第八十一話 黙祷
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ロンバルドは今後のことも考え、腹心にして莫逆の友たるシェスターだけには全ての事情を説明することにした。
そのため森の奥で意識を失っているシェスターの元へと赴き、シェスター同様すぐそばで気絶しているロムスを起こさないように注意しながらそっと忍び足で近づいた。
すると後ろでその様子を眺めていたエルが、通常よりもわざと大きな声で言葉をかけた。
「お前さん、なにをそんな泥棒みたいなまねをしておるんじゃ?」
ロンバルドは飛び跳ねんばかりに驚き、バッと勢いよく後ろを振り返ってエルに小さな声ながら強い口調で注意した。
「静かに!この隣で寝ている男は敵なんですよ。起きたら面倒でしょ!」
するとエルは両前足を水平に広げ、やれやれといった顔をしながらまたも大きな声音で言った。
「あほう。このわしがいたずらにただ殴って気絶させたとでも思っておるのか?ちゃんと殴る際に眠りの魔法ムルミンを併用してきっちり眠らせておるわい。じゃ・か・ら、大きな声を出そうがこいつらはぐっすり寝たまんまじゃ」
「……なら始めからそう言って下さいよ……」
ロンバルドは愚痴をこぼしながらシェスターの傍らにひざまずき、上目遣いにエルを見ながら言った。
「それなら普通にシェスターを起こそうとしても無理ということですよね?」
「うむ。その通りじゃ。このわしが起こさなければ半日は起きんな」
「じゃあ早いところシェスターを起こしてくださいよ」
「うむ。いいじゃろう…………ってお前さん、わしの扱い少しぞんざいになってはおらんかの?」
「気のせいですよ」
「そうか?まあそれならいいがの……」
そう言うとエルは少々不満げながらも渋々魔法を繰り出し、シェスターを目覚めさせた。
「……ん……うーん……」
シェスターは眠りから覚めたばかりのためか、初めは意識が混濁していたが次第にはっきりと意識を取り戻し、ロンバルドの顔をしっかりと確認しながら言った。
「……審議官……ここは?……」
「エデン、いやルーグの森だ」
「……ああ、そうでしたね……はっ!ロムスは!?」
「横で寝ているよ」
ロンバルドはうつぶせに倒れたままのロムスを、あごで指し示しながら言った。
シェスターは言われたとおりに横を見て、傍らに倒れ伏すロムスを確認すると顔を曇らせいぶかしんだ。
「……一体なぜ……なにがあったというんだ……」
するとシェスターの後背からそれまで黙って見ていたエルが口を挟んだ。
「危ないところじゃったでな。わしが慌てて眠らせたのじゃ」
シェスターは今までに聞いたことのない声を聞き、その声の主を確かめんと後ろを振り返った。
そして目をこれ以上ないくらいに大きく見開いて驚いた。
「なっ!?く、くま!?」
「……わし、そんなに太っておるかのう……」
ロンバルドは顔をそむけ、必死に笑いをかみ殺すのだった。
2
「……というわけだシェスター」
ロンバルドはシェスターに事の経緯を説明した。
「……そうでしたか……それで結局亡くなったのは誰だったんですか?」
「……ああ、コリン君だったよ」
ロンバルドはシェスターを起こす前にこの戦い唯一の戦死者の元へ赴き、それが誰であるのかを既に確認していた。
「そうですか……確かに彼には可哀想なことをしましたが、ここは犠牲者が彼一人で済んで良かったというべきでしょうね。あのまま戦っていれば死者は確実に増えていたはずですからね」
ロンバルドはそれには答えなかった。
ただ代わりに沈痛な面持ちで静かに黙ってうなづくのみであった。
「審議官、我々に今出来ることは丁重に弔ってやることだけです」
「……ああそうだな」
シェスターはロンバルドを促し、コリンの亡骸の元へと向かった。
そして今はもう冷えた骸となってしまったコリンの左肩口から右脇腹にかけての大きな傷跡を目にして、シェスターはひどく感心した。
「袈裟懸けに一刀両断とは……見事なものですね」
「ああ。やはりアルスは腕が立つ。おそらくは即死だろう。苦しまずにすんだのは不幸中の幸いと言うべきか……」
「うむ。おぬしらの見立ては正しいぞ。この坊主即死じゃったわい。じゃから手当てもできなんだ。苦しまずにすんだことはこのわしが保障するぞい」
「……はい……」
ロンバルドはそれだけ言うと静かに目を閉じ、黙祷を捧げた。
シェスターもロンバルドに倣い黙祷を始めると、エルは居心地悪そうな顔を一瞬だけ見せた後、同じように見よう見まねで目を閉じ、わずかに頭を垂れた。
森に幾許かの静寂の時が戻った。




