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夏サバイバル  ヒーロー最後の7日間  作者: 双鶴


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7/9

Day 6

午前9時。控室の空気は、重かった。

直哉は、着ぐるみの頭部を抱えたまま、動けずにいた。

腰は、もはや“痛み”ではなく“警告”を発している。

首は、少し動かすだけで吐き気を催す。

昨日の達成感は、今朝にはもう消えていた。


「あと2回」

そう言い聞かせても、体は動かない。

麦茶のペットボトルを持つ手が震える。

「今日、倒れるかもしれない」

そんな予感が、頭をよぎる。


---


控室のドアがノックされる。

スタッフが顔をのぞかせた。

「…今日、あの子が来てます。毎日来てる女の子」

直哉は、ゆっくりと顔を上げた。

「“ヒーロー、今日も来てくれるかな”って、朝からずっと言ってて…」


その言葉が、胸に刺さった。

“俺が出なきゃ、あの子は待ちぼうけだ”

それだけで、直哉は立ち上がった。

痛みは変わらない。

でも、心の奥に火が灯った。


---


ステージ。

気温38度。風はない。

着ぐるみの中は、開始3分で限界を超える。

視界は曇り、呼吸は浅く、足元がふらつく。

それでも、直哉は立っていた。


悪役との戦闘。

動きは鈍い。

ジャンプはできない。

だが、ポーズは決めた。

拳を高く掲げ、胸元に当てる。

“俺は、ここにいる”

その意志だけが、体を支えていた。


---


ファンサービス。

あの女の子が、母親と一緒にやってきた。

「ヒーロー、今日も来てくれてありがとう」

直哉は、膝をつき、手を差し出す。

女の子は、そっと手を握りながら言った。

「ヒーロー、ちょっと元気ないけど…でも、ちゃんと来てくれたから、うれしい」


母親が、静かに頭を下げた。

「この子、毎日ヒーローの話ばかりで…本当に、ありがとうございます」

直哉は、着ぐるみの中で目を閉じた。

汗が流れ、痛みが走る。

でも、心は少しだけ軽くなった。


---


その後、別の男の子が駆け寄ってきた。

「ヒーロー、明日も来るよね?」

直哉は、拳を高く掲げて応えた。

“約束だ”というポーズ。


---


閉園時間。

最後の子どもが手を振る。

直哉は、笑顔のポーズで応える。

痛みは限界。

でも、心は折れていなかった。


控室に戻り、着ぐるみを脱ぐ。

汗が床に滴り落ちる。

田所さんが、黙って缶コーヒーを差し出す。

直哉は、それを受け取りながら呟いた。

「明日で、終わるんですね」

「そう。最後の変身だ」

「…ちゃんと、立てるかな」

「立てるさ。だって、お前はヒーローだろ?」


---


この日、直哉は“支えられるヒーロー”を知った。

ヒーローは、誰かを守る存在であると同時に、

誰かに“信じられる”ことで、立ち続けられる存在でもあるのだ。


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