37 ロック アンド チェイス
間が開きました 次は早めに上げたいと思います
する、する、する
音もなく部屋が移動している
わずかに、ほんのわずかに身体に掛かる慣性の力が
いま、この部屋自体が移動しているのだとわかる
これはわたしたちがあちらの世界からきたからわかること
こちらの人々なら、これは異様な感覚ではないかしら
「セラ、ハルカさんも驚きませんね
二人がいたという世界では、これは不思議ではないのかしら?」
「このように大きな部屋ごとというのは経験がありませんが
お母様、今この部屋が動いている、それであっておりますか?」
「ええ、侯爵にこれを教えて頂いたときは
足が震えて、侯爵に笑われたものです」
先程の会談が終わり
今夜はこちらでと
図書館とは別棟にある書庫、さらにその奥にある居住スペースに案内され
夕食をみなで頂いた後
レイチェル様主従、わたしとお姉さま、その組み合わせで部屋を与えて頂き
ともかくも、昨夜来のこともあり
今夜はやすんで、今後のことは明日にでもと
そういって別れた深夜
わたしたちはシーレ様に訪問され
シーレ様の居室だという、館の一番奥まった部屋に通されたのだけれど
「お母様、昨夜の襲撃を言い当てられたのは偶然と思えません
その理由をわたくしたちにお教えくださいませんか?
なにしろ、わたくしたちはともあれ
レイチェル様が狙われたりしますと
寝覚めが、その・・・」
意を決した、そんな風にお姉さまがお尋ねになる
「うふふ、セラは優しい子なのですね
というより、ハルカさんが気をもむのが嫌なのかしらね?
いずれにしても優しいこと、母は嫌いではありませんよ?」
にこにこにことシーレ様は微笑まれ
今日親子と名乗り合えた方の前で
お姉さまは、まだ距離感に戸惑われるのか
もじもじもじとされる
「では、少なくとも二人には、まず教えてあげましょう
そのあとどうするか、レイチェルさんに教えてあげるのか
それは二人でお決めなさい」
そういわれると
「ヘレネ、下に通して頂戴」
シーレ様は誰にともなく口に出される
すると
音もなく部屋自体が動き出した
そういうわけだった
動くこと1分もかからなかったと思うが
部屋がどれだけ地下に移動したのかは知らない
「では参りましょう
この先は、侯爵様、ええ、セラ
あなたのお父様がこの地に残されたものがある区画なのよ?」
シーレ様に伴われ
先程入った扉を再び開けば
あぁ、そこはわたしもお姉さまにもなじみ深い
そう、お姉さまがプリンセスとして崇められていらっしゃった
あの組織の本部
わたしとお姉さまとが切り結んだ
あの本部の主要区画と同じ、そんな通路が広がっていた
歩くことしばし
先程のシーレ様の居室と同じくらいの広さの部屋に通されたのだが
「ヘレネ、セラが帰ってきましたよ」
やはり、虚空に向かってシーレ様が話されると
「お嬢様、お別れ以来、
1000年と3か月12日4時間12分25秒ぶりにございます
御覚えではないかもしれませんが
侯爵様と御ふたりで
ここにお別れにお見えになったのですよ?」
どこからともなく女性の声が聞こえる
「あぁ、モデルをお出しした方が話やすうございますね
では」
と室内に現れたのは
先日来、わたしたちも姿を見ている
シーレ様付きの司書というか、侍女さんたちのひとり
「あぁ、なるほど
ファラスネスの技術で
立体映像をどこにでも出せる
で、あなたは、侍女さんたちの中に紛れていたので
実体がなくてもわたしたちが気付かなかった
そういう事なのね?」
「ご名答でございます、お嬢様
あちらでもわたくしの同僚といいますか
そちらにもヘレネ、ええわたくしの複製が同行したと存じますが?」
「残念ながら、そこまでのインターフェイスはなかったわ
レザ将軍たちが、ぶつぶつ言っていたような気がするけれど
そういう事なのね?」
「左様でしたか
失礼ながら奥様のご許可を頂いて
お二人のご再会の折のお話は伺っておりましたが
転移の折なのか、そのあとで何かあったのかは存じませんが
わたくしの本体が齟齬をきたすほどの事故があったと想像されます
さもなくば、侯爵様が自らのお身体を損なわれてまで
何かをされるなど、考えられません」
「父が何を目的にあちらの世界に行ったのか
教えてくれますか、ええと、ヘレネ?」
「残念ながら、お応えする権限がございません
転移の理由、方法、目的
それらの情報は侯爵様が、ロックをされて行かれました
セラ様にはこの場所のすべてをお使い頂けますように
この後、管理権限の登録をさせて頂きたく存じますが
それでもその部分の情報はお教えできかねます
この地に残られたファラスネスびとの子孫などに
余計な情報を与えない、そういうご配慮です」
残念全部は教えてくれないようだ
「ヘレネ、登録はともかく
まず、わたしの予言の理由を説明したいの
セラにも見せてあげて頂戴」
シーレ様がヘレネさん?を急かせる
「承りました奥様、
お嬢様ご覧を」
とたん
部屋の照明がうす暗くなり
替わりに、足元の床すべてが巨大なスクリーンとなり
そこに映し出されたものは
「これは、リアルタイム映像ですか?」
「さすがお嬢様
あちらでもファラスネスの技術にお触れでいらしたからでしょうか
よくご理解を、はい、現在の大陸の姿です」
とヘレネさんが持ち上げる
随分と人がましい人工知能さんだ
「そうでもないのよ、あちらの世界にいる一般人もこれを見れば
同じ感想を言うと思うのよ?
ええ、あちらではその程度に技術が進んでいました」
そう、床に浮かんだのは
わたしたちの感覚で言えば衛星から見た地球の姿に類似した
宇宙に浮かぶ大地の姿
リンデで見せられたり
昨日ここの図書室で閲覧した大地図帳におおよそ似ているが
なんとなく曖昧だった山岳地帯やら
大陸南部に帯のように広がる砂漠地帯
そこらも当たり前だが詳細に見ることができる
そうか、しかしこれがあるということは
わたしは思わず問いかける
「あ、あのあの、この衛星には
聖鎧騎士が使う武器が載ってますかっ?」
とたん、ヘレネさん?はむっとしたような表情を浮かべ
「・・・ハルカ様ですか
奥様とお嬢様がお許しだからといって
わたくしも許しているなどとお思いにならないように
わたくしにとってハルカ様は所有者の仇ですよ?」
うっわ、こいつというかこの機械さんはっきり言うなぁ
シーレ様もお姉さまもとりなそうとお口を開きかけるが
「それどころじゃないんです
もしも、もしも、あの黒いのが、わたしたちの出会った聖鎧騎士が
アレに乗ってる武器や装備を使えるようになったら
この大陸に住む人たちがひどい目に合っちゃうんです
わたしを憎むなら憎んでもいいです
でも、わたしはあっちの世界で
侯爵さんたちの敵だっていうのに
向こうの空にあったそれが使えました
ということは、黒い奴がこっちのを使えるかもしれません
もしもあいつが使いたいって思ってもできないようにロックしてほしいんです
お姉さま、シーレ様、ヘレネさんにお願いしてください」
「お願い、ですか、命令しろでなく?」
呆れ顔でヘレネさん?が聞いてくる
「侯爵様の仇なんて仰るような機械さんに命令しても
自己判断とかするかもしれないじゃないですか
だから、理由を言っているんです」
「・・・わたしを機械と知っていてお願いとか
どんなに人間めいたお応えをしていてもわたしは所詮、ヒトが書いた
命令に添って受け答えしているだけですよ?
わたしが自分で学習しているにしても、です
非合理極まりないうえに
勝手な要求だと存じますよ?
とはいえ・・・
現在、聖鎧着用資格者に対してその機能は命令待機状態にあります
ですが、現時点で待機状態から起動には
管理権限者の許可を参照するようにさせて頂きました
ハルカ様
あなたが仇であることは変わらない事実ですが
侯爵様の残された意志はこの大陸の保全です
それとあなたの要請が矛盾しないものと存じますので
管理権限者の指示あるまで自由にさせないようにいたしました
どうぞ誤解のありませんように」
ふんといったふうにセレネさんだかが顔をそむける
ま、しかたないや
言われた通り、仇には違いない
ともあれこれで一安心
わたしが向こうで使えたものは侯爵さんのというのか
お姉さまの組織の本部の外殻をぶち破るのに使わせてもらったが
あんなものを野放しにしていいわけがない
使ったわたしの方が怖くなったぐらいなのだ
その後
ヘレネさんはわたしにはつんつん
お姉さまにはわざとらしく大事なお嬢様という態度でおかしかったが
お姉さまは無事管理者登録をしてもらえ
「では皆様、これをご覧ください」
そうして見せてもらったのは
大陸の映像にともる2つの光点
「これがローグ大陸に存在する聖鎧着用者の現在位置です
もともとは3つ存在しましたが、624年前に1つが失われました
さて現在、ひとつの光点が王都の方向から北東に移動しつつあります
この光点が示す着用者は長らくファラスネスの故地を動いておりませんでしたが
5年ほど前より急に活発に動くようになり
大陸南部と王都周辺をこれまでに15回往復いたしました
現在、その地域に深刻な争乱や天災などは起こっておりません
ゆえに、聖鎧所有者は何らかの意図をもって自ら動いているものと
判断し注視を続けております
45日前に大陸南部よりファラスネスに一度戻ったその所有者は
王都、商都に短く滞在したのち
42日前にリンデ方面に移動
中間の地点で10日間停止、そして再び北上
リンデ近辺に20日間滞在
そののち急速に再び南下、前回停止した中間地点に滞在
そして4日前に商都に入り
一昨日は王都におりました
そこにお嬢様が訪ねてこられたそういうわけです
ちなみにハルカ様の反応はこれとは別です
仮に赤い点でお示ししましょう
ええ、突然現れた
新しい反応、そしてお嬢様の仰る黒い奴
この動きは奥様にご注意をさせていただいておりましたので
奥様がお嬢様にご注意を促したのでしょう」
むぅ、あやつ北に向かっているのか
そこそこの深手を負わせてやったつもりだが
ヘレネさんによると今は人間の歩行速度程度で街道を外れながら
動いているようだ
わたしは治癒も含めて複雑な魔法は使えない
傷くらいなら特別になったからだがヒトより早く癒してはくれるが
奴に負わせた腕と胸の傷はかなり重いはず
支援者がいなければいずれ命は落とすかもしれない
だが、たぶんだけれど
奴には支援者がいるに違いない
深手を負わされてなお支援してもらえるのかどうかは知らないが
さて、ではどうするべきなのか
お姉さまとわたしは顔を見合わせたのだった
当初、人工知能さんはリンゴ好きのじょぶずさんっていう男性になるはずでした
男性執事で書きはじめたらレイチェルさんちの万能執事さんとまるかぶり
残念、リンゴ好きな執事さんはいなくなりましたとさ




