Ⅴ誌 魅力
今日も今日とて、ヒロイン様の恋模様を見守る。
ああ、素晴らしき傍観なんて素敵なんでしょう?傍観。
しかし、この傍観も最近では危うい。何せ、麗香さんの奇襲と星冥様の待ち伏せ?により傍観が出来ていません。麗香さんは分かります、彼女は結構な甘えたさんな一面がありますから。一つ年下ですが、彼女には関係は無いみたいです、はい。ですが、星冥様はどうしてでしょう?先日会ったばかりのハズですが?しかも下の名前呼びを強要されました。
「さて、樹向さんはなにをしてるんでしょう?」
マル秘ノート、所謂私的ヒロインたちの恋模様を記したこのモブによる記録ノートを覗きこもうとしてきた星冥様に私は冷静に返すことにした。きっと、慌てれば付け込まれてしまいそうな予感がしたもので。
「こちらは、私の観察ノートですわ。日常で気付いたことを記していくのです」
主に、ヒロインの動向。
「そっか、読んでも?」
あら、そうきますか。ですが、そうはいきません!
「ダメです、私だけのノートですから」
微笑をプラス、ヒロイン並に可愛くはないがそこそこいけると思う私の顔。だってこの学園は、飛び抜けて美男美女が多いために埋もれがちだが、ほかの皆様も整った顔立ちをしています。さすが、乙女ゲームの世界です。
「残念ですね」
全くもって残念そうではないのは、なぜだ?
「……これ以上、だれも魅了しないでくださいね」
何かを呟かれたが、なにか分からなくて首を傾げた。「星冥様?」「なんでもないですよ」
私、ヒロインではないですよ。それは、ヒントを零した合図。キチンと聞き取らないと、ヒントは貰えない。
「………あ」ヒロインを見つけて、星冥様をチラリと見やる。よし、別を見ているらしい。用事思い出したかのように、ハッとした顔をして…
「星冥様、私用事がありますの。これにて失礼いたしますわ」「そっか、それは仕方ないですね。また、お会いしましょう」
あまり、会いたくないですよ。私は、干渉はしないと決めてますからね。あなたはサポキャラとして重要なキャラです、私とは違う。なによりも、美しすぎるあなたに目がつぶれそう…
そそくさと離れ、ベストポジョションを確保。どこからともなく取り出したノートを広げ、シャーペンを取り出す。「ふふ」これが、私の至福の一時です。
今日はバスケ部エースな王子様とのイベント中かぁ。ボールが飛んでった先にヒロインがいて慌ててボールを取る王子、ときめく一瞬!ああ、素敵ですねぇ。
私ならサッと避けたり屈んだりして回避しますが。
パチリ、やばいですね。目が合いました。ヒロインを置き去りに、王子様は歩いてくる。あら、自意識過剰でしたね。私に来てるわけないじゃないですか、と心で完結させてノートをとじた。サッと立ち上がりほくほく顔で離れようと踵をかえしたとき腕を掴まれた。何事?!
「君、……誰?」
見てたのが、バレたか。「ええと、」どうしたものか、思案を巡らせ回避策を検索。余計に分からなくなってきた。
「あら、紅さま。樹向さんに、なにかご用ですの?」ひょっこりと顔を出した麗香さんに助けられた。「樹向……」ぼけっとし始めた彼を置き去りに歩き出した私について来る麗香さん。
「私の樹向さんの魅力に飲まれたのかしら?」
私のって、私…麗香さんのものになったの?それより、魅力とか私にあるわけないじゃないですか。
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