30 歌 舞 く 都
毎度のことですが・・・始まりませんでした・・・
ぱら、さら、きくり
繰られる頁、書きこまれていく数字
ふだん、というか、こんな身になってから
縁遠くなった場所ではあるが
ここは人々が忙しく働く場所
場違いといわれてしまえばそれまでだけれど
「恐れ入ります
レイチェル様の依頼でこちらに滞在しております冒険者
ウロボロスの者です
先程レイチェル様お付きの方がお見えになられたと存じます
どうぞお取次ぎを」
わたしと同様に、お姉さまのなかにも焦る気持ちはおありのはず
けれど、声音にもお出しにならず、むしろ穏やかに
笑みまで含んでお姉さまは商会の職員さんにお声をかける
さすがわたしたちの繋ぎを含んでおられただけあって
商会の方の動きに遅滞はない
「いらっしゃいませ、セラ様、ハルカ様」
とこれもいつものご様子でアスティナさんが現れる
「ええ、ご依頼の内容で、少し確認したいと存じまして
先ほど、こちらにお入りなるのを拝見しましたものですから
少しよろしいでしょうか?」
「承りました、ではこちらに」
と別室に通される私たち
そして
3人だけになった瞬間
「いかがされました、火急のご用件と存じます
わたくしで扱えることでしたら何なりとご下命を」
さすがニンジャさんの勘は鋭い
「端的に
アスティナさん、今日の王都ご訪問は以前からのご予定ですか?
本日レイチェル様のお護りは?」
「毎月です、先日のような旅程のない限り
お嬢様の代人としてこちらに、はい、毎回1泊
予定通りのことです
お嬢様はお屋敷、ステファン様がお付きです
あの方がお見えの限り、まず並大抵のことでは・・・」
と
アスティナさんは自分を安心させようとするかのように
わたしたちに微笑むのだが
「左様ですね、普通のことならば
正直、野盗、あるいは多少腕の立つ冒険者崩れとか
そういうものならば何の心配も、と
けれど、もしも、もしもですが
先日来の襲撃、たぶんお調べでも裏はなかった
そういうご判断と思いますが
裏があったら?
10人で駄目、30人で駄目
まして、厄介なあなたが月例でおでかけの日
・・・・・・それと」
「それと?」
「先ほど図書館の、はい館長様にお目に掛かれたのですが
別れ際
館長様が口に出されたのです
『ファラスネスの亡霊は三日月の夜騒ぐ』と
館長様もただの星回り、そう仰られましたし
わたしたちも聞き流したのです
けれど、アスティナさんを見かけてしまいました
ええ、レイチェル様の絶対の盾
もちろん、絶対はないにしても
レイチェル様の最後の盾はあなた
それが無い日がある
無論あなたよりステファンさんはお強いかも
けれど、慮外者はどう見ますでしょうか
もちろん慮外者があれば、ですが」
「承りました、空振りでも問題ございません
空振りましたら
はい、わたくしがお嬢様に、うふふお仕置きを・・・」
「「それは駄目」」
「・・・残念でございます、では急ぎ準備に
いかがされますか?何か御腹案でも?」
「では・・・」
立ち上がり顔を寄せ合う私たち3人
「秘かに王都を出た方がよろしいですね
王都の門は夜には閉まりますね?
それまでに目立たず消えたい
わたくし一人ならば、いかようにも
ですがお二人はさようなことにお慣れでない
手が欲しいところですが」
「ええ、・・・さんでどうです?」
「妥当かと、もう一手欲しいですね?」
「あの方はいかがです?」
とはお姉さまのご提案
「「え?」」
たしかに意外ではあるが・・・
「普段お付き合いはございませんが
いけるかと
不遜な言い方ではございますが
・・・に訴えるのが一番か、と
動いてくださるならば、あとの始末はいかようにも」
「行けそうですよね?」
「ええ、きっと」
うんうんうんとうなずき合う私たち
「ではそれはいいとして、アスティナさんって
ここから商都まで駆け通しで走れます?」
「問題ございません、1刻は切っております
そのあとすぐに荒事になりましても
それがわたくしの職業です」
いやぁ、メイドさんって大変なジョブだなぁ・・・ちがうけど
「わたしたちも問題ありません
いずれにしましても万が一を想定して
お屋敷のお庭なり、しかるべき場所に潜伏
それで待機、考えたくはありませんが
到着、即、荒事、も
ですから現地での誘導はアスティナさんにお任せします」
「はい、では集合はお宿ですか?」
はて、どうしたものか
まずはわたしたちが、つぎにやはりわたしたちがあそこに・・・
ええと・・・
では、ごにょごにょごにょ
話をまとめ
その場を借りてわたしたちは武器、防具を身に付ける
物騒ではあるが、武装した冒険者が歩いていないことはない
それだけ冒険者は自制も求められるし、社会での評価も高い
ましてここは王都、ぽっと出の冒険者が武装していたりすれば
ひそひそひそとされるようで
そこに少々忸怩たるものがないではないが
仮にも、Cランカー、いっぱし並みということで
ここは気恥ずかしさに耐えなくては
そして、では、と武装したわたしたちは商館を出て
「トーレスさぁん、魔剣買いに来ましたぁ!」
トーレス工房に突撃した
「おいてめぇら、ドーラスの秘蔵っ子とか思って
可愛がってやる気でいりゃぁ
とんだ見当ち・・・おい何をしやがる
は、はなしやがれぇ」
「はいはいはい、わたしぃ魔剣が早く欲しいんですよぉ
はぁい、工房工房っと」
トーレスさんもにらんだ通り、かなりの剛腕とお見受けしたが
所詮はいわゆる『人類種』の延長
わたしとお姉さまにがっちり固められては
抵抗のしようもなく
工房へと拉致される
「トーレス様、まことお恥ずかしい茶番をしてしまいました
申し訳ございません
ですが、なにとぞ・・・」
「ご、ごめんなさいっ」
「わけがあんだろ、いいな」
「実は、かくかくしかじかで・・・」
「おし、金はよこせよ、酔狂にも先立つものがいらぁ
おうそれで充分
ううんと、こいつとこいつとこいつか
このままここで待ちな」
じれてはいるが、ここはそれに従うまで
それに、事をおこすのは黄昏どき
「ほれ持ってきな、あとで顛末は聞かせろ、な?
おぅ?
ここまで巻き込んだんだ、知らん顔はなし、だぜ?」
「承りました、では後日」
たった20分ほどで目的のものを揃えて頂いたが
マジックボックスに仕舞うのももどかしい
とはいえ
こほん、これが大事よね
「わぁーい、トーレスさん、ありがとうございまぁす」
ここは女優の才能を・・・
「おい、あれは何とかならねぇのかよ」
「・・・善処させましょう」
なぜよぉ、なっとくいかなぁい
むぅ、女優の道はやはり険しいのかしら?
さて、いよいよ次だ
「遥、つぎはわたしが掛け合いましょう」
「よろしいのですか、ここはやはりわたしが女優の・・・」
「ここは女優でなく、ほら、あれでしょう?」
「あ、そうでした、ではお任せします」
「はい、任されました、じゃ、行きましょうね?」
こころなしか、お姉さまがほっとされているような気がする
むぅ、ま、たしかに次は、うんアレに訴えるんだものね
さて、次にやって来たのが街道警備隊の屯所
屯所というとなんだか
浅黄色の・・・まぁその、こちらは軍服だったよね
「失礼いたします、Cランク冒険者、ウロボロスの者です
先日、街道で捕縛いたしました野盗の褒賞金を頂けると伺い
かくは参上いたしました、
卒爾ながら、デュプネ隊長様にお取次ぎ頂けませんでしょうか?」
「ほう、デュプネ隊長が、御心の広い方でよかったな
でなくば、次子とはいえ伯爵家の御曹司を名指しとか
ふっふ、が
隊長はわれらのようなる地下人にも隔意を持たれぬおかた
しばし待つがよい」
待つことしばし
「おう、先日の腕利きか
働き見事であったな、ではあの日の書付を出すがよい
褒賞は、600ギニーそこから・・・」
と『書付』を読まれたデュプネ隊長
「ふむ、支払いは約条通り、さて実はな
少し警備の件で、街道の実情を聞きたくもある
しばし話していくがよい
では、茶など取らせよう、副官、案内するがいい」
むぅ、この方、お貴族様だからかしらん、なんというのか
うん、それこそ芝居がかっている気がする
こんなところにライバルが
そして、別室
「おい、多少は俺の事情を聴いてこなかったのか?
他家のことならともかくも、『レイチェル嬢』の件で
俺を頼るのか?」
あれ、時代がかってない、ふうむ、あれは職業上なのかしら?
「多少承りましてございます
なれど、お願いの儀、そも、根拠がうすぅございます
レイチェル様が数度襲われ、背後は見えない
ただただ、レイチェル様の頼る股肱がおそばを離れる決まった日
それが今日巡ってくる
ただそれのみのこと」
「ならばなおのこと、それで、俺を?」
「左様でございます」
「貴様っ、俺が、このテオ・デルデュプネが恋綿とレイチェル嬢を
などと、左様に軽く見てのことか?」
おぉ、なんだか乗ってきた
これはお姉さま、いけるのじゃないかしら?
「テオ様
あ、お名前をなどと、誠に失礼の段」
「よい、構わぬ、とく申すがよかろう」
うは、そうそう、これよこの呼吸
「は、テオ様、われらこの王都に寄る辺なく
かような拙き、しるべをもって
なお、企みまするは、大それた行い」
「さよう、わかっておるではないか」
「なれど・・・なれどでございます
草に伏し、石に枕すわれらのようなるものなれば
そも、寄る辺とすべきは自らの勘、そればかり
とは申しながら、かようなる大それたたくらみに
お力を貸そうなどと、見も知らぬ高貴の方が
数多おられるはずもなく
我ら困り果てておりましたるところ
ふと、ふとでございます
街道にて袖すりあうこととなりました
テオ様、あなた様でございます
あのおりの
自らの行いをもって貴族の範となされるあのお姿
それを思い出したれば、かように御すがりに参ったる次第」
「むぅ」
眼をつむり腕を組まれるテオ様
うわ、これはいける気がする、お姉さま、もうひと押し
「それに、でございます
先ほど、テオ様はかように仰せなられました
『レイチェル嬢に恋綿とする我と思うてか?』と
そも、街道にてのご忠告、恋綿とされる方が
あれがようなるあえての悪口
仰せのようなる柔弱の者に言えるはずもなく・・・」
「や、すまぬ、それはもういうでない、なれどむぅ」
「テオ様、御身のご重責、それを想わば
お許しいただけないと存じ上げます
が、テオ様、ならばこそ
汚き金で動くようなる有象無象、我らが頼れるはずもなく
枉げて、枉げて、どうかご助力を・・・」
「なぜに、そこまでレイチェル嬢に力添えをいたす
あれか、得難き金主、金蔓と思うてか?」
「・・・レイチェル嬢は我らが事を『友』と
地下なる我らをかようにお呼びくださいました
友の危地、いかで見過ごしに出来ましょう
テオ様、この儀、伏して、伏してお願いを・・・」
深く一礼されるお姉さま
そしてもちろんわたしも
「よかろぅ、心底テオ・デル・デュプネが聞き届けた
よし、なれば、これ、副官、参るがよい」
おっけー
いやぁテオ様って、歌舞伎かなんか見てるんじゃないかしら
この大時代な一幕のあとは速かった
副官さんから女子の隊員さんをふたりお召しになると
これこれ、これと的確に指示していかれる
むぅ、よくわからぬおかたではある
そして
「では、王都の南側をともに回ってみようではないか
しばし付き合うがよかろう」
わたしたちはテオ様のご用意された馬車に陪乗し
夕暮れ迫る王都の門を出た
次回、次回は必ず・・・




