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プロローグ
就活が終わった。
内定も決まった。
あとは、夏休みを消化するだけ――そう思っていた。
「臨時でヒーローやってくれる人、いない?」
演劇部の後輩から届いた一本のLINE。
遊園地のヒーローショーで、着ぐるみ俳優が熱中症で離脱したらしい。
期間は残り7日間。
直哉は、軽い気持ちで「いいよ」と返事をした。
演劇部で主役を張っていた自分なら、子ども向けのヒーローくらい余裕だろう。
そう思っていた。
だが、初めて控室で“あの着ぐるみ”を見た瞬間、直哉は言葉を失った。
分厚い胴体。
視界ゼロのヘルメット。
汗を吸った布地から漂う、独特の匂い。
そして、容赦ない太陽が、窓の外で笑っていた。
「ヒーローって、こんなに汗臭いんだな」
直哉は、誰にも聞こえないように呟いた。
その瞬間から、彼の“最後の7日間”が始まった。
悪役よりも過酷な敵――それは、真夏の太陽と、誰にも見えない重圧だった。




