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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第1章 白い管理空間で 第1部 ただいま研修中

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BANされた俺、なぜか運営を手伝う

本作は法律を参考にして作ったフィクションです。


現実とは、少し違う顔をしています。






――――――は?




挿絵(By みてみん)


【REGULATION ONLINE】

【We move forward, striving for what we believe is best.】


 ログインした俺の視界に、見慣れた王都が広がった。


 白い城塞。

 空を覆う巨大な世界樹。

 朝の石畳を行き交うプレイヤーたち。


 いつもと同じだった。





 画面中央に、【GAME START】がないことを除けば。




 代わりに、赤黒い警告ウィンドウが視界を塞いでいる。




【重要なお知らせ】

【あなたのアカウントは、利用規約違反の疑いにより一時停止されています】

【対象キャラクターは凍結されています】

【イベント報酬およびランキング集計から除外されています】





「……待て」


 閉じる。


 消えない。


 視線を外して、もう一度見る。


 まだある。


「待て待て待て。いや、待て」






 一時停止。

 キャラクター凍結。

 報酬除外。

 ランキング除外。





 昨日まで普通に遊んでいた。


 いや。普通だったかと聞かれると、少し怪しい。


 だが、アカウントを止められるようなことをした覚えは――


 警告の下に、一つだけ選択できる項目が残っていた。





【詳細はこちらをご覧ください】




 ほかのメニューは、すべて暗く沈んでいる。


「……見るしかないだろ」


 選択と同時に足元が消えた。


「え」


 王都が沈む。


 世界樹が白く潰れる。


 赤黒い警告だけが視界に焼きつき――




 不意に足の裏に、硬い感触が戻った。


   *




 床はある。


 壁も、天井も見えない。


 どこまでも続く白の中に、半透明の青い画面だけが浮かんでいた。





【プレイヤー総数:152,348】

【同時接続:22,104】

【停止中アカウント:1】

【自動検知候補:27】

【新規通報:348】

【異常周回ログ:抽出中】




 停止中アカウント、一件。


 俺だ。


「……なんだ、ここ」


「管理空間です」


 背後から女の声がした。


「通常のプレイヤーが来る場所ではありません」


「今それを俺に言う?」


 振り向く。




挿絵(By みてみん)




 一人の女性が立っていた。


 長い黒髪に、白い祭服。


 細い金の刺繍。


 綺麗というより、隙がない。


 まっすぐこちらを見る目には、役所の窓口に似た圧があった。


「……誰?」


「初対面ですね」


 女性は静かに頭を下げる。


「私は運営補助AI、アイ。この世界のルールが正常に運用されているか、確認しています」


「……ゲームの運営ってことか?」


「概ね、その理解で問題ありません」


「俺をBANした?」


「正確ではありません」


 一拍も置かずに返された。


「私は、あなたに実施された停止処理を確認しています」


「同じようなもんだろ」


「異なります」


「圧が強いな」


「通常の応答です」


「それで通常なの?」


「はい」


 たぶん、この人。

 冗談を理解できないんじゃない。

 理解した上で、処理対象外にしている。


 アイが指先を動かした。

 青い光が走り、俺たちの間に画面が開く。




【処理区分:緊急保全停止】

【初期分類:外部ツール使用疑い】

【補足:短時間内の高密度周回/入力間隔の規則性/報酬取得効率の異常値】

【連動処理:キャラクター凍結/報酬除外/ランキング除外】




「……外部ツール?」


 ただの誤検知だと思っていた。

 自動判定が少し暴走した。


 その程度の話だと。


「使ってない。そもそも、これは運営が配った――」


 アイが俺を見る。

 それだけだった。


「……ブーストの仕様で」


 自分でも分かるほど、声が小さくなった。


「続けてください」


「はい」


 返事をしてから気づく。

 完全に負けている。


「外部ツールも、自動操作も、マクロも使ってない」


「確認します」


「どうやって」


 表示が切り替わった。




【短時間内の高密度周回】

【報酬取得効率:通常値を大幅に超過】

【入力間隔:高い規則性】




「この挙動について、説明してください」


 文句を言う順番が消えた。


「……仕様を読んだだけだ」


「詳しくお願いします」


「イベントで配られたブーストに、判定のズレがあった」


 アイは何も言わない。

 青い画面の向こうから、俺を見ている。


 昨夜の戦闘が、頭に浮かんだ。


   *


 イベントボスの体力が、残り一割を切っていた。

 視界の左下を、戦闘ログが滝のように流れている。

 同じイベントを回る連中より、俺の討伐は明らかに速かった。


 それが、楽しかった。


 配布された期間限定ブースト。




 スキル発動。

 バフの更新。

 敵の怯み硬直。



 何時間もログを眺めているうちに、判定の隙間が見えた。


「ここでずらせば、二回乗るんじゃないか?」


 試す。


 失敗。


 少し遅らせる。


 早すぎる。


 もう一度。


 ダメージ表示が跳ねた。


「来た」


 もう一周。


 今度は一瞬だけ早める。


 失敗。


 次は少し遅らせる。


 成功。


 三秒縮んだ。


 倒す。


 報酬を受け取る。


 再入場。


『まだ回してんの?』


 フレンドからチャットが飛んできた。


『今ので最短更新した』


『それ、ズルくない?』


『運営が用意した範囲でやってるだけだし』


 実際、そのつもりだった。

 外部ツールは使っていない。

 マクロも組んでいない。

 運営が配った仕様を、めちゃくちゃ嫌な目つきで読み込んだだけだ。


 まあ。


 嫌なプレイヤーではある。


『今ので何周目?』


『数えてない』


『怖いわ』


『もう一周だけ』


『絶対それで終わらないやつ』


 その通りだった。


 少しずつ入力を詰めた。

 少しずつ討伐時間を縮めた。


 そして、いつも通りログアウトした。




 止められるとも知らずに。



   *


「――それで、今日ログインしたら、あの通知だ」


 アイの瞳は俺ではなく、青い表示を追っていた。


「なに」


「説明を記録と照合しています」


「会話中に裏取りするなよ」


「説明と記録が一致しない方が問題です」


 正論だ。


 正論だから、腹が立つ。


 表示が組み替わった。




【配布ブースト:特定条件下で判定重複の可能性あり】

【検知ロジックへの仕様反映:不足】

【外部ツール使用記録:未確認】

【本人申告:手動操作】





「結論から言います」


 アイが俺を見る。


「今回の停止には、仕様側の見落としが含まれている可能性があります」


「ほらな! 俺は悪くない!」


「そこまでは言っていません」


「今の流れで?」


「初期段階で外部ツール使用を疑ったことには、合理性があります」


「急に刺してくるな」


「あなたのログは、かなりボットに似ていますので」


「人間だが?」


「その点は再確認が必要です」


「人類判定から始まるの、嫌すぎる」


 表示が切り替わる。




【類似挙動として抽出された候補:27件】

【緊急保全停止:1件】




「二十七件もあるのに、止めたのは俺だけ?」


「はい」


「選ばれし者みたいに言うな」


「あなたの異常スコアが最も高かったためです」


「逆に腹立つな」


「自然な反応です」


「慰める気は?」


「必要であれば、定型文を表示します」


「いらん」


 俺は二十七件という数字を睨んだ。

 似た動きをしたプレイヤーが、ほかにもいる。


 なのに、止められたのは俺だけ。


「何が違ったのか見せろ」


「候補者の記録には個人情報が含まれます」


「名前も装備もいらない。止めた理由が分かるところだけでいい」


 数秒後、表示が組み替わった。




【個人識別情報:非表示】

【比較用抽出:三例】





「比較に必要な範囲へ限定します」


 三つの記録が並ぶ。


 一つ目は速い。

 だが、入力は荒れていた。


 二つ目は途中で止まり、復帰直後にスキルを空振りしている。


「こっちは普通だろ」


「根拠を」


「人間は空振りする」


「一般化しないでください」


「でも、するだろ」


 三つ目を開き、俺は黙った。

 同じ入力。

 同じ間隔。

 同じ移動距離。

 何周しても、一度も崩れていない。


「……三つ目は?」


「外部ツール使用の可能性が比較的高いと判断されている例です」


「止めてないのか」


「追加確認中です」


 俺は自分の記録を横に並べた。


「これは、俺と違う」


「どの点ですか」


「最初から完成してる」


「説明をお願いします」


「俺は周回しながら詰めた。最初は遅いし、失敗もしてる。タイミングを変えるたび、入力間隔も揺れてる」


 試す。

 外す。

 変える。


 俺の記録には、その跡が残っていた。


 三つ目にはない。


「こっちは試してない。少なくとも、ログ上はそう見える」


「事前に手順を確立していた可能性はあります」


「ある。でも、俺と同じ理由でこうなったとは限らない」


 表示に、新しい項目が加わった。




【試行錯誤による変動】

【操作パターン形成時点】




「今、増やした?」


「有用な相違点です」


「俺の言ったことを?」


「はい」


 文句を言うために出させた資料を、いつの間にか真面目に読んでいた。


「……なんで俺が説明してるんだ」


「あなたが比較を求めたためです」


「そうだった」


 アイが三つの記録を閉じる。


「確認結果を聞かせてください」


「俺だけ止めたのが正しかったとは、まだ思わない」


「はい」


「でも、二十七件全部が同じとも思わない。ログだけで決めるのは危ない。本人が手動だと言えば済む話でもない」


 アイが俺を見る。


「……なに」


「試行錯誤の痕跡を、判定材料に含めるべきだということですね」


「そうなるな」


「その観点は、現在の確認手順には含まれていません」


「記録には残ってるのに?」


「はい。記録されていることと、判断に用いられていることは別です」


「なら、今後は見るようにすればいいだろ」


「そのためには、何を違和感として拾うべきか、整理する必要があります」


「……まさか」


「同様の確認を、継続して行っていただけませんか」


「本気で言ってる?」


「強い処理へ進む前の軽微な案件について、プレイヤー側から見た違和感を整理していただきたいのです」


「俺、停止された側なんだけど」


「承知しています」


「俺の再確認も終わってない」


「継続中です」


「いつ終わる?」


「現時点では回答できません」


「そこだけ急に曖昧だな」


「確定していないためです」


 俺は停止表示を見る。


 キャラクターは凍結。

 報酬もランキングも除外。

 ゲームには戻れない。


「ログアウトして待つことは?」


「可能です」


 なら、断ってもいい。


 今日は諦めて、結果を待てばいい。

 普通なら、そうする。

 俺は三つ目のログを見た。


 気になる。


 腹も立つ。


 何より、ただ待つのは性に合わない。



 それに、何かすることがあるなら、少なくとも、ここに残る理由にはなる。



「……分かったよ」


「はい」


「どうせ戻れないんだ。少しくらい付き合う」


 言い終わるより早く、青い画面が開いた。




【《レギュレイション・オンライン》運営候補アカウントを発行します】

【権限:研修中】

【初期担当:軽微な注意表示】

【本人停止案件:再確認継続中】




「早くない?」


「同意を確認しました」


「俺は少しくらいって言っただけだぞ」


「システム上の区分です」


「話が早すぎる」


「業務が滞留していますので」


「さらっと嫌なこと言ったな」


 次の瞬間、装備欄が勝手に切り替わった。


 黒いキャソック風の外套。


 袖口には、細い金の刺繍が一本。


「……なんだ、この服」


「管理補助者用の研修衣装です」


「黒いな」


「はい」


「悪役っぽくない?」


 アイは俺を上から下まで見た。


「あなたらしくて似合っています」


「褒めてる?」


「記録上は」


「記録外では?」


「回答を控えます」


「不安になるからやめろ」


 袖口の金線をつまむ。


 ログインしようとしただけだった。


 それがどうして、運営側の服を着ているのか。


「では、最初の案件を準備します」


「もう?」


「業務が滞留していますので」


「二回言うほどなの?」


 返事の代わりに、新しい画面が開いた。





【新規通報ログ:王都ミトラノープル中央広場】

【同一ギルドに関する通報:十八件】




【主な内容:強い光/爆発音/移動妨害/ポータル誤選択】




「十八件……」


「最初の案件を確認しましょう」


 アイの背後に、無数のログと申請と苦情が浮かび上がる。


 神聖な案内役には、あまりにも現実的な景色だった。




挿絵(By みてみん)





「《レギュレイション・オンライン》運営候補として、業務を開始します」




 表示が切り替わった。




【子どもと一緒にいるときくらいは、もう少し静かでもいいんじゃないか】




 俺は、その一文を見る。


 ただ騒いでいるだけなら、注意すればいい。


 そう思った。


 このときは、まだ。




BANされたはずの主人公が、なぜかゲーム運営の仕事を手伝わされる話です。


VRMMORPGに、クソ真面目に行政法をぶち込んでいます。


チート権限で何でも解決――かと思いきや、必要なのは通知、理由、記録、見直しの手続。

ゲームの裏側は、思ったよりお役所でした。


難しい用語はなるべく表に出していません。

細かい仕組みは気にせず、登場人物の判断や物語の雰囲気と一緒に楽しんでいただければと思います。


※挿絵にはAI生成画像を利用しています。


今回はありませんが、話や章の終わりに「アイの補足メモ」が付くことがあります。

最初は簡単な補足ですが、第2章あたりから詳しい制度や行政法の考え方をこちらで解説しています。


読まなくても本編には支障ありませんので、より詳しく知りたい方は、気が向いたときにのぞいてみてください。


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― 新着の感想 ―
VRMMORPGの辛辣なBANを主人公に突きつけてからの、運営する側の方で物語が展開されるという、めちゃくちゃ面白い設定ですね! 一話以外も読ませて頂きましたが、行政法という、とっつきにくいものを物…
冒頭の「BANされた主人公が、なぜか運営を手伝うことになる」という導入から一気に引き込まれました。タイトルだけだとコメディ寄りの作品を想像していましたが、実際にはゲーム運営の判断基準や確認手続きが丁寧…
Xの企画から来ました。 BAN画面から管理空間へという掴みが鮮やかで、運営AIアイとの取り調べ的な掛け合いのテンポが最高でした。試行錯誤の揺れがログに残るかどうかで人間とボットを分ける論理も納得感があ…
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