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29 古跡の人

今回はサブタイに苦心

2021.2.20

冒頭のアレを入れ忘れたことに気づき、追加しました

今更とも思うのですが、今しばらく意地をはりたいか、と・・・

ふわ、する、ふわり

そばに立たれたそのお方


「静謐を求める場所で、お声をおかけする非礼、お許し下さいね?

 わたくし『王立図書館』の館長を務めます、シーレと申します

 お二人のようにお若い方が『ファラスネス』のような古跡にご興味が、と

 つい、お声をかけてしましました

 失礼ながら、一通りお目は通されたご様子

 いかがです、しばしお茶でも致しませんか?」


シーレさんかぁ、初印象は陽の下にでたら儚く散ってしまいそうな

優しげで、美しいのだけれど、なにかここにいるけれど、ここにいない

そう、浮世離れした、そんな言葉が当たる気がする


ページの探索から二人の討論に、

そう移ろうとしたばかり

普段のわたしたちならご遠慮をという場面


「シーレ様お誘い嬉しく存じます、けれど構いませんのですか?」


あら、意外

お姉さまはむしろこのお申し出に乗り気のご様子


にこり

花のようなシーレ様のかんばせに微笑みが浮かぶ

花は花でもこの花の儚さはどうだろう


「はい、お二人のお邪魔でなければ、どうぞ、こちらに

 あぁ、書籍の方は戻させておきましょう

 皆様、お願いします」

司書さんたちが静かに一礼される


そして伴われた一室・・・といってよいのだろうか

階段際の書棚が

シーレさんが手を添えると、そろろと動き

そこにぱくりと口が開く


「ふふ、少しはお目を楽しませましたでしょうか?

 ここは、ええあまり知られてはおりませんが

 ファラスネス侯爵の元の居館、はいここは600年でなく

 1000年を経た場所なのです」


思わず顔を見合わせるわたしたち


そして通された場所

広い窓、館内からは見えていなかったが

ここだけは緑、というか小さな森が見えている


「これは侯爵様がファラスネスの緑を想い、御手植えになられたと

 そのように伝わっております

 ファラスネスはやまがつなる御国

 けれど美しい森も点在しているとか

 それを想われてのことと伺いました」


ほー、なんとなくロマンチックなお人だったのかしらん

また、静かに別の扉が開き

司書さんたちが茶器を運んでこられる

軽く頷かれたシーレさん、また無言で司書さんたちが下がっていく

ふむ、これは司書というより侍女

そんな仕え方に見える


「あらためまして

 わたくし『シーレ・レ・ラ・エスペリ』と申します」


え、ということは


「これは、王族の御意を得る幸福に恵まれるとは

 予期をしておりませんでした

 わたくしどもは

 名乗るほどの姓(かばね)無き市井の庶民にて

 わたくしは『セラ』、これはわたくしのともがら『ハルカ』

 失礼の段は、どうか御寛恕をもちましてお許しいただけますよう

 伏してお願い申し上げます」


深く一礼されるお姉さま

無論わたしもそれに倣う

いつもの従者にしておかないのは

貴人の御意を得るにわたしが従者では何かと問題あり

きっとそう思われたのに違いない


「うふふ、御免なさいね、いいのです、王族扱い

 そういうことになってはおりますが、

 故あって、と申しますか虚弱の身の上、

 街を歩くのもおっくうというより体が許してくれません

 本好きをいいことに、『館長』とは名ばかり

 この部屋で好き勝手をしております


 館内に出ましたら

 「ファラスネス」をお調べの方がいらっしゃる

 それも、そのような苔むした古跡をお調べにしては

 お二人ともまぶしいほどにお若くて

 つい、お声を掛けてしまいました

 こちらこそお許しを、ね?」


何をおっしゃるのだか、シーレ様こそお若くてお美しい

それをお姉さまがお答えすると


「うふふ、そう見えますか?」

「はい、直答の段、失礼かと存じ上げますが

 まこと、シーレ様はお若くお美しく存じ上げます」

「あらあら、齢1000年余、このような人外でもですか?」


え、1000年?

ふたり思わず息をのんでしまう


「あはははは、ご、ごめんなさいっ、冗談ですよ?

 でも、ここは1000年を閲(けみ)した

 ファラスネス侯の元お屋敷

 そのような妖怪の一人くらい

 ここになら住み暮らしていても不思議ない

 わたくしもそういう気がしているのです


 このような悪戯者でよろしければ

 王都にいらしたら、またお尋ねくださいね?

 司書たちによると

 ああ、お察しの通りわたくしの侍女も兼ねておりますが

 ええ、お二人は冒険者でおられるとか


 どうか、どうか、

 世に出られないわたくしを哀れと思われたら

 旅のお話なり、お聞かせください構いませんか?」


「よろしいのですか?」

「もちろんですとも

 うふ、悪戯のお詫び、これをお持ちください」


シーレ様が差し出されたのは

琥珀色の薄いカード

見たことのない材質だが、こちらで一番近いものといえば

ああ、そう、ステラリア

複製不可能というあの不思議な素材

それにうっすらとなにか紋章のようなものが刻まれている


「それはわたくしども王立図書館の紋章

 司書たちにお示しいただければ

 わたくしの動静はすぐお二人に伝わります

 それに、入館の面倒なチェックは致しませんよ?

 すぐにお通り頂けますし、わたくしをお呼び頂ければ

 こちらにお通しいたします

 

 セラさん、ハルカさん、約束ですよ?」


これではいとお答えしない人がいたら会いたいというものだ

王族云々はともかくも

佳人という言葉のふさわしい儚げな美しい方とまたお目に掛かりたい

まして、広い世界を見て歩きたいわたしたち

情報の殿堂の一つであるここに来ない理由はまずあるまい


「それと、うふふふ、悪戯ついでと申しますか

 そのカード、あなたたちの依頼人

 うふ、隠さなくても大丈夫

 ええ、『ゼクストレーメの小娘』に見せてあげてくださいね?

 地団太踏んで悔しがって、転げまわるのではないかしら?」


うっわ、王族の方からなにげにすごい言葉が出た

あの佳人というにふさわしいシーレ様のお口から

そんなお生な言葉が出るなんて


「え、シーレ様、レイチェル様と何か・・・

 と、申しますか、そもそもわたくしたちが

 ここに来た理由なども

 懼(おそれ)ながら、わたくしどもよりもご存じで?」


お姉さまも驚いたご様子で問い返す


「うっふふふ、いわば意地の張り合い

 悪い子でないとわたくし存じているつもりなのですが

 あの子は

 『ファラスネス』そして『悲劇の王女』に興味があるのでしょ?

 こっそり、別家を立てたというのでしょうか

 自由にステラリアの名を使えるようになったとき

 真っ先に、こちらの資料をあさろうとしたのです

 

 ま、それは構わないのです、ええ、ここは『図書館』

 ここを壊そうなどというものはともかく

 ここに集まる『知』を求めるものには

 本来開かれるべき場所


 ですが

 お二人が先ほど閲覧された5冊のうち

 『王国の成立とファラスネス侯爵』

 『「エスペリ年代記」とその虚実』

 これは実は発刊当時、勅禁にされた発禁本


 まぁ、御覧の通り、大したことは書いておりません

 そして、禁書であろうとも収められる

 そこが『王立図書館』ええ、ここなのです


 そこで、それを含めて閲覧するために

 ステラリア名義でまずは、ね

 許可を取ろうとしたのです

 しかし一度弾かれました

 まぁそこで、わたしに掛け合えばよかったのです

 掛け合うというか、相談してくだされば、ね?


 お話したような身の上

 あのような子はむしろ好きです

 それこそ世界の様子をお話しに来てくれそう


 ですが

 弾かれたのち

 あろうことか、いきなり陛下の許可を

 ええ、お金の力で・・・

 どこの手づるをどう押したのか引いたのか

 ある日、陛下がこちらにお渡りくだされまして

 許可を出してやってくれまいかと、ね

 ここは王族の管理する場所


 無論陛下のお言葉があれば

 許可を出さないそれはあり得ません

 けれど陛下は、虚弱なわたくしを憐れまれて

 あとは実績でしょうかしらね

 それなりに地道にしておりますので

 それで勅許を出される前に、畏れ多いことながら

 ええ、わたくしにご相談に見えられたのです


 ええ、ええ、許可はしてやりましたよ?

 うふふ

 『閲覧を許可する

  ただし、過去に発禁の勅を出された禁書ゆえ

  かりにも王国貴族籍を有する者は直読あたわず

  ひととせにいちどきり

  代人をもって内容を知るべし』

 とね?」


うっわ、ボタンのかけ違いって怖い


「なるほどそれで、今回はわたくしたち、なのですね?」


「左様かなと存じます

 もう、初回で大した内容でない、それは知っているでしょうに

 意地でも見たいのでしょうねぇ?

 そのくせ、わたくしが、くす、へそを曲げていると知りながら

 詫びをいまだに上手にいれられずにいるのです


 今回の趣向は、なかなかと存じますよ?

 わたくしが気にいるようなお二人を差し向けたのですから

 

 あぁですからね?

 くすす、あの小娘が、一通り転げまわりましたなら

 お二人と一緒に、ええ、お茶を飲みにいらっしゃいと

 そのようにお伝えを


 けれど、よろしいですか?

 必ず転げ回らせてからですよ?」


「ご定(じょう)たしかに承りました、金主の意向に

 何ら反するものなしと、かように存じあげますので

 ご意向のままに、必ず致すでございましょう」

「ホントに?」

「ホントに」


くすす、あははと笑い合われるシーレ様とお姉さま


そしてお茶を頂きシーレ様のお部屋を辞するとき


「伺いましたが、お二人はあと4日こちらに通われる

 それであっておりますか?」

「はい、左様ですがシーレ様、何か不都合でも?」

「あら、そういう予感がされますか?

 今宵は三日月

 ファラスネスの亡霊は三日月の夜に騒ぐとか

 今日の話題が話題でしたから

 星回りということが、少し頭をよぎりましたの

 

 では、いずれにしましても

 またいらしてくださいましね

 わたくし、ここで、はい、ここから動けませんけれど

 セラさん、またお目に掛かれますように

 お祈りをしておりますね?


 そして、ハルカさん?どうかセラさんを、あはは

 言うまでもございませんですね?

 お二人のご様子を伺えば、うふ

 では、またここで」


はぁ、どうしてわたしたちの上でいろいろいろと

思惑が飛び交っているのかしら

図書館を辞し

昼下がりの王都を歩むわたしたち

少し疲れてしまったし

気疲れを癒すには、やっぱり甘いモノ?


そんなお話をしながら歩きはじめたわたしたちの視線の先

そこには、ああ、そういえばここがそうだったか

商館の

そうステラリアの商館の前に停められた馬車から

中にに入ろうとするメイド姿の女性


アスティナさん・・・?

レイチェル様はご一緒でない様子・・・


レイチェル様がアスティナさん抜きで、い、る?

今夜は三日月?


ぐり、思わず傍らのお姉さまを

じっ、あぁお姉さまもか

蒼ざめたお顔のお姉さまがわたしの顔を見つめていらっしゃる


これは、予感?

わたしたちのような経験をしてしまったものに来てしまう

いやないやな、そういう予感


わたしたちは、ゆっくりと

そう、人目を無用に惹かないためにゆっくりと

ふたり商館に入るのだった


無論サブタイは「奇跡の人」のもじりですが

二転三転いたしました

さてどうやら次回はドンパチできそう

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