第二百二十七話 彫刻
「階段を昇ってはいかんのか?」
エルは小首をかしげてガイウスに問うた。
「エル、三年一組は三階にあるんだ。そして校舎は……三階建てなんだよ」
「……つまりその上は……屋上しかないということか」
「そう、犯人は遺体を背負いながら階段を忍び足で駆け上がり、音を立てないように慎重にかんぬき式の鍵を開け、ついに屋上へと逃げ込んだのさ」
「ふむ。だがそれがなぜ判断ミスだったというのじゃ?」
「そうか、エルには守衛さんとの会話の内容について話してなかったっけ」
「うむ。聞いておらんな」
ガイウスは肩をすくめてばつが悪そうに謝った。
「ごめん、ごめん。それじゃあ事件の真相がわかるわけないよね」
「まあそれはよいとして、守衛はその後どうしたのじゃ?」
「うん。守衛さんは各教室をランタンで照らしながら異常がないか点検し、三年一組も確認すると階段へと向かい……階段を昇ったのさ」
「うむ。それで?」
「守衛さんはドアをランタンで照らした。するとかんぬき式の鍵が開いていたんだよ。普段なら閉まっているはずの鍵がね。だから守衛さんは異常を感じてドアを開けた」
「そこで犯人と出くわしたのか!?」
「いや、守衛さんはランタンをかざして屋上の縁の部分を照らしてみたんだ。なぜなら守衛さんの頭にあったのは、もしかすると自殺志願者が屋上に侵入したのかも……と思っていたからなんだよ」
「なるほど、自殺志願者が屋上へ侵入したのならばやることは一つ、屋上の縁から地面へ向かって飛び降りることだけじゃからな」
「そう。だから守衛さんは屋上の縁だけを重点的に照らしたんだよ」
「そうか!出入り口脇に犯人は潜んでいたって事か?」
「うん。恐らくは遺体を背負っていた背負子の影に隠れていたんだと思う」
「それでも見つからなかったのか?」
「恐らく遺体には黒い布かなんかを被せていたんだろうね。それなら闇にまぎれて見えなくても仕方がないと思う」
「なるほどな。犯人は縮こまって遺体の影に隠れていたって訳か……」
「そう。そして異常がないと判断した守衛さんは、屋上から去った……」
「うむ。犯人は難を逃れたわけじゃな?」
「いや、難を逃れてなんかいないよ。だって犯人は屋上に閉じ込められたんだからね」
「そうか!守衛は屋上を出る際、ドアに鍵をかけたのか!」
「その通りだよエル。犯人は屋上で遺体と共に一夜を過ごしたのさ」
「むう。そういうことだったか」
「ああ、そして朝になって屋上を清掃する係りの先生がドアを開けた際、隙を見て後ろから話しかけたんじゃないかな?」
「話しかけた?なぜじゃ?逃げればいいではないか」
「朝になったら遺体は動かせないだろう?なぜこんな早くに……っておどろくほど朝早くに登校する生徒ってのがいるんだからね」
「では話しかけてどうするのだ?」
ガイウスは一瞬天を見上げ、想像力を働かせた。
「こんな感じで言ったんじゃないかな?『あそこに或る黒い布で覆われた物は、わたしの製作した彫刻です。触らないようにお願いします』とね」




