魔改造するよ
マビキラがいなくなって、すっかり寂しくなった先生んち。
まてよ、その更に前には俺もいなかったんだよな…
先生? 大丈夫?
「ま、すぐ慣れるか…」
俺もいますし、ミネルヴァだって…
あれ? ミネルヴァ? そういえば今日は全然、声聞いてない?
いや、昨晩からだな。
キララが「精神攻撃」してきた時も何にも言わなかったし。
『どうしました』
いや、どうしました? は、こっちのセリフ。
『収集した情報の解析にリソースを使っていました』
ほほう、進行状況はどんな具合?
『獣機の通信、命令信号を解析完了』
おお、じゃあ、ヒトを襲うのを止められる?
『可能ですが、停止状態で有線接続の上、初期化、再起動が必要です。』
ああ、うーん。電波でぴぴっ! ってわけにはいかないか。
ぶっ壊さなくちゃ停止させられないし、壊しちゃったら再起動できないよなー。
なかなか、うまい話はないか。
「うん? なんだ?」
先生が俺の様子を見て何か感じたようだ。
そうだな、これからはなるべく声に出して会話しないと。
『そうでした』
じゃあ、ミネルヴァ起動。会話やり直し。
「ふーん、獣機を味方にか…」
先生が何か考え込んでいる。
「骸骨塔を手繰って、獣機の大元を探るとしても、何ヶ月かかるかわからん…」
「下手すると何年もかかるかも知れん。」
「その間、レガシの町の防衛が不安なんだ。」
「特に、イオニアのことを考えると、な。」
王都には刺客を送ってくるような奴がいるしな。
「ビクター氏がいるから大丈夫だとは思うが、守り手は増やしておきたい。」
「獣機が番犬に使えるんなら心強いんだがな……待てよ?」
「獣機がイヌっぽい形をしているのって…元々そういう用途だったんじゃないか?」
なるほど、確かに。デザインは機能の具現化だからな。
「今度、見つけたら壊さないように捕獲できるか?」
先生の問いかけだが、こればかりは何とも言えないな。
「さあ、どうでしょう? 状況次第では? 」
「そうだよなあ、こないだみたいにいきなり土の中から出てこられるとなあ…」
俺と獣機だけで対峙したんなら方法はあるかもしれないが、ヒトを守りながらってことになると無理っぽい。
その夜はおしっこ申告がなかったんでゆっくりできた。
ちょっと寂しかったけどね。
寂しかったのは夜だけでした。
次の日、
「センセー!」
「ドーシー!」
「先生、よろしくお願いします!」
「おはようございます、先生」
3人組、ベータ君。やってきました。
「よし、授業再開だな、しごくからな。」
先生がちょっぴりうれしそうに見えた。
さて、俺の方も通常業務。工房へ行っておやっさんの手伝いをしよう。
すっかり就職した感じになってるな、俺。
俺用マントの製作は順調。
すでに雀竜ウロコの穴あけ、研磨はすべて終了して、緒通しを始めていた、んだけど?
作業場へいってみると、全部糸が外されて再びバラバラ状態に。
「あれ、どうしたんですか?」
おやっさんとダット姐さんに尋ねる。
「これよ。」
と言って見せてくれたのが…ワイヤー?
こないだ2足歩行の兵機がワイヤー銃から打ち出してきたやつ。
胴体を縛ってくれた長いやつの他に、足首を縛られたやつがある。
足首の方はビームで切断しちゃったんで短くバラバラになった。
なんかの役に立つかと思って一応拾ってきたんだけど…
「短くなっとるが、ウロコを綴るのにちょうどいい長さなんでな。」
「これ使って綴り直そうってことにしたのよ。」
「このワイヤーの強度と、雀竜のウロコ。凄いもんになるぞ、こいつは。」
ダットさんも一緒に仕事する。
ワイヤーを使ってウロコをつないでいく。
独特の縛り方。
ワイヤー自体の強度を生かす結び目。
一本切れただけでバラバラになったんじゃ話しにならない。
必ず2重に、隣接するウロコを複雑な法則で綴っていく。
「これ。ここ、引っかかる。削って。」
「おし。」
ゴリゴリ。おやっさんと姐さん、職人同士の緊張感があるな。
出来ることがないんで周りをうろうろ。
ひと段落ついたところで。
「アイザックのマントは、順調だけど…」
ダット姐さんが小首をかしげる。
「こっちの小さいマントは誰が使うの?」
小さいマント?
机の上にたたんだマントが置いてある。
既製のマントから選んできたそうだ。
フード付き、ベージュっぽいかわいいやつ。
あ、このサイズ、ナビ君…ミネルヴァ用? おやっさんが頼んでくれたのか?
「いつまでも遺跡に閉じ込めとくわけにもいかんかなー、と思ってな。」
『コウベン工房長…ありがとうございます』
「ミネルヴァ、お礼言ってますよ。」
「おお? そうか。そういや、中にいるんだったな。」
ダット姐さん、ますます首をかしげてますな。
「ミネルヴァ?」
「昨日、旦那からも聞いたんだけど…どうもさっぱり意味がわからないんだけど。」
うん、正直俺もどうやって説明したらいいかわからない。
俺の中にいるナビ君が鳥メカのミネルヴァと意識共有して、そのミネルヴァが将機ボディを操作すると。
うん、わからない。
「要するに……カワイイの? その子。」
いろいろ、すっ飛ばしてきたな。
「可愛らしいですよ。とても。」
「わかったわ。今度会わせてね。」
行動原理がはっきりしている。姐さん。
『かわいい…ですか?』
うん、かわいい。中身がナビ君だと思うと余計にね。
『……』
雑用を手伝いながら世間話っぽい感じで獣機の事とか。
「獣機を番犬に?」
「そんなことできるの?」
「まあ、獣機を無傷で捕獲できればって話ですが。」
おやっさんが何とも言えない顔をする。
「修理したやつとかでもいいのか?」
「え?」
「いや、じつは……な。」
「おやっさーん! あ、アイザックさんも。」
おっと、タンケイちゃん。元気いっぱいだな。
「えへへ~、今いいすか?」
「どうした?」
「へへへ~、出来上がったんすよ。あれ。」
どれ?
「こっち、こっち!」
おやっさん、ダットさんと一緒にタンケイちゃんの後をついて中庭に。
職人衆が集まっている。
そこにあったのは…獣機!?
復元された、獣機が2体。
中庭の真ん中に並べてある。狛犬っぽいね、2体あると。
って、何これ! 魔改造?
首が2本ある!!
ケルベロスだ!! これ!
2本はオルトロス? そんなマイナーなのは知らん!
ケルベロスで行こう!
耳っぽく見えてたセンサーユニットは2本首の間に独立。
無理すれば3本首に見えなくもない。(無理)
獣機の頭は先っちょが3つに分かれて物を掴むことができる。
ヘッドアーム。
それが1体に付き2本!
「なんで首が2本?」
おやっさんも動揺。
「いや、部品が余ったんで…」
「もったいないし…かっこいいし…」
「もちょっと部品があればもう一体くらい組めるんですが…」
MOTTAINAI!の精神。それは「沼」。
パソコンの自作とか、メガミ○バイスとか。
「余った部品でもう1体組めるんじゃ…」
とか考え出すと
「やっぱり足りない部品がある」>「その部品のためにもう一箱買う」
>「それ以外の部品が余る」>「余った部品でもう一体組めるんじゃ…」
>無限ループ
ハマったら抜け出せないから、沼。
暴走職人衆! 危険!!
危険人物エルディー導師は町外れに隔離された。
火あぶりにされてもおかしく無いよな、と思ったけど。
されなかった理由。
だいたい、みんな、全員、危険人物だ、この町。
いちいち火あぶりにしてたら全滅。
「2本にしようってのはタンケイのアイデアですぜ。」
「うん、いいアイデアだ。」
「いやー、タンケイ、手先が器用だし手も早いし」
「この作業じゃ大活躍でしたぜ。」
先輩職人衆に褒められたタンケイちゃん。
照れ照れ。
「えへへ、ヒトの腕は2本だからヘッドアームも2本あれば便利だと思ったんすよ。」
できる女だな、タンケイちゃん。
そういえばペダル式マッサージチェアとか作ってたよね。
「センサーユニットも独立させて2本の首の間につけたっす。」
「攻撃中でもむやみに動かないから知覚は改善されてるはずっス。」
………
いやいや、何してくれてんの! タンケイちゃん。
敵メカ改良してどうすんの?
しかも、的確な改良!
獣機は脚を1本を失っても短時間で制御を最適化した。
首を増やしてもすぐ使い方を学習するんじゃないかな。
体を掴まれ、腕をひねり上げてちぎりとられる俺。
首を固定され、もう一方のヘッドアームでビームランプを砕かれる俺。
ケルベロスの攻撃に苦戦する姿がありありとイメージ出来ちゃうんですけど!
タンケイちゃんも、意外と危険人物。
そして、色が塗ってある。白。
獣機は地金が黒。
白い塗料、色温度の低い温かみのあるベージュがかった白。
日本人は青みがかった白を好むと言われている。
アナログ時代、日本のテレビ標準は色温度9300K青っぽい冷たい白だった。
欧米のテレビは6500K、黄色っぽい暖かみのある白。
この辺で擦り込まれたのが原因とも言われている。
また、高度成長期に色温度の低い白熱電球から、青っぽい蛍光灯へ急速に置き換わったことも関係があるのかもしれない。
獣機に塗られているのは5000Kくらいのオレンジ味のある白。陽だまり的な優しさ。
おかげで凶悪獣機の印象がだいぶ和らいでる。
可動部のない装甲板だけに塗られているので、関節部分は黒いまま。
ちょっと、パンダっぽい。
「変換炉っぽいとこからのチューブは外してあるんすけど…」
「動かしてみたいっすねー。」
職人衆、多いに盛り上がる。
「動いてるとこ見てえなあ。」
「ちょっとくらいならいいんじゃねえか?」
夢見るような目つき。
ちょ、おやっさん。何とか言ってやって!
…おやっさんも夢見るような目つき。
い、いかん。おやっさんも基本的には同類。
この場に先生がいたら危なかった。絶対賛成した。
「何言ってんだ!! このバカタレども!」
一喝! ダット姐さん。
「動かしたら、最初に殺されるのはお前らなんだからね!」
助かった。
「バカな事言ってないで、とっとと片付けな!!」
ほんとに助かった。
もう少しで俺も賛成側に回るとこだった。
うーん、ちょっとくらいならいいんじゃないかなあ?
おやっさんも正気にもどった。
「ばらした部品は仕分けして片付けるように。」
「こいつは…ワシが厳重に仕舞っとく。」
「獣機の組み立てはこれで終わり。あとは技術の応用だけ考えること!」
「解散! 仕事にもどれ!」
へーい、やれやれ、面白かったんだがなあ
とか言いながら職人衆、解散。
「タンケイ、お前はこいつの片付け手伝え。今日は残れ。」
おっと、タンケイちゃん、残業指示。
「ええー? はいいー。」
あっさり了解しちゃったな。慣れてるのか? 残業慣れ、ブラック工房。
社畜タンケイちゃんと今夜は残業。
おやっさんが耳打ち。
「試してみるか? ミネルヴァ。」




