第八十九話 山賊
「ふん!山賊とはまた古風だねえ。国が古いとこんな連中まで出てくるのかい」
カルラが、突如現れた山賊たちを睥睨して言った。
するとロデムルが、相変わらずのしかつめらしい顔つきで返答をした。
「いえ、さすがのローエングリンでも田舎のほうに行けば、山賊はいるかと……」
カルラは、そんなロデムルの真面目くさった返答に、鼻にビキビキとしわを幾筋も寄せて怒鳴った。
「なに真面目に答えてんだい!景気付けに言っただけだろうに!」
「……これは失礼をいたしました……」
カルラは、恐縮するロデムルに一瞥をくらわすと、改めて山賊に向き直って問いただした。
「ふん!……で、あたしらに何の用なんだい?」
すると山賊たちの中でひと際大柄な男が、リーダー然とした態度で一歩前に進み出た。
「……決まっているだろう?……金だよ、金」
「ふん!つまらない物言いだねえ……」
カルラはさも呆れたといった風情で言い放った。
「確かに。あまりにも常套句な物言いですな」
ロデムルも相変わらずのしかつめらしい顔つきでカルラに同調した。
「あたしゃやる気が失せたよ……だから……」
カルラはそこで一旦言葉を区切り、ちらと横目で後ろを見た。
「そこで隠れて弁当食おうとしているガイウス!……お前がやんな!」
ガイウスは突然の指名に、せっかく口に含んだ塩漬け肉のバケットサンドを思わず吹き出した。
「ぶっ!!……ぼ、ぼくですか?」
「そうだよ!なにあたしらに戦わせて自分だけ飯にありつこうとしてんだい!どう考えたって立場が逆だろう!こういう時は一番下っ端が戦うもんだ!」
「坊ちゃま。どうやら特訓の成果を見せる時が来ましたな。山賊相手となれば遠慮なく思う存分に戦えるというものでございます。このロデムル、坊ちゃまのご成長のほどをしっかりと見させていただきます」
「……ああ、そう……」
ガイウスはあきらめの表情で片頬をピクピクと引きつらせつつ、弁当を地面に置いてゆっくりと立ち上がった。
「……仕方ない……やるか……」
すると山賊のリーダーらしき男が痺れを切らして怒鳴り始めた。
「お前ら!なにさっきからごちゃごちゃ言ってんだ!とっとと金だせっつってんだろうが!聞こえねえのか!」
ガイウスは仕方なく、さもやる気なさそうに数歩前に出ると、一つため息を付いてから面倒くさそうに投げやりな口調で言った。
「えーとー、そういうわけでー、僕が相手しまーす」
すると山賊たちは一斉にどっと沸いた。
そして皆ひとしきり笑い終えた頃、リーダー格の男が言った。
「面白いこと言うじゃねえか小僧。思わず笑っちまったぜ……だが、戯言はこれまでだ。引っ込んでな」
するとガイウスはまた一つため息を付いた。
「……あのねえ、僕だって本当は面倒だからやりたくないんだよ……だけどもの凄く怖い人がやれって言うから仕方ないんだよ」
「……小僧何度も言わせるな。遊びじゃねえんだ。引っ込みな!」
「……あーもう、こいつと喋るのも面倒くさい。もうやっちゃっていいですかねえ?」
そう言ってガイウスは、後ろをちらと振り向いた。
するとカルラとロデムルは、二人仲良く塩漬け肉のバケットサンドをほおばっていた。
「ぶっ!……なに二人して弁当食ってんですか!?」
「お前さんだってさっき食おうとしてただろ?本来はこれがあるべき姿さ。あたしらは年長者なんだからね。さあ、ごちゃごちゃ言ってないでとっととこいつらを片付けな!」
「坊ちゃま。このロデムル、両の眼をしっかと開いて坊ちゃまのご成長のほどを見ておりますぞ」
「……あーそうですか……やりますよ……ええ、やりますとも…………やればいいんでしょ!」
ガイウスの中で何かがブチッと切れたような音がした。




