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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
異世界吸血鬼は世界欺く初恋少女を紡ぎたい。

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第39話 これまでも、これからも


 優しい日差し、夏だというのに刺す事のないこの世界独特の気候が俺を呼び覚ました。


 うっすらと開けた視界には大勢の影が映る。


「…………先……輩……」


 僅かに開けた口からさっきまで一緒に居た彼女を呼んでしまう。


 そして、それに俺を囲うように集まった皆が気付く。


「ユウ!?気付いたのか!?」

「ユー君……!!」

「……夕!!」


 誰だ……レオン、レインさん……兄貴……?


 段々と朦朧としていた意識が戻ってくる。


 エキナは……ルークはどこだ!?


「エキナ、ルーク──いてぇ!!」


 俺が飛び起きると、腹部に誰かがガバァっと抱き付いてきた。


 そいつは指通りの良いグレーの髪で、いつだって俺を救ってくれる愛しい女の子と同じ感触だった。


「……ユウ君……遅いです……私、私っ……!!」

「……悪かった。ちょっと大事な人と会ってたんだ」

「へぇ……こんなに心配させて開口一番、堂々浮気宣言されるとは思ってまでんでした……」

「エ……エキナさん?誤解……とも言えんのか。まぁその何だ、心配掛けて悪かった」

「……不安……だったんですから……」


 俺の胸に顔を沈めて離れないエキナに、俺は聞きたいのに聞きたくない、ルークの事を訊ねた。


「……ごめん。それでルークは……?」


 俺が目覚めたのに飛び付いて来たのがエキナだけだった……

 それだけで俺は嫌な予感がしていた。


 エキナは俺の問い掛けにすぐには答えてくれなかった。


「……」

「……エキナ……どんな答えでも良い。教えてくれ」

「……ルーク……は……」


 エキナは俺に顔を見せずただ俺の右側にある、風情のあるレンガの家を指差した。


 あそこは……セフィラの家か。


「あそこにルークが居るのか」


 エキナはただ黙って、こくんと頷いた。

 

 俺は立ち上がる時に右手をついた。

 ちらりと、つい確認をしてしまう。


「……そうか。エキナ、一緒に来てくれるか?一人じゃ……たぶん受け入れられない」

「……はい」


 俺の右手の甲からは契約の紋章が消えていた。


 ……これ以上は言わなくても分かるよな。


 俺はエキナに支えて貰いながら、皆に礼を言った後セフィラの家の中へ向かった。


 ルーク、今行くよ──


「……ユウ君、覚悟は良いですか?」

「……あぁ」


 エキナはふらつく俺の体をしっかり抱き締めながら、家のドアを開けた。


 すると──


「がぶりっ」

「えっ……!?」


 急に飛び付いてきたと思ったら、首筋に熱を感じる。

 今、俺の首筋には彼女の歯が深く沈み大量の血を流している。


 彼女──色素の抜けた薄紫の髪を靡かせた美少女の。


 体制を崩した俺達はそのまま床に倒れ込む。


「んーー……やっぱユウの血はサイコーだネ!!」

「……ルーク……!」

「ひゃぁ!?」


 俺はちゅぱっ、と音を立てて首筋から離れたルークの体を思い切り抱き締めた。


「……もう……どこにも行かないでくれ……!!俺を置いて無茶しないでくれ……!!」

「……ごめんネ」

「……良かった……ルーク、ルーク……!!」

「ヒヒ、生きる時も死ぬ時も一緒……でしょ?」

「……あぁ!!」


 俺はずっとこんな気持ちを2人にさせていたんだと深く反省したよ。


 ルークの行動を見越してドアを開けた瞬間

離れていたエキナが、そっと俺達2人の背中を両手で包んだ。


「ユウ君、ルーク……本当に良かった……!!」

「エキナ……人が悪いぞ、あんな……」


 まるでルークが死んだかのように振る舞って。

 

「ふふっ、許して下さい。ルークからのお願いだったんです」

「お前らグルだったのか。ったく……」

「あたし達の気持ちがちょっとは分かった?」

「……痛い程にな」


 あれ、でも紋章が消えていたのも事実だぞ?

 どういうことだ?


「なぁルーク、お前との紋章がないんだけどなんで……?」

「ん?あーそれシール」

「えっ!?」


 俺は右手をよく見てみたけど、何かが貼られてるのかは分からなかった。


「魔力で作ったシールだから今日1日は消えないヨ。あたしお手製のやつだしそうそう気付けないヨ!」

「手の込んだ事しやがって……」


 ちょっとこのイタズラ度が過ぎてない?


 まぁ……いつも迷惑を掛けてきたんだ。

 これくらい甘んじて受け入れようじゃないか。


 だけど──


「俺だって2人がドッキリしてくるなら、サプライズをしてやる!」

『え!?』

「おりゃ!!」


 俺は2人を押し倒し、それぞれの顔の横に手をついた。


 ルークとエキナを見下ろしながら、俺は涙を流しながら笑った。


「俺と、結婚して下さい」


 たぶん、最高にだっせー顔をしてる。


 でも良いんだ。

 もう散々2人には情けない所を見せてきたからな。


 ヘタレて何も出来ないで居るよりマシだろ?


 2人は顔を見合わせて赤くした後、俺の両の頬にちょん、と口付けた。

 そして声を合わせて答えてくれた。


「あたしを──」

「私を──」


『一生離さないでくれるなら!!』


 俺は優しく強く、2人を抱き締めた。

 もう絶対離さないように。


「ありがとう……!!」


 こうして俺達を取り巻く事件の数々はその幕を閉じた。


 しかし、まだやることは残ってる。

 大事な約束が2つもな。


「エキナ……すぐで悪いが頼みたい事があるんだ」

「分かってます。さぁ、全部終わらせに行きましょうユウ君!」

「あぁ!」


 俺達はエスタード王国内の潮風が当たる墓地──メリア先輩が眠る場所へ向かった。



「いよいよか……」


 俺達は透明の小さなシェルターの中で眠る、綺麗な顔をしたメリア先輩の前に居る。


 ここまで来るのに相当の距離があったが、兄貴がお得意の転移魔法で送ってくれた。


 ルークを傷付けてしまった詫びだとさ。

 ……あいつは結局高坂を殺そうとしていた。


 大変なのはこれからかもな。

 皆を説得しないといけない。


 高坂の為に──


「皆さん、心の準備は宜しいですか?」

「あぁ……頼む……!」


 今ここに居るのは俺とエキナ、それにメリア先輩のご両親だ。


 ルークはやる事があると言って俺達の所には来なかった。


 ライネルさんがエキナに強張った顔で頭を下げる。


「……どうか娘を……!」

「大丈夫……世界中の人達は助けられたんですから……メリア先輩だってきっと……!!」


 そう、エキナは俺が眠っている間に世界中から失われていた命を蘇らせていたらしい。

 あちらの世界の人間までもをだ。


 ……本当に凄い奴だよ。


 真の意味で世界を救ったのはエキナだな。


 俺が一人で感心していると、エキナが奇跡の力を解き放った──


「──覚醒しろ(めざめろ)、奇跡の全てが私の中にある」


 凄まじい眩しさで黄金に輝くエキナ。

 そして高々と右手を上げる。


「……お願い……私に力を貸してセレントちゃん……!」


 ──この中でたぶん、俺だけが気付いた、


 エキナの胸元に俺と似た紋章の輝きが見える。


 ……良かったなエキナ。あの喧しい精霊とまた会えるぞ。

 そう遠くない内にな──


「いきます──」

「くっ……!」


 メリア先輩が眠る棺が白く光り輝いた。

 あまりの眩しさに目を閉じてしまう。


 そして光りが段々と弱まるにつれ、俺の心臓が激しく波打つ。


 ……もしも失敗したら……

 

 そんな嫌な想像が後を絶たない。


 思わず拳に力が入る。


「ユウ君……大丈夫ですよ」


 俯いて震えていた俺の手を、エキナが優しく包んだ。


「ほら──」


 エキナが俺の視線を棺の方へと誘導した。


 そこには──


「……メリア……!!」

「……ぁぁっ……メリア……メリア……!!」


 先輩に抱き付くウィーネ夫妻。

 

 声を出して泣き出す自分の両親を、先輩は同じように涙を流して抱き締めていた。


 その姿に俺はただ立ち尽くすだけで微塵も動けずに居る。


 そんな俺の背中を、エキナが優しく叩いた。


「……ユウ君、行って来て良いですよ。ルークからお許しも出ています」

「……敵わないよ2人には。ありがとう……!!」


 エキナは涙ぐみながら俺を先輩の元へと送り出してくれた。


 僅か数歩の距離だ。

 だがその中で色々考えたよ。


 再会して初っぱな、なんて言おう。

 

 ご両親の目の前ではこれは言えないなぁ。とかな。


 だけど、全部違うよな。

 俺達には誓いの約束があるから。


 俺が先輩が起き上がった棺の前に着くと、夫妻がスペースを空けた。


 俺はメリア先輩を見下ろし、また先輩は俺を見上げる。


 慈愛に満ちた飛びっきりの笑顔で──


「先輩、血は足りてますか?」

「君に全部あげたから返してくれる?」

「……ぷっ……」

「ふふふっ……」

『あはははっ!!』


 俺達は笑い合った。


 再会の言葉が先輩が死ぬ時にくれた血のやり取りだなんて……

 本当、不謹慎な人だよ。


 だけどそれが先輩らしくもあり、吸血鬼である俺にもぴったりでもある。


 まぁ、笑っていられたのは最初だけだったけどな。


「はははっ……ははっ…………っ……先輩……良かった……本当に、また……会えて……!」


 俺は棺の前で崩れ落ちた。

 しばらくの間動くことは出来ず、それを見てまた先輩は笑ってくれた。


 ようやく全てが戻ってきたんだ。


 俺の心にはそんな気持ちで溢れていた。


 ……いや、まだだな。


 俺にはもう一人、迎えに行かなくちゃいけない奴がいる。


 潮風が吹く墓地で誓いの再会を果たした後、もう一つの約束を遂げたのは2ヵ月後の事だった。


 ……そうそう、ライネルさんの拳はめちゃめちゃ痛かったぞ。

 殴られて嬉しかったのは後にも先にもこれっきりだったよ。



「時間を取らせて悪いネ、アデラート」

「いや他ならぬ君からのお誘いだ。無下には出来ないさ」

「……気持ち悪っ」


 あたしはユウとエキナと別行動を取っていた。


 この嫌味な笑顔を携えた男、アデラートと話をする為だ。

 場所はアデラート学園の学園長室。


 向こうは大丈夫。あたしはエキナを信じてるから。


 今頃ユウはメリアと再会して泣きわめいてる頃だろうネ。

 

 ヒヒ……良かったネ、ユウ。


 さてと、あたしはこいつとある交渉をしなくちゃならない。


 ホント仕方ないご主人様なんだから──


「アデラート、あたしの用件は一つ。高坂に手を出さないで」

「……ほう……?」


 アデラートは高坂の名前を出した途端、その表情が氷のように冷たいものへと変わった。


「君を謝って撃ってしまった事は謝罪するし、僕に出来る償いなら何だってするつもりだ。弟に嫌われたくもないんでね。ただその話に対する僕の答えは一つだ」

「言ってごらんよ」

「ノー」

「だろうネ」

「そもそも疑問なのだけれども、君はどうして彼女を守ったんだい?」

「ハァ?」


 何でこいつにあたしの気持ちを言わなくちゃいけないの。

 そう思ったケド、まぁ良いや。ユウの為だしネ。


「ユウがあいつを守りたいと思ってるから」

「愛の力は素晴らしいねぇ。だけどいくら君や夕の頼むでも無理だ。"聖職者達"に関する全ては僕が殺す」

「だったら──」

「……?」


 あたしはアデラートの眼前にとある資料を置いた。


「……!」

「これはあんたの友達に関する情報。"聖職者達"に恨みがあるのはあたしも同じだからネ。あいつらに関する事ならあたしの方が一枚上手だヨ」

「……これを見せてどうするつもりだい」

「これは"聖職者達"に処分された人達のリスト。あたしとエキナはここにある人達を救うつもり。マーネとリースは無理だケド、あんたの友達なら救える」

「……もう何年も前の出来事だよ」

「やってみなくちゃ分からないヨ。良い?一度しか言わないからよく聞いて」

「……」


 あたしはあの孤独な200年を思い返し、一筋だけ涙を流して言った。


「復讐は止めなさい。あの(・・)地獄の中で苦しんでるあんたを見て、ユウも苦しむから」

「……生き返ったら終わり……?あいつらの非道が無くなった事になる……??」

「……」

「ふざけるなっっっ!!!!」

「アデラート……」


 こいつに何があったかは知らない。

 でも気持ちは痛い程に解る。


 だけどこいつはまだ誰にも救いの手を差し伸べられていないだけ。


 あたしには孤児院の皆が、そしてマーネが希望を残してくれた。


 だから今度はあたしが希望を繋ぐ番だ──


「アデラート、あたしはあんたを諦めない。復讐したいって言ってもあたしが止めてあげる。分からず屋なのは血筋みたいだしネ」

「…………どうしてそこまで()に構う」

「ハァ??だから何度も言わせないで──」


 あたしは振り返って部屋のドアに向かいながら、視線だけアデラートに向けた。


「あたしの英雄(マスター)──ユウの為」

「……いつだって、君は夕の為に動くんだな」

「癪だケドネ。でも仕方ないでしょ」

「……仕方ない、か」

「そ。ユウの守りたいものの中にはあんたも居るんだから。そして高坂もネ」

「……そうか……」

「……」


 あたしは何も言わず学園長室を後にした。


 アデラートは随分苦悩していたように思える。


 だけどあたしは気付いていた。


 ──アデラートの黒い魔力に、ほんの少し希望の光が灯っていた事を。



 俺達が帰還してから2ヶ月と少しが経った。


 季節は夏を少し過ぎ、先週と比べても幾分涼しくなっていた。


 俺は休学願いを取り下げ、学園での生活に戻っていた。


「ユウ君、いよいよ今日ですね」

「あぁ……少し緊張してきたな」


 今日はいよいよあいつを迎えに行く日だ。


 ルークによる魔力探知で肉体、魂共に問題無しとされたのが今朝の事だったからな。


 いつもの中庭のベンチに座る俺にピト、と寄り添うエキナは、冷や汗を掻く俺の額を拭う。


「大丈夫ですよ。きっと上手くいきます。ただ……」

「ただ?」

「私は高坂さんと仲良く出来る自信はありませんし、ユウ君を譲るつもりもありません」


 可愛くむくれるエキナに思わず苦笑してしまう。


「……嫉妬か?」

「はい、嫉妬です。私ちゃんと聞いてたんですから。あの時、"大好きだよ遥"って言った事」

「うっ……」

「あれだけ浮気はだめって言ったのに……本当に仕方ない人なんですから」

「ごめん……」


 このまま土下座して、エキナのスカートの中でも楽しもうかと思った時だった。


 目を閉じたエキナが、俺の唇についばむようなキスをした──


「……エキナ……!?」

「ふふっ、顔が赤いですよユウ君」

「お、お前人が居たらどうするんだ!?」

「見せ付けてあげようじゃありませんか」

「お前なぁ……!」


 こいつ、本当に強くなったな……


 ったく……


「ひゃう!?」

「抱き締めるくらい、気にしないよな?」

「……ず、ずるいんですから……」

「エキナ──」

「え、嘘、ユウ君……!!」


 俺は強く抱き締めたまま、エキナの唇に自分の唇を強く押し当てた。


「……んっ……」


 声を出せずにとろんと赤く頬を染めるエキナの表情を堪能していると──


「ほほ~う?こんな公衆の面前で熱い抱擁、キスとは……やるねぇ後輩君!!」

「メ、メリア先輩!?」

「あーどうぞどうぞ続けて?後で私にもしてくれるならね!」

「そ、それは──」

「ユウ君!なに悩んでるんですか!私とルークという者がありながら!」

「聖女ちゃんって本当面倒だよねぇ~お姉さんともっと気楽な関係になっちゃう??」

「ユウ君!?」

「勘弁してくれぇーーー!!」

『あっ』


 俺が2人から距離を取ったタイミングで、2人が本当に「あっ」って感じの顔をした。


 んだよ、俺の後ろに何か──


「ユウ……随分楽しそうだネ??」

「ル……ルーク……これは、ちがっ──」

「──断っ罪!!!」

「ぶごぉっ!!!」


 学園の壁を破壊しない程度に、俺は壁面へと叩き付けられた。


 ……何故だろう。俺はこの痛みを知っている気がする。ぐへっ……


「ほら、いつまでもふざけてないで。そろそろ行くヨ」

「!」


 ルーク……わざわざ迎えに来てくれたのか。

 

 有難いのに素直に礼を言えん、くそ。


「それとも止めとく?100%安全じゃないってのは確かだしネ」

「いや……そんな訳にはいかない」

「なら言う事があるでしょ」

「そうだな……」


 俺は服に付いた汚れを払い落とし、ルークの前に立った。


「ルーク、愛してる」

「それだけじゃ足りない。前はしてくれなかった約束があるでしょ?」

「そ……それは来年やるじゃねーか……」

「ふーん。またあたしを待たすんだ」

「200年に比べたら大したことないだろ?」

「あんなのは二度とごめんだヨ。ユウ──」

「……何だ」


 ルークは俺から一歩離れ、エキナと先輩の真ん中に移動した。


「必ず帰って来る事」

「……あぁ」


 エキナが続く。


「高坂さんにあんまり良いようにされたらだめですよ?」

「……分かってる」


 先輩は2人に遠慮してかルークから少しだけ離れて言った。


「みんなが君を待ってるからね」

「……はい」


 そしてルークは呪文を唱えて魔法陣を俺の足元に発生させる。


「皆、ありがとう……!!」


 俺は必ずまたここに戻る。

 皆が居るここに。


「魔術式──異世界転移!!」


 俺は高坂の待つ、生まれ故郷へと再び世界を渡った──



 俺が気付いたのは思い出の残るあの教室だった。


 ルークの奴、覚えてたのか。


 季節は以前とそれ程変わっていないのか、肌寒さがあった。


 さてと、まずは高坂を探さないと──


「遅いわよ」

「……!」


 俺が教室を出ようと扉に手を掛けた瞬間、初恋の女の子と同じ──いやほんの少しだけ声の低くなった、大人びた女性が俺の後ろに立っていた。


「高坂……か?」

「あら、遥って呼んでくれないの?夕」

「お、お前なぁ……!」


 確かにあの別れ際、名前で呼んだけど!

 ……今さらな気がして妙に恥ずかしいんだよ……


「は、はる……か」

「なーに?夕」

「っ……高坂、待たせてごめん」

「ちっ。……全く、本当に待ったわ」


 こいつ今舌打ちした?

 ま、まぁいいや……


 高坂は最後に会った時よりも子どもっぽさが抜けたと言うか、元々大人びた奴ではあったが、何と言うか垢抜けたって感じだった。


 もしかして──


「あれから何年経った!?」

「……5年、かしら」

「マジか……」


 俺は急速に体が冷えて行くのを感じた。

 5年もの間、俺は高坂に孤独を……!


「分かっていた事よ。あっちとこっちでは時間の流れがぐちゃぐちゃだもの。思ったより早かったとも思っているわ」

「そ、それはそうかも知れんが……」

「……それに、孤独では無かったわ。お母さんと会えたから……」

「……そうか」


 死に別れた母親と再会出来たんだ。

 ある種ホラーかも知れんが、当人達にとっては願ってもない事だろう。

 

 幽霊でも良いから会いたい。

 そんな気持ちは俺には痛い程分かる。


 高坂は「でもね……」と続けた。


「貴方の居ないこの世界は本当に辛かった……!!」


 涙ぐみながら俺の胸元に力なく拳を叩いた。


「貴方の与えた罰は恐ろしく効いた……私はこんな思いを他の人にも与えたんだって……!!」

「……」


 ……もう、高坂を赦してやっても良いよな。


 こいつは苦しんだ筈だ。

 もうこの人生で幾度も。


 こいつのやらかした事は俺達が──エキナが帳消し……まで行かなくても酌量の余地を与えてくれただろう。


 俺は泣き崩れる高坂の肩を抱き、共に涙を流した。


「高坂……お前が良いって言ってくれるならあの世界で皆と一緒に暮らそう。お前の事は絶対守る。今度こそ一人にはさせない」

「……約……束、よ。破ったら……許さない。私を貴方とずっと一緒に居させて……!!」

「あぁ……!ギャンブルは程々にしてくれよ?」

「馬鹿っ……!」


 俺達は強く抱き合った。

 泣き疲れるまで、ずっと。


 そして俺はしばらくしてから高坂を抱えて立ち上がった。


「高坂、少しだけいいか?」

「名前……遥って呼ばないと許可しないわ」

「うっ……は、遥……親父達に書き置きをしておきたいんだ」

「……良いわよ夕。私はお母さんとは別れを済ませて来たから」

「お袋さんも連れていけるぞ?」

「良いの……私は本来この世界にはもう居ない存在だから……」

「そうか……なら悪いが行くぞ──」

「いつでもどうぞ」


 師匠……使わせて貰うぞ。


 俺は魔法陣を展開し、瞬く間に完璧な転移魔法を完成させた。


 ……誰かが憎たらしい言葉で誉めてくれた気がする。


「よし、転移──」


 俺は実家に短く書き置きを残した後、契約の紋章からルークの力を借りて異世界の扉を開いた。


 さよなら、俺達の故郷。


 ──親父、お袋。俺と兄貴は元気にやってるから心配すんな。産んで、育ててくれてありがとう。



 時は過ぎ、異世界の季節は一回り巡った。


 桜が咲き誇り、舞う花びらは俺達を優しく包んでいる。


 今日は結婚式。

 俺とルークとのな。


「ルークぅ……綺麗です……本当に……!!」

「もーエキナ。まだ始まっても無いのに泣かないでヨ!」

「だ、だってぇ~……!!」

「貴女達、うるさいわよ」

「んですって!?」

「はは、まぁまぁそうカッカしなさんなって……」


 俺達は控え室に集まり、わいのわいのやっている。


 ここに居るのは俺とルーク、それにエキナ。

 それからメリア先輩と遥、後は──


「おーうユウ!良い感じじゃねーか!」

「リレミト伯爵、おめでとう。本当に君を手に入れられなくて残念だよ」

「ま、まぁ殿下!私という者が居ながらそのような……ユウ・ジル・リレミト!貴方のせいですわよ!!」

「ユウ、おめでとう。メリアの時も期待しているよ」

「ちょ、色々キャパオーバーなんですが……」


 どこからツッコミを入れたらいいか分からない……


 とりあえず分かるのは……

 レオン、オリウス、縦ロール、ライネルさん……だよな。


「……貴方、今私に無礼な思考を持ちませんでしたか?」

「め、滅相もない!」


 こいつ最後にエスパーキャラぶっ込んでくんなよ!


 はぁ……もういい。後居ないのは──


「オリウス、レインさんと国王は?」

「あぁ2人なら神父と司会進行の確認中だよ」

「……国のトップの仕事じゃねーだろ……」

「何言ってるんだい?世界の英雄と伝説の吸血姫との結婚だよ?むしろ誇らしい事だよ」

「さいですか……」


 もう諦めたよ畜生。


 さて、残るはあのアホ兄貴か……


 ま、良いや。そろそろ時間も無いしな。


「ルーク、それじゃ俺は先に行ってるぞ?」

「……あ、うん。また後で……」

「? じゃあな」

「あ……うん……」


 何だ?何か言いたげだったが……

 

 言いにくい事だったのだろうか。

 まさかやっぱ止めるとか!?


 もしもそうなったら一生もんのトラウマだな……


 エキナの結婚式をぶっ壊して今更ながらに申し訳なく感じてきたや。


「ハァ……」



「ルーク……言わなくて良かったんですか?」

「……だ、だって……」

「ルークのそういう所も可愛いですが、"愛してるって言って欲しい"なんていつものルークなら言えるでしょう?」

「……み、皆も居るし……それに200年越しの夢が叶うと思ったら、緊張しちゃって……」

「か、可愛いすぎます……!!」


 もーエキナ、バカにしてるでしょ!?


 うぅ……純白のウエディングドレスを着るだけで心臓がヤバいのに、あんなのユウに言えないヨ……


 それに……


「エキナ……良かったの?あたしが先に式挙げて……あたしは一緒でも……」

「そんな訳にはいきません」


 強く否定したエキナは、あたしの両肩に触れてまた涙を流した。


「ルークが積み重ねた日々がようやく実を結ぶんです。今日だけは、ユウ君はルークだけのものですから……!」

「エキナ……ありがとう……!」


 思わずあたしまで泣きそうになっちゃった。


 だけど、それをあの女が邪魔をする。


「やれやれ情けない。私が代わってあげてもいいのよ?」

「あんたは最後まで……!」

「……ハァ……全く。夕のあんなに幸せそうな顔を引き出せるのは貴女だけなのだから、しっかりしなさい」

「……!」


 ……フンッ。最初からそー言えっての。


「素直じゃないんだから……」

「お互いに、ね」

「……それは否定しないであげる」

「……ふふ」

「……ヒヒ」


 そして最後、メリアがあたしの前に立った。


「ルークちゃん、君には感謝してる。だから……その……」

「ハイハイ、あんたの事も認めてあげるってば。ただし!!」

「……?」


 あたしはいつもの調子を取り戻し、エキナを含めた3人を笑顔で睨み付けてやった!


「ユウの永遠の恋人はあたし!!1番の座は譲らないヨ!!」


 その言葉に、全員の瞳にメラメラと燃えるものが生まれたのを感じた。


「ルーク、今日だけですから!その後は私が1番です!!」

「小娘達うるさいわよ。ま、今日だけは譲ってあげるわ」

「わ、私だって!いっぱい魅了してやるんだから!!」


 あたしは心の中でやれやれと思いつつも、こんな未来があって良かったとも思う。


 マーネとリース、それに孤児院の皆があたしに紡いでくれた、輝かしい未来がネ!!



 エスタードパークから少し離れた、大きな桜の樹が聳える優しい風の吹く墓地。


 俺達が結婚式に選んだのは太古の英雄の墓の前だ。


 そしてまさかのルークのバージンロードを共に歩いたのは兄貴だった。

 ……あいつ、いつの間にルークと仲良くなったんだ?


「汝はこの者を妻とし、健やかなるときも、病めるときも──」


 神父役を買って出た国王が誓いの文言を言い連ねているが、俺の耳にそんなものは入って来ていない。


 何故ならさっきからルークが一瞬足りとも目線を合わせてくれないからだ。


 ……うぅ……やっぱり嫌だったのか!?


「……ヒヒ……ユウ緊張してるの?」

「……!」


 ベールの奥からようやく俺と目を合わせてくれたルークは、悪戯に微笑んでいる。


「……だ、誰のせいだと……」

「あーあたしが嫌がってるかもって?ほんっとヘタレなんだから」

「う、うっせ」

「嫌がる訳なんかないのにネ──」

「え……?」


 ルークが不意に神父の方を見た為、俺も慌てて続いた。


「こほん。我らが英雄殿は今すぐ新婦との情事に踏み込みたくて仕方ないようだ。ならば望み通りしてやろう──」

「お、おいオッサン、なにを!?」

「ベールを上げたまえ」

「急に雑になったな!?後指輪は!?」

「おぉ、忘れてた。ほら、さっさとしたまえ」

「こいつ……後で泣かせてやる……」


 俺は契約の紋章が浮かぶ、ルークの左手を取った。

 そして薬指にそっと指輪をはめていく──


「……200年……ずっと待ち続けた」

「……」

「……あいつがあたしを一人にして、ユウと出会って……ユウに恋して……」

「……」

「あたし、こんなに幸せで良いのかな……!もうこれ以上幸せな事なんかあるのかな……!」

「──ルーク」


 バカ野郎、これから一緒に幸せになっていくんだろ。


 俺は、そっとベールを上げた。


「色々あったな。お互い死ぬような目に遇いながらさ」

「そだネ……」

「でもそのどれにもお前が居た」

「……勝手にどこかに行っちゃう癖によく言うヨ」

「拗ねてんのか?安心しろよ──」

「……」

「もう二度とお前から離れてなんてやらない。嫌がったって無理だぞ?」

「……言ったヨ?」

「あぁ、俺はお前を愛してるからな。一緒に生きて一緒に死ぬ。ついさっきも誓った事だしな」

「なら、約束を果たしてヨ。ユウ──」

「あぁ、ルミナス(・・・・)──」


 俺は目を閉じたルークに、優しく口付けをした。

 約束通り、皆の前でな。


 唇を離した後、俺達は頬を赤く染めて笑い合った。


「ユウ……これまでも、これからも、何百年経っても──」


 太陽に照らせれた月の輝きのように眩しい笑顔は俺を惹き付けて止まない。


 あぁ……俺はこの先、そう、何百年経ったって飽きる事なくこの女の子に魅せられるんだろう──


「ずっとずっと、大好きだからネ、ユウ!!」


 返事の代わりに強く彼女を抱き締めた時、美しく散る桜の花びらが俺達の新しい門出を祝うように激しく吹き荒れた。

 

 俺達の行く先はいつだってこんな様相だと言わんばかりに。


 それでも良いさ。


 何度だって守ってやるから。

 世界最強の吸血姫が居る限り。


 なぁ、そうだろ?


 俺の問い掛けに答えるように、英雄の剣が黄金に輝いていた──



 完

お読み下さりありがとうございます!


大変長らくお待たせして申し訳ありません、ようやく異世界吸血鬼は今回を持ちまして終了です。


色々書きたい事もありますのでぜひともこの後上げる活動報告にもお目を通して頂ければ!


それでは最後に、ここまで読んで下さった皆様本当にありがとうございます!!


少しでも良いと思って頂けましたら☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えたり、いいね、ブックマーク等頂戴出来ましたら幸いです!



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