起動実験を開始するよ
今夜、工房を閉めた後で復元獣機の再起動実験を行なうことになった。
俺は、いったん家にもどってエルディー先生と相談しよう。
家にもどると、キララたちが訓練中。
最初の頃と比べると、だいぶスタミナがついてきたかな。
先生は、っと?
家の前に護符ディスクを並べている。
日干し?
「だいぶ使ったからな。作って補充しないとな。」
乾かしてるんですか?
「日光を魔力に換える魔法陣が組み込んである。」
「いちいち自分の魔力をこめてたんじゃ身が持たんからな。」
そういえば照明魔法陣や着火護符にも組み込んであるんだっけ。
太陽の使者だな、先生。
日光といっても光そのものをエネルギー源にしているわけではないらしい。
太陽の光に付随する「天の恵み」的な魔法的な何かを利用しているという。
だから受光面積はあまり関係ないとのこと。
「勉強すべきことが多いですね。」
「それだ、あいつらも…」
マビキラの方を見る。
「ディスカムはともかく、二人には座学も叩き込む必要があるな。」
いったん家に入って獣機の起動実験のことを伝える。
「もう、組み立てたのか? 早いな。しょうがないな、あいつらも。」
ミネルヴァも鳥メカを起動して会話に加わる。
「初期化、再起動はミネルヴァでもできますが、命令を出すには将機が必要です。」
やっぱり将機ボディも連れて行く必要がある。
おやっさんとダットさんがマントを用意してくれて良かった。
「マントを着せて夕暮れ時に出かけていくことにしましょう。」
「あいつらは早めに返して…その後、遺跡によってから工房へ向かうか。」
「ベータ君はどうします?」
「連れていこう、簡単に事情は説明してあるが、将機ボディやミネルヴァにもなじんでもらわないとな。」
「わかりました。」
ミネルヴァ、ケルベロスの頭のことは先生には内緒だよ。
びっくりするとこ、見たいからね。
『わかりました。』
あれ? 今…くすくす笑った?
マビキラ&ディスカムが帰った後、先生、ベータ君、俺、ミネルヴァで遺跡へ向かう。
遺跡に入って灯りをつけると…
「うわ!」
ベータ君びっくりした?
拘束台に座る将機ボディ。
ベータ君に将機見せるのは初めてだっけ?
「頭がない…んですね?」
ふふふ、お見せしよう。
さあ、ミネルヴァ、ヘッドモード! レッツコネクト!
俺の肩からひと羽ばたきして滑空。
将機の首部分から出ている止まり木風のフレームを掴んで接続。
顔の部分にあたるカバーが接続機構を覆う。
翼を顔の両脇に髪の毛風に垂らして完成。
合体完了。
「うわ…すごい! カッコイイ! すごいですよ!!」
ベータ君、はしゃいでる。
ふだん、年齢より落ち着いた感じあるから、こういう反応してもらえるとちょっとうれしい。
将機ボディは、ぴょん!てな感じで拘束台から降りる。
身長は低い、キララと同じくらいか。
動き出すと急に人間ぽくなる。
「え、えーと…あの…」
ベータ君が妙に意識してるな?
「ミネルヴァさんに…そのう…」
あれ、フクロウ部分がミネルヴァで…将機部分を含めた全体は…
まあ、いいか。まとめてミネルヴァで。
「服とか、着せないでいいんでしょうか?」
おう! 先生も俺も意表を突かれた。
「そういわれてみると…確かに…なんて言うか…」
「女の子っぽいですもんね。」
だが、そこに気づくベータ君。アンドロイドフェチ気質と見た。
赤くなって視線が泳いでいる。
眼を逸らそうとしてるんだけど、つい見ちゃう。ホントは見たい。
いいですね、いい趣味だと思いますよ。
ミネルヴァが無機質に答える。
「いえ、獣機と同等の強度はありますから防具は必要ありません。」
あー、いや、そういう事じゃなくて。
「住民に恐怖感を与える怖れがありますが、コウベン工房長からマントを預かって…」
いや、そうじゃなくてね。
「いや、いや、そのボディが裸っぽくてエッチだねって話だよ。」
相変わらずはっきり言っちゃうね、先生。
「え? ええ? ちょっと、そんな…」
あわてた感じで腕をクロスさせ胸のあたりを隠すナビ君。
半身になってベータ君の視線から身体を逸らす。
いやいや、その動きがね。なんでそんなにエッチなの?
「と、とりあえずマントを羽織りましょう。」
ダットさんから預かってきたマントを掛けて、フードをかぶせる。
うわ、何? このカワイイ物体。
さすがはダット姐さん、見立ては確かだ。
すっぽりフード、ぶかぶか感あるレインコート状態。
歩くテルテル坊主。雨の日ガキンチョ仕様。
ブカブカ長靴履かせたい!
「靴を用意しとくべきだったな。」
先生も同意見。顔がほころんでるぞ。
遺跡を出て工房へ。
途中、ベータ君は救護院へ寄るので、いったん分かれて工房で合流することに。
イーディさんに遅くなるって伝えると。
陽は傾いて、夕暮れが近い。人の顔も見えにくくなってくる。
あなたどなた? 誰ぞ彼、黄昏時。
いわゆる逢魔ヶ時。トワイライトゾーン。
単体で見ると可愛いく見えたマント将機だが、雨も降ってない状態で黄昏の街を歩くと、怪しい。
むしろ可愛いのが、場違いで逆にちょっと怖い。
俺や先生といった同行者がいるからまだいいけど。
夕暮れの路地とかで1対1で出会ったら…きっとビビる。
シチュエーションて大事だよな。
痛い魔道士の黒いマントの方がむしろ良かったかも…
問題ないかな? ミネルヴァ。
『自分で動くのって、意外と大変です。』
『使えるリソースが限られているので。』
人格が分かれているから、勘違いしそうだけど。
今、ミネルヴァと将機ボディを動かしている意識は俺の一部。
思考に使っているのは魔道機本体の脳回路。
ミネルヴァの意識が鳥メカ側の回路を使い切れていない。
『ちょっとまだ、演算能力を把握できていませんね。』
最適化が進めば歩行制御や行動はミネルヴァ側に丸投げできるだろう。
思考や意識まで収納できないかな?
そこまでの性能は無いか?
まあ、その辺はおいおいと検証していこう。
なるべく人目を避けて工房へ。
受付のお姉さん、怪訝な顔だったけどマントの下がロボだとは気づかなかったみたい。
中庭には獣機が置いてあるが、布が被せられている。
ちょっと見、荷物が置いてあるようにしか見えない。
「おう、来たか。」
って、おやっさん。
タンケイちゃんはともかく…職人衆、いっぱい居るんですけど。
誰も帰ってない!
「秘密なんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんじゃが…気づかれた。」
職人衆が口々に
「そりゃあないすよ、おやっさん。」
「自分だけ楽しもうなんてひどいでずぜ、大将。」
「組み立てたの、アッシらなんですから」
「タンケイに残業ってとこでピンっと来やした。」
「やっぱ、機械は動いてなんぼですぜ。」
うーん、だめだこりゃ。
ダット姐さんもいるぞ。残ってたんですか?
そしてタモン兄貴。
「人手があった方がいいと思って。」
そして、黒エルフ、デイシーシー。
お前が居たらレガシの全住民が居るのと同じじゃん!
「面白いことの匂いがしたしー!」
頭を抱える。
「遅くなりました…うわあ!」
ベータ君が到着。人の多さに驚いた。
ああ、うん。イーディお姉さんが付いてきちゃったのね。
ディスカムとマビキラまでいるぞ。
「授業を早く切り上げたので何かあるな、と思いまして…」
「面白いことの匂いがした!!」
キララ…こいつ…
「しかたない。秘密にできないんなら、逆にみんなに知っててもらった方がいいか。」
先生もあきらめ顔。
「いいか、お前ら! これより獣機の再起動実験を行う!」
「おおー!」
乗りがいいね、職人衆。
「まず、獣機の記憶を消して人間を襲わないようにするぞ。」
「おおー!」
もしかして、いちいちこれやるの?
「実験を行なうのは、ええと…んー…」
「ミネルヴァ! アイザックのぉーー…妹だ!!」
ええー! 思いつきでそんな設定を!?
ミネルヴァがマントのフードをはずす。
「ミネルヴァです、よろしく。」
「おおおおーう!」
思いもよらぬ美少女メカの登場に職人衆がどよめく。
もう、ミネルヴァで定着しちゃうぞ?
名前、実は気に入ってるんだね。
「それでは作業に取り掛かります。」
といってマントを脱ぐ、と。
「おおおーう? あー、う…あ、え?」
職人衆から上がる戸惑いとも感嘆ともつかない声。
あきらかにこのメンバー、メカフェチ率高いよね。
フェチっ気が無ければただの機械だけど、その手の人にはたまらんデザインだからな。
いいもの見た! と、見ちゃいけないんじゃ? の入り混じった複雑な反応。
やっぱ、妙に色っぽいんだよね、このメカ。
「いや、マントは着たままでやってくれ。」
先生がフォロー。
「おおーう…」
残念とも安堵ともつかないため息。
いちいち反応しなくてもいいんですよ、職人衆。
「えーっと、復元した獣機は…これか?」
「あ、先生、ちょっと待ってください。」
「ん?」
タンケイちゃんに耳打ちする。
「首の事は先生には話してないんですよ、驚かそうと思って。」
にまーと笑うタンケイちゃん。
ささっと獣機に駆け寄ると布に手を掛けた。
ちょっと勿体つける。
「じゃあ、導師! ご覧ください。」
「ウチらが組み立てた獣機っす!」
さっと布を取る! 除幕式!!
「ほう、ええーっ!?」
「なんだこりゃあ!? 首が2本!!」
先生、驚愕!! いいリアクション! 最高!!
「おおおおおー!」
職人衆もタンケイちゃんもしてやったりの表情。
「さて、タンケイ、助手を頼む。」
「はいっす!」
タンケイちゃん、いい返事。
「おおー!」
「こういう感じのコネクタ…線を繋ぐ所があったはずですが…」
ミネルヴァ、マントの下でモゾモゾすると裾からケーブルを引っ張り出す。
え? どこから出てるの? それ。
マントの下で見えないんですけど。
「おおぉー?」
「あ、繋ぐとこならここっす。」
「おおー!」
「おまえら、うるさい!!」
先生がブチ切れた!
黙ってろ、職人衆。
「アイザック、持ち上げろ。」
タンケイちゃんの指示に従って2首獣機の一体を横倒にする。
下腹部、後ろ足の間当たりに特殊ネジ用のドライバーを当ててまわす。
小さなパネルが外れた。
カバーでふさがれたコネクタソケットと太目のケーブル。
ケーブルは動力用か? ロック機構つきの接続部は外されたまま。
「たぶん、このケーブルがメインの魔力変換炉につながってると思うんすよ。」
「動力を外したままで初期化できますか?」
どう? ミネルヴァ?
「こちらからのエネルギー供給でいけると思いますが…」
カバーを外しコネクタを差し込む…入らない?
「あれ? このコネクタでいいはずですが? あ、上下逆?」
コネクタをひっくり返してもう一度。
「あっれー? 入らない。変ですね?」
ハマらない? 念のため、も一度ひっくり返してみたら?
「あれれ? 入った! 最初の向きでよかった? ええ、何で?」
うん、そう言うもんなんだよ、ミネルヴァ。
横倒しした獣機の後ろ足股間に、もぐりこむような姿勢で作業するミネルヴァ。
しゃがみこんだり、四つんばいになったりする。
マントのすそからチラチラとボディが見える。
脚とかおしり部分とか。手を伸ばすと肩とか脇とか。
ベータ君はじめとして、メカフェチ属性のあるヒトにはなんとも目の毒。
「初期化を開始します。」




