第十二話 男たちの正体
「ちいっ!」
ユリアの元へと必死に駆け寄るガイウスの目に、もう一人の護衛が四人の黒ずくめの男たちによって倒される姿が飛び込んできた。
そのためガイウスは魔法の有効射程外にもかかわらず、仕方なしにその場に立ち止まり、両手を前へと勢いよく突き出した。
「届いてくれよ!アクア!」
言うやガイウスの両手から凄まじい勢いの水流が吹き出した。
それは前回暴漢を倒した時のような指先から出る細長い水流ではなく、大きなプールを満たすために巨大な排水口から吹き出す時のような、爆発的に大量で高圧の水流であった。
(これなら届くはずだ)
ガイウスは凄まじい勢いの水流を吹き出しているため、その反動で後ろに倒れそうになるのを必死に両足でしっかと大地を踏みしめて耐えつつ、水流の行方を願いをこめて見守った。
(当たれー!)
すると、ガイウスの心の叫びが天に通じたのか、水流は四人の敵の内もっとも手前にいた者を見事に直撃した。
「よしっ!」
ガイウスは一旦魔法を解除し、再び敵に近づくために脱兎のごとく駆け出した。
だがその途中で敵のある異変に気付いた。
というよりも、敵の様子に変化がないことに気が付いたのだった。
それはガイウスにとってはとても信じられない光景であった。
なぜならガイウスの放った魔法は確実に敵に当たったことを先ほどはっきりと確認していた。
それにもかかわらず様子に変化がないとはどういうことか。
(……まさか、あれが効いていないのか!?)
ガイウスは焦燥の色を顔に滲ませながら必死に短い足をフル回転させ、敵の一群に向かってさらに駆け寄っていった。
(……だめだ!やっぱりまったく効いていない!……どうやらこの前の奴らとはレベルが違うようだな)
そうこうする内に、ようやくガイウスは有効射程圏内に入った。
(今度のはさっきとは違うぞ)
ガイウスは内心で闘志を高めつつ、ゆっくりと走る速度を落としていった。
そしてついに立ち止まり、四人の男たちと近距離で対峙することとなった。
「なるほどね。この前の奴らとはだいぶ雰囲気違うね」
そんなガイウスの言葉に、先ほど先頭でガイウスの魔法を受け止めたと思われる小太りな男が応じた。
「……ふん。話には聞いていたが本当に随分と小さい子供なんだな」
「まあね。それよりあんたたち何者?どうやら只者じゃあなさそうだけど?」
「さて……何者だと思うかね?」
「ダロス王国内のどっかの貴族の回し者……ってところかな?」
ガイウスがそう言い放った途端、黒ずくめの男たちに明らかな動揺の色が見えた。
ガイウスはその様子を見て取ると満足げな表情を浮かべた。
そして四人の男たちを下から睥睨しつつ、さらに言葉を連ねた。
「前の連中は単に雇われただけのチンピラだったのだろうけど、あんたたちは違うね。その貴族に仕えるれっきとした武官ってところだろ?」
男たちはさらなる動揺を一瞬垣間見せたものの、次の瞬間には皆一斉に顔の表情をスッと見事に消し去った。
ガイウスはその様子も油断なく見て取り、彼らの力量を推し量った。
(……やるね。こいつら相当訓練積んでるな……たぶん……って言うかなんで俺そんなことが判るんだ?……もしかして俺って前世では自衛隊にでもいたのか?それとも警察?もしくは内閣情報調査室?)
ガイウスは自らの断片的な前世の記憶を辿ろうとしたが、今はそのような場合でないことを思い出して止めた。
そしてガイウスは、再度男たちを睥睨してから言った。
「……つまり、あんたらを倒して口を割らせれば、黒幕の正体が判るってわけだ」
「……貴様、一体何者だ?」
するとガイウスは不敵な笑みを浮かべた。
そして相手をちょっと小馬鹿にするかのように両手を大きく横に広げて肩をすぼめ、小首を横にちょっとかしげて言った。
「さて……何者だと思うかね?」
 




