訳でもないんだろ? ほら、新学年で交流の形が変わるとかあるから」
他愛ない話のつもりでチョコの現状を聞く。
我が妹殿には親衛隊とも言えるお友達がついていて、本人にばれないようにチョコを守っているのだが。
彼女たち、チョコが大好きなのでまぁ疎遠になるなんてことはないだろう。
しかし新学年でクラスが離れるとお兄ちゃんちょっと心配。
チョコは兄目線でも可愛い上に優しく、そして可愛いので町の人達からもすごく愛されているんだ。
いるんだけど……言い寄る身の程知らずのケダモノが現れないとは限らないんだよね。
実際昔はその対処で俺も忙しかったが、親衛隊が結成されてからは彼女たちがチョコを守ってくれるようになった。
新学年でのその辺の事情を俺は知りたかったのだが……。
「咲ちゃんたち? 毎日グループ通話で楽しくお話してるよ。一緒に遊びにも行くし、みんな仲良し!」
「そうか、よかったな!」
まぁ親衛隊の事をチョコは知らないので、直接聞き出すなんてできない。
それでもこういう他愛ない会話が楽しいのでそれはいいんだけどね。
親衛隊の娘たちには折を見て直接聞きに行くことにしよう。
「あら、アイスおかえりなさい。お昼まだよね? 一緒に食べましょ」
「ただいま母さん。午後はダンジョン行くつもりだから、軽めでお願い」
「はいはい」
そんなこんなでリビングでチョコと談笑してたら母さんもやってきた。
我が家の家族仲は至って良好、休日はここに父さんも加わることになる。
今日はお仕事で不在だけどね。
そうそう、アイスってのが俺の名前だ。
我が名、一ノ瀬アイス。
妹のチョコという名前といい俺の名前といい、名付けのセンスが一般と異なるのは理解しているが、俺もチョコもこの名前を気に入っている。
……幼少の頃俺はアイスなんて名前で嫌だった時期があるが、幼いチョコが「あいすにぃ、あいすにぃ」と呼んで後ろをついてくるのが可愛すぎて、気付いたら自分の名前が大好きになってたんだよな。
もちろんチョコの名前も大好きです。
まぁ名前のことはこの辺にしておいて、揃ってソファに移動した俺は早速チョコに絡まれる。
「にぃに! ダンジョン行くんだよね? 誰かと一緒に潜るの?」
「いんや、ソロで潜るつもりだよ。そもそも『ギフトホルダー』と一緒に潜りたいって奴はそうそういないからなぁ」
「む~! チョコが十五歳だったらにぃにと一緒に潜るのに~!!」
「まぁ気持ちはありがたいけど、チョコはお友達と一緒に潜る約束してるだろ? 友達は大切にな」
母さんが用意してくれたご飯を食べながらも、初めて潜るダンジョンについてあれこれチョコと話した。
ユートピア学園に入学を果たした生徒ととしては、勝手にダンジョンに入ることにいい顔をされないというのはわかっている。
が、学園側も〈勇気クラス〉を真面目に指導するつもりなどないという話だし、初めからいい顔されてないのが一周回ってアルカイックスマイルになるだけなので、別にいいのではないだろうか。
「にぃに、その顔なにー?」
「アルカイックスマイル」
「……? 行ってらっしゃーい!」
チョコの無邪気な見送りを受けて俺は家を出た。
純粋ゆえのスルーにお兄ちゃん少し涙が出そうだが、これから向かうはダンジョン……戦場だ。
気持ちを入れ替え近場のダンジョンへと歩を進める。
これから潜るダンジョンは『日本辺境:0011ダンジョン』というところで、ここを拠点にする冒険者は地元の者以外いやしない。
基本ダンジョンの中は何処も同じ造りなので、わざわざこんな辺鄙な場所まで来て潜る奴もいないのだ。
ダンジョン近くの建物……ギルドと呼ばれるものだが、そこに到着した俺は早速受付に向かい預けていた武器を受け取った。
これは冒険者登録した者であれば誰でも利用できるシステムで、預けておけば何処のギルドからでも自由に取り出せる、魔学様様だ。
冒険者登録は学園入学時に済ませているし、これでいよいよ初ダンジョンダイブの準備は整った。
「じゃ、行きますか、ダンジョン」
腰に吊るした剣に手を当て、いつでも抜剣できるようにして中へと進む。
宙に浮かぶ白い渦のようなそれを潜り抜けた先には、第一階層のフィールドである草原が広がっていた。
「これがダンジョンか……」
見上げた空にはどういう理屈か太陽のような光点が見え、目の前の草原も終わりが見えないほどに広い。
正に異次元。
ダンジョンが地球とは別世界に存在すると言われる所以を、垣間見た気がした。
「……おっと、突っ立ってても仕方ない」
冷めやらぬ興奮をなんとか抑え、草原に目を凝らす。
この一階層に出現する魔物は角ウサギ、ゴブリン、スライムだ。
ここからでもよくよく観察すればぽつぽつとそれらしき個体を散見できる。
俺はまず小手調べとゴブリンに挑むことに決めた。
「スライムは討伐非推奨だし、角ウサギは殺傷力がゴブリンより強いからなぁ」
スライムはダンジョンの掃除屋と呼ばれる。
害もないので倒してはならないが暗黙のルールだ。
角ウサギも角での突進攻撃が一発で致命傷になりえるので、慣れない初心者には角ウサギ特攻兵と呼ばれ少し敬遠されがち。
その点一階層のゴブリンは人型であるということ以外、大した武器も持っていない雑兵である。
初めてダンジョンに潜る初心者はまずゴブリンで生き物を殺す感覚を覚えろ、というのが熟練冒険者総意のアドバイスだ。
どの道ここで躓くようでは魔物を殺して生計を立てる冒険者は向いていないからね。
それに従って十数メートル先に見えるゴブリンに狙いを定めた。
彼(?)に恨みはないが、ダンジョンに住まう魔物と人間は相いれない立場にあるのだから、仕方ない。
それにゴブリンに関してはやけに女性に対する執着が強い傾向があるしな……別段性的に襲ったりするわけではないらしいけど、いい顔はされない。
背中を向けるゴブリンにゆっくりと忍び寄り、ある程度まで近づいたところで一気に走り出す。
草を踏みつける音でゴブリンも振り向くが、既に抜剣は完了している。
「【剣斬】!!」
持ち前のギフトスキルを発動し、頭に向かって剣を振り下ろす。
ゴブリンがこちらを振り返った瞬間には、決着はついていた。
「……意外とあっさり? はぁぁ、唯一のスキル、通じてよかった……」
転がるゴブリンの亡骸は頭と呼べるものがぐちゃっと潰れ、胴体も中心を境に左右で分かれている。
もともと第一階層のゴブリンは武器さえ持っていればスキルなしで殺せる相手らしいので、【剣斬】使用は明らかな過剰攻撃であったみたい。
ここまで派手に屍を晒されると流石に不快感でもくるかと思ったが……意外なことになにも思わない。
むしろ俺はこれからの立ち回りを考えていた。
「ここは通称チュートリアル階層……実戦の経験を積むにはちょうどいいよな。ならこの階層では【剣斬】の使用は控えて剣術を確かめる? 特訓の成果も確かめたいし」
ダンジョン第一階層は通称チュートリアル階層と呼ばれる。
俺はそこで幼少より鍛えた剣術を実戦に慣らそうと思った。
勇者に憧れ冒険者になる……そんな決意を固め、唯一のギフトスキルで一撃必殺を夢想した俺は幼少より特訓をしていた。
毎日時間を見つけては剣を振るい、肉体造りにも余念がなかった。
『ギフトホルダー』に教えをくれてやろうなんて剣の先生は見つからなかったため、特訓は全て独学と研鑽だ。
その成果を、この一階層で試したい。
ダンジョン潜って早々ギフトスキルが魔物を倒したことに、心は高揚している。
『ギフトホルダー』は最序盤の浅い階層でなら一般より楽というのは知っているのだけど、それでもだ。
俺の【剣斬】は魔物に通用する、それが知れただけでもこの先を目指すには十分過ぎた。
まぁけど。
「まずは、初討伐のガチャガチャドロップを貰うか」
ゴブリンの残した一つの球体を見て、今、別の意味でも高揚感に包まれていた。
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