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夏サバイバル  ヒーロー最後の7日間  作者: 双鶴


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2/9

Day 1

午前9時45分。控室のエアコンは、すでに戦力外だった。

直哉は、着ぐるみの胴体部を持ち上げながら、無言で汗をぬぐった。

「これ、マジで人が着るもんなのか…?」

演劇部で何度も舞台に立った彼でも、目の前の“ヒーローの鎧”には怯んだ。


スタッフが声をかける。「直哉さん、あと15分で出番です。水分、今のうちに」

ペットボトルの麦茶を一口飲む。ぬるい。けれど、喉には染みた。

着ぐるみの脚部を履き、胴体を被る。すでに視界は狭く、空気が重い。

最後に頭部を装着すると、世界は一気に“密室”になった。


呼吸が浅くなる。

汗が首筋を伝い、背中に溜まる。

視界は、直径5センチほどのメッシュ越し。

音はくぐもり、外の声が遠くなる。


「ヒーロー、出番です!」

スタッフの声に背中を押され、直哉はステージへと歩き出す。

その一歩が、7日間の戦いの始まりだった。


---


ステージに立つと、太陽が容赦なく照りつけた。

気温は34度。アスファルトの照り返しで、体感は40度を超えている。

着ぐるみの中は、すでにサウナ状態。

「ヒーロー登場!」というアナウンスに合わせて、直哉はポーズを決める。


右手を高く掲げ、左足を踏み出す。

だが、視界が狭く、バランスを崩しかける。

膝に重みがのしかかり、腰が軋む。

「うっ…」

声を漏らしそうになるが、ヒーローは喋らない。

代わりに、力強く拳を握った。


悪役が登場し、戦闘シーンが始まる。

演劇部で鍛えた動きが、体に染みついている。

だが、着ぐるみの重さがそれを邪魔する。

ジャンプの着地で膝が悲鳴を上げる。

回転の途中で、首が引っ張られる。

「これ…7日間もつのか…?」


---


ショーが終わると、ファンサービスが始まる。

子どもたちが駆け寄ってくる。

「ヒーロー!写真撮って!」

「握手して!」

「抱っこして!」

直哉は、笑顔のポーズを崩さず応える。

だが、腰は限界に近い。

汗は止まらず、視界は曇る。


一人の女の子が、直哉の前で泣き出した。

「こわい…ヒーロー、こわい…」

直哉は、そっと膝をつき、優しいポーズをとる。

「大丈夫だよ」と言いたいが、声は出せない。

代わりに、ゆっくりと手を差し出す。

女の子は、しばらく見つめた後、そっと手を握った。


---


閉園時間。

控室までの道のりが、遠く感じる。

着ぐるみを脱ぐことは許されない。

最後の子どもが手を振るまで、ヒーローはヒーローでいなければならない。


直哉は、最後の力を振り絞って手を振った。

その瞬間、腰に電流のような痛みが走った。

「…っ!」

だが、顔は笑っている。

誰にも見えないその顔は、汗でぐしゃぐしゃだった。


---


控室に戻り、着ぐるみを脱いだ瞬間、汗が床に滴り落ちた。

直哉は、無言で天井を見上げた。

「あと6日…か」

その声は、誰にも聞こえなかった。


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